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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第五章 連 戦
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FARP

戦闘機乗りは敵と戦い、これに必ず勝たなければならない。千回に一回の負けがあったとしても 、その負けは死であり、それ以後自分というものの存在はこの地球上から完全に消えてしまう。

 上手なものは下手なものに勝つのが常道である。それは常に敵より優れた操縦者でなければ、生命を貫くことが出来ないと言う事であり、これが戦闘機操縦者の宿命である。


                        陸軍航空隊 軍曹 三浦 泉




 想定上機体に搭載されていた数のATM(対戦車ミサイル)を撃ち尽くした私達は、戦場を離脱して予め用意していた地点へと向かっていた。

 さっさと飛行場へ帰りたい所だけど、実は帰投の為の燃料が足りないのだ。でも心配は無用、これは計画された行動なのである。

 ヘリの燃費が悪いのは今までも散々言って来たけど、それじゃあ足の短さをどうやって克服したらいいのか。

 戦闘時間を確保する為に部隊を前線の近くに展開させる? それも一つの手だけど、さすがに限界がある。そもそも地上に駐機しているヘリ程脆弱なものは無い、まあそれはヘリに限らず空を飛ぶモノ全般に言える事だけど。

 ヘリコプター部隊の展開地その物を前線近くに持って来るにはリスクが大き過ぎるけど、その機能の一部を一時的に前方へ押し出すんだったらどうかしら。

 それが〈FARP〉(ファープ)である。


【FARP】(Forward Arming Refueling Point ファープ:(前進)燃料・弾薬再補給点)

 読んで字のごとく、燃料タンク車と弾薬を積んだ車を前線近くへ派遣して臨時の再補給ポイントを開設する事である。


 間もなく指定座標だ。私達は敵の対空火器による攻撃を用心し、高度7000ftフィート以上をキープしている。

『オアシス、オアシス。こちらサーペント、感明送レ』

 〈オアシス〉はFARPファープの無線呼び出し符号(コールサイン)だ。FARPには通信車が随伴している事が多いが、その理由は空中部隊との遣り取りが必要なのは当然として、派遣元の本隊との連絡を確保する為でもある。

『サーペント、こちらオアシス。感明良好、受け入れ準備は完了している。到着予定送レ』

『オアシスへ、ポイント・ゼブラを通過した。進入は3分後を予定する』

『オアシス了解。FARPに敵状無し。風は概ね270°方向、弱し。進入問題無し』

『了解、サーペントは計画通り東から西向き進入。

 ジュリエットは間隔を取れ』

「4」(フォー)

 今は、ハーレーと2機でフォーメーションを組んでいるけど、そのままFARPに着陸は出来ないから編隊を解き、ある程度の間隔を取って進入しなくちゃならない。

 予めブリーフィングで着陸間隔は1分って決められている。だから、えーと…

「プリンス、30ktノット減速してちょうだい。今150ktだから、120ktよ。タイムチェック、1分後に速度を戻して」

「了解。IRジャマー(赤外線妨害装置)はオフにするか」

「え、なんで?」

「いや、FARPファープじゃ燃料補給するだろ。IRジャマーを点けっぱなしはマズイんじゃないか」

「あ~、その事ね。そのままでいいわ、サーペントはDIRCMだから平気よ」

「D?」

「そう。Directional Infrared Counter measure、指向性赤外線対抗手段よ。

 従来型のIRジャマーって攪乱用のIR波を機体近傍に投射するタイプだったでしょ。

 でも、この子に搭載されてるのは最新型なの。つまりIRレーザー光をミサイルに直接照射する事で相手を無力化するって訳」

「仕組みは分かんないけど、了解した」

『サーペント・リーダー、進入開始』

『オアシス、了解。風は変化なし』

「よし、私達も1分後に進入よ。

 コース良し、このまま直進して。進入諸元1000ft、80kt」

「了解、進入諸元にセットする」

 視界はNVS(Night Vision System:夜間暗視システム)による赤外線画像がヘルメット・バイザーに投影されている為、ほぼ昼間と遜色無いレベルで確保されている。が、しかし初めて降りる場所だ、慎重に行こう。

 地上はなだらかな平原が広がっている、ピンポイントで現在地を判断できる様な地形は無いがGPSと連動したマップで進入開始地点の通過を確認する。

「進入操作、開始する」

「了解、高度1000・速度80」

 プリンスにアプローチのアシストをすると同時にオアシスへも通報、

「オアシス、サーペント09進入する」

『オアシス了解、進入支障なし』

『ジュリエット、ハーレー。スポットクリア』

「4」

 先に進入していた1番機が無事アプローチを終了して、再補給用の接地点へとホバリング移動を開始した様だ。

 アプローチ用のスポットは充電式のランタンが4個、十字型に並べて置いているだけである。パイロットはその4個の光を使って、丸い円の仮想スポットを頭の中にイメージして進入するのだ。

 十字の光の縦方向のつぶれ具合で進入角度を、左右方向の歪みで軸線をそれぞれ判断しなければならない。

 ランタンとは言ってもその明るさは通常イメージするものでは無い。NVS(ナイトビジョン・システム)に合わせてある為、当然裸眼では目の前にあっても点灯しているかどうか判断出来ないレベルになっている。

 因みにランタンの輝度は、裸眼の場合でも進入を開始した段階ではまだその光を目視する事は出来無い。何故なら、敵から味方の位置を秘匿する為に輝度を落としているからである。

「700ft通過」

 予め計画された地点から、計画通りの軸線方向を維持してアプローチを開始したものの、ランタンの光が見えるまでは不安をぬぐい去る事は難しい。出来れば着陸のやり直しなど避けたい所である。

 まあNVSの使用で地形の把握は問題無いから、障害物に激突なんて事が無いのは有り難いが。

「高度650、見えた! そっちはどうプリンス」

「インサイト。軸線やや右、修正する」

「ふう、一安心ね」

 これが裸眼でのアプローチだったらと思うとゾッとする。ランタンの光が見える迄は、何もない暗闇へ向かって、ひたすら降下して行くしかないのだ。

 NVSを装備しているサーペントではあるが、パイロットとしては裸眼での訓練も定期的に実施している。夜間、生地へのアプローチ。私はこの恐怖を一生克服出来ないのでは無いかと思っている、いやホント。


 ランタンが見えてからは、スムーズなアプローチが出来た。ま、操縦はプリンスだったけどね。

 後は補給点への移動だ。飛行場と違って地面は平らでも無ければ、植生もある。だから、その辺を考慮した高度を保つ必要がある。そもそもランタンが設置してあった場所でさえ応急的に地面を均して、進入方向にある邪魔な低木の一部を伐採しただけ、当然そこに直接接地など出来ない状態だった。


 補給用のスポットは、北側へ30m程移動した場所にあった。何事もなく接地した私達へ整備員が近づいてくる、勿論エンジンは回しっぱなしである。

 燃料補給の際も一々エンジンを切る必要は無い。機体の給油口とタンクローリーからの給油ノズルが特別製なのだ、所謂ホット・リフューエルという奴である。弾薬の再補給についても同様にエンジンは回しっぱなしだ。

 もしここが自分達の為の訓練だったら、射耗した分の擬製弾(形状は勿論、重量を実弾と同じに再現した模擬の弾薬)を同時並行で載せ替え(実際には射耗していないので、当初から搭載してあった物を下ろして、準備している物と載せ替える訓練を)するのだが、今回は交戦装置へデータとしてリロードする形となる。

 エンジンの騒音が酷いので、整備員との遣り取りはハンド・シグナルだ。どうしても複雑な事を伝えたい時は、自分のヘルメットのマイクに口を寄せて喋ってもらう手もある。

「プリンス、私は一旦降りて状況を確認して来るから後はよろしく」

「了解」

 私は機長として再補給の合間を縫ってFARPファープ長の所へ徒歩で移動する。

 FARPは展開も撤収も迅速さが要求されるので、仮の指揮所といえど天幕などは展張しない。2機のサーペントが着陸している後方、少し離れた場所に中型の軍用トラックが偽装されている。車両の荷台から長いアンテナが数本立っている、あれが通信車で間違い無いだろう。FARP長はその近傍で補給状況の全般が確認出来る場所にいる筈だ。


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