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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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撃破の基準は「損耗30%」

 変化は劇的だった。ハーレーの指示通りLRF(レーザー測距装置)を敵の戦車へ撃ち込んだ瞬間、その戦車は煙幕を展張した。

 それまで私達の攻撃に全く反応しなかったのが嘘の様だ。

「おおう、スモークだ」

「プリンス、FP(射撃位置)変換よ。

 これで、相手も私達を無視出来ない筈だわ」

「了解」

 私達の攻撃と時を同じくして、敵の先頭集団でもスモークが上がり始めた。ハーレー達の攻撃だ。

 ハーレーと私達は敵の部隊を左右に挟んでるから、上手くすれば敵の意識を更に分散させられる。

『ジュリエット、ハーレーだ。

 レーザーはミサイル攻撃を模擬しているって設定で統裁部へ報告している。

 くれぐれも、調子に乗ってレーザーの発射回数がミサイルの搭載数を超えない様に注意しろよ』

「4」(4番機、了解)

 えーっと。今の私達っって、兵装は対機甲だったよね。

 うん、だから対戦車ミサイルは6発。それでもって、私の分隊は分隊って言っても2番機が離脱しちゃってるから1機だけ。設想上は、え~と、6発分のレーザー照射が可能って事ね。

 さて、敵の戦車は私達のレーザー照射を受けて分散を始めてるわ。スモークを展張した戦車は取り敢えず停止して姿を眩ませようとしてるし、それ以外の車両も大分速度が落ちてる。

「プリンス、時間が経つほど相手もショックから立ち直っちゃうわ。とにかく撃ちまくって最大限にこの奇襲効果を利用するわよ」

「了解だ」

 レーザーも半分の3発を撃つ頃には、KZ(キル・ゾーン:撃破地域)内はスモークによって大分視界が制限されて来た。

 夜間だからか戦場の環境は静穏で風の流れが殆ど無い様だ。スモークには従来からの機能である煙による視界の制限に加えて、最近ではIR(赤外線)に対する妨害も付加されているから、サーペントの夜間暗視機能でも見通す事はとても困難だ。

 但し、風が無いとはいえ所詮〈煙〉である。時間が経てば効果は消滅するだろう。

『ジュリエット、ハーレーだ。

 残弾が3発か、増槽が空になったら報告しろ』

「4、ATM(対戦車ミサイル)残弾3」

『リーダー、了解』

 あ、そうか。今回はスタブ・ウイング(スタビライザー・ウィングの略:胴体の左右に付いている小翼でミサイル等の武装、燃料増槽、電子戦器材等を取り付けるハード・ポイントを有する)に増槽(増加燃料タンク)を吊って来てるけど想定上は増槽無し、展開地を燃料が1200lbsポンドで離陸したって事になってるんだった。

 燃料は常に考慮事項の上位に有るわ、ジェットエンジンの一種であるターボシャフトエンジンは燃料をドカ食いするの。ターボシャフトエンジンの燃料消費は、逆さにしたペットボトルからこぼれる水って思って貰うとイメージし易いかな。

 長大な滑走路を必要とせず、垂直に離着陸出来る機械としてはヘリコプターって最も効率的な機構を持ってるんだけど、逆に水平に飛ぶ場合の速度は固定翼機に及ばないのよね。速度が出ないって事は、航続距離が稼げないって事よ。だから、V―22オスプレイなんて言うティルトローター機が開発されたりするんだけど。

 あ、話が逸れちゃったわね。だから、私達は無限に戦場に滞空出来る訳じゃ無いって事、まあ当然よね。

 そんな訳で相手がルールを無視しても、私達はその辺キチンして無きゃダメ。なんせ教導部隊なんですから。


          ◆


「連隊長、報告です。敵のヘリボン対処に向かった第3大隊ですが、攻撃ヘリにより深刻な被害を受けた模様です」

「何だその報告は、具体的な被害状況は分からんのか」

「は、どうも大隊長車が撃破されてしまった様で。指揮を引き継いだ者も事態の収拾と現状の把握が上手く出来ていない様です」

「うむ、分かった。

 第3大隊へ伝えよ。命令に変更なし、速やかに部隊を掌握し対ヘリボン戦闘を実施せよ。だ」

 深刻な被害だと、第3大隊め。しかも大隊長は戦死か若しくは指揮不能の状況らしい、〈要領は1番の3大隊〉が裏目に出たか。今更だが手元から離すのは堅実な第1大隊にすべきであったやもしれぬな。

「第3大隊から続報来ました。損害、撃破の判定を受けた戦車は大隊長車を含む14両、その他4両が大破。戦闘能力を残している車両は13両」

「31両中18両が戦闘不能だと、確かに深刻な被害だな」

 しかも報告が『~の判定を受けた』とは、第3大隊は演習をしているという考えが頭から抜けておらぬらしい。全く嘆かわしい、自分の指揮能力の限界を見せつけられてる様だ。

 大隊の将校連中も決して油断していた訳ではなかろうが、根本的な努力の方向が違っていたらどうしようもない。

 その結果が戦闘不能18両なのだろう。

「連隊長、第3大隊は戦車の損耗が30%を超えていますが」

「確かに戦術的な一つの尺度として、部隊の30%が損害を受けた場合、その部隊は組織的戦闘能力を失い、撃破されたと見做される。しかし、現に敵に突進している戦車大隊が31両中、18両を失ったとして戦闘を放棄するか?

 自分の手元にまだ13両の戦車が有るのだぞ、杓子定規に基準を鵜呑みにしていては戦争には勝てんぞ。

 ここは、ちと厳しいが第3大隊に頑張ってもらう他無い。まあ、最終的な判断は現場の指揮官に委ねられる所では有るがな」

 今回の件、大隊長以下第3大隊の隊員には得難い経験になるだろう。いや、連隊全体として経験を共有しなければならないな。

 と、まだ戦いは終わっておらぬ。私も、もう少々気を引き締めねば。

「連隊長、補助官から無線が入っています」

「よし、繋げ」

『連隊長へ、こちら統裁部補助官です。連隊のこれからの作戦行動について確認したいのですが』

「うむ、側衛の第3大隊はこのまま敵ヘリボン部隊を攻撃させる。

 連隊主力は先程前衛が接触した主力と思われる敵部隊に対して攻撃を行う。但し、目標は敵の連隊段列(兵站部隊)とする。可能な限り敵の主力との接触を避けると共に、砲兵火力によって、敵主力の展開を阻止し、併せて後続部隊を遮断。相対的戦闘力の優越を獲得するつもりである」

『では、第3大隊に増援は』

「その予定は無い」

『了解しました。少々お待ちください、統裁官(今演習を取り仕切る総責任者)に報告いたします』

「うむ、了解だ」


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