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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第五章 連 戦
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カウンター・バッテリー

「は~い。クマちゃん、お疲れ様~」

「あ、先任。ご苦労様です」

 FARP長は、トーシュカ整備先任だ。

「ジルベルトは中よ~」

 ジルベルト? ああ、ハーレーか。パイロットは日頃からタック・ネームでお互いを呼び合ってるから、本名がパッと出てこない事が多いのよね。

「了解です」

 幌に覆われたトラックの荷台によじ登る。中は薄暗く、奥には手製の架台が据え付けて有り無線機が搭載されている。

「おう、来たか」

「はい、異常ありません。CP(指揮所)から何か指示ありました?」

「いや。トーシュカ先任も、特に命令や指示は預かって来て無いそうだ」

「小隊長殿、これを―」

 わっ、びっくりした。荷台の奥にもう一人いたわ、見ない顔だから多分演習統裁部から派遣されたハザフエリ軍の補助官ね。ハーレーに何かを手渡している、統裁部からの指示書だろうか。

「何て?」

「ふむ…、カウンター・バッテリーだとさ」

「? バッテリー?」

「対砲迫戦闘だよ」

「砲迫?」

「そう、敵の戦車連隊にくっついてる砲兵大隊を叩けって事」

「大砲の部隊ですか」

「ああ、自走榴弾砲だな。

 ところで補助官殿、当然SEAD(シード)は掛けてくれるんでしょうね」

「いや、その予定は無い。自前で何とかしてくれ」

「はあ~、冗談だろ…」


「ねえ先任、しーどって何?」

 一応話の腰を折らない様に気を使って、荷台に戻って来ていたトーシュカ先任へ疑問をぶつける。

「SEAD(シード)って言うのはねぇ、Suppression of Enemy Air Defense(サープレッション・オブ・エネミー・エア・ディフェンス:敵防空網制圧)の事よ。その名の通り、敵の対空防護組織に対して制止・制圧攻撃をする事ね~」

「はあ、そうなんですか」

「あら~、良く解ってないみたいねぇ。一般的に砲兵部隊にはね、手厚い対空の傘が掛けられてるのよ」

「なる程、近くには寄りたくない相手ですね。

 まあ自走式って言っても、砲兵部隊なんですからASR(空対地ロケット)をバラ撒いて射程外がら制圧すれば―」


「任務は分かりましたが、補助官。共同部隊の火力戦闘計画はどうなってるんです、それとFO(前進観測員)からの情報は?」

「あー、この任務は貴隊の単独任務である。よって射撃の観測その他必要な事項は全て自前で行って欲しい。勿論、敵砲兵部隊の占領陣地については概ねの座標であるが、情報提供させて貰う」

「へ? AH(戦闘ヘリ)による単独任務だって。いや、そりゃあ遣り様は幾らでも有るが、統裁部は我々に何を求めてるんだ」

「統裁官からは、手加減無用との事である」

「う~ん… ま、そういう事なら了解した」

「それでは、これがその座標だ。後はよろしく頼む」

「よし。先任、今の兵装は」

「多目的兵装よ」

「それじゃ俺の機体は、対機甲兵装、ジュリエットの方は対地制圧兵装に変換してくれ。まあ、小隊って言っても実際は2機しかいないからな。俺の機体にミサイルを多めに搭載(勿論データ上)する事になるんだが」

「了解よ~」

「ジュリエット、タブレット端末は持って来てるな。

 今から手分けして戦闘計画を作るぞ、大至急だ。

 敵の座標を打ち込んだから、お前はここからの機動経路を作れ」

「了解」

 私はタブレットに電子地図を呼び出して、その上に作図を開始する。

 ハーレーは、BP(攻撃位置)とKZ(キルゾーン:撃破地域)を見積もっている。

「全く、ワイルド・ウィーズルの真似事をするとは思わなかったぜ」

「ワイルド・ウィーズル?」

「ああ、米空軍のSEAD(シード)専任部隊さ」


【ワイルド・ウィーズル】

 米空軍における、SAM(地対空ミサイル)の発見及び制圧を専門とする航空機/航空部隊の事である。その名から使用する機体のテールレターは伝統的に〈WW〉となっている。

 ワイルド・ウィーズルの任務は、攻撃部隊に先行して目標地域にあるSAMの注意を逸らすか、その脅威を取り除く事であり、その戦歴はベトナム戦争に迄遡る事が出来る。

 敵のSAMサイト(地対空ミサイル発射施設)の攻撃がその任務であったのだが、当初の戦術は自分自身を囮とするものであった。

 ワイルド・ウィーズルの戦い方は、敵のSAMサイトに対して対レーダーミサイルによる攻撃が主な手段だったのだが、対レーダーミサイルを使うと云う事は当然敵がレーダーを使用していなければ攻撃のしようが無いと云う事である。敵の発見も、ミサイルの誘導もSAMサイトのレーダーを先ず探知する事から始まる。

 その為ワイルド・ウィーズルが取った行動が、敵のミサイル攻撃を受ける危険を無視し、わざとレーダー妨害を行わない事だったのである。これは、自分自身へと照射されるレーダーを標的とする非常にタフな仕事と言えよう。

 現在は使用する装備も改善され、妨害と攻撃を同時に行う事も可能となっているが、敵の防空網に真っ先に飛び込んで行く事に変わりは無く、且つ戦闘空域を離脱するのは最後という過酷かつ非常に重要な任務である。

 ワイルド・ウィーズルの搭乗員が身に付けるパッチには「YGBSM」という語句が刺繍されており、それは「You Gotta Be Shittin ,Me」という搭乗員の(非公式の)合言葉である。意訳すれば「信じられねえ!」や「嘘だろ!」位の意味となる。


「え~、そんな専任の部隊がいる任務を私達がやるんですか」

「何言ってんだ、湾岸戦争では陸軍のアパッチが開戦直後、一番最初にイラクのレーダー・サイトを攻撃してるんだぜ」

「それじゃ、ワイルドなんとかは何してたんですか」

「ワイルド・ウィーズルな。

 そいつは第2段作戦からさ、第1段作戦で敵の重要施設を破壊して、第2段作戦で敵の防空施設と空軍の無力化を図り航空優勢を確保。その上で第3段階、敵の地上戦力を撃破って計画だったんだよ」

「あれ? 湾岸戦争ってステルス機が実戦投入されたんですよね、確か。

 なんかステルス機が一番初めに攻撃したってイメージだったんですけど、違うんですね」

「確かにステルス攻撃機のF―117が大きな戦果を挙げたのは事実だけどな。ディープ・アタックって聞いた事あるだろ」

「ええと、確かエアランド・バトルの要素ですよね」

「そうだ。ドイツの電撃戦から、戦いは前線から後方へと順番に進む時代じゃ無くなったのさ。確かに、湾岸戦争の一番槍は陸軍のアパッチによる前線のレーダー・サイト奇襲だったけど、ほぼ時を同じくしてステルス攻撃機のF―117が厳重な防空網に守られた首都バグダッドの防空戦闘指揮所などの重要施設を攻撃しているんだ」

「ステルス機が有るのに、アパッチでレーダー・サイトを攻撃したんですか」

「多国籍軍の航空戦力は何もステルス機だけじゃ無いさ。従来型のF―15EやF―111E、F―16Cそれに海軍のF―14、F/A―18C、A―6Eもある。それとイギリス、フランス、サウジアラビアのトーネードやジャガー、ミラージュ、A―4スカイホークなんかもね。

 とにかく、ステルス攻撃機のF―117は、全体のたった2・5パーセントに過ぎなかったんだよ」

「なる程です」

「因みにアパッチの攻撃によって出来た隙間は、スカッド陣地を攻撃に行くF―15E編隊が通過するのに必要だったのさ。

 それより、口はいいから手もうごかせよ」

「はいっと、機動経路出来ました。確認お願いします」

「どれどれ、ふむ。

 よし、良いだろう。後は、こことここにホールディング・エリアを追加だ」

「了解」

 ホールディング・エリアとは、その名の通りホールド(待機)するための空域の事だ。戦闘計画ではタイム・テーブルも作成するが敵の行動は予測に過ぎず、当然だが様々な理由で計画に遅延が生じる事もある。そんな時はBP(攻撃位置)近傍のホールディング・エリアを使って攻撃開始のタイミングを計るのだ。そんな時は大抵、経済巡航速度で旋回待機をする場合が多い。

 その他の使用例としては、バラバラになった編隊の再集合ポイントなどに用いられる場合もある。


「よし、俺も完成だ。やっつけだが仕方ない、適時性って奴だな。完璧を期してタイミングを逃してちゃ本末転倒だ。

 そっちのデータを転送してくれ、こっちで最終確認してデータをがっちゃんこ(統合)する」

「はい、どうぞ」

「OKだ―

 よし。じゃあ、もう一度簡単に説明するぞ」


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