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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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レーザー照射!

「連隊長、報告。第3大隊が敵と接触した様です」

「相手は何か」

「は、ヘリボンによって降着した大隊規模の部隊と思われます」

「ふむ。先程接触したヘリの本隊と言う訳だな」

「はい。当初ヘリを発見した地点からはやや離れておりますが、側衛を務めている第3大隊の針路からは―」

「連隊長!報告です」

「何だ、緊急か」

「連隊主力の前方を先行している尖兵中隊が攻撃を受けました。

 取り敢えず第1報です」

「よし、分かった。連隊は警戒を厳にしつつ引き続き前進。

 尖兵中隊へは攻撃して来ている敵の規模を探らせよ」

 嫌なタイミングで仕掛けて来おったな。連隊の側衛たる第3大隊方面にヘリボン攻撃、そして主力のこちらへは…

 うむ。これからの情報次第では有るが、こちらが敵の本命と見て間違い無いであろうが、さて。

 2正面作戦は避けたい所ではあるが。先ずはヘリボン攻撃への対処、第3大隊の運用だな…。

「連隊長、連隊主力の前衛を務める第1大隊からです。先程尖兵中隊と接触した敵は、レーダー搭載の装甲車を含むBTR(装甲歩兵戦闘車)が中心で戦車は確認出来ず。です」

「よーし、1大隊長へ伝達。真面目に戦う必要無し、相手も偵察が目的だろうからな。当然後方に主力が控えている筈だ、もたもたしていると食い付かれるぞ」

「はい」

「いや、待て。私が直接話す。

 ― 第1大隊長、連隊長だ」

「1大隊です、連隊長。現在大隊は敵の砲撃を受けております」

「おう、正しくそれは敵主力の前衛だな。損害は」

「はい、軽微であります。実際に対峙している相手は殆どが装甲歩兵戦闘車と思われ、砲撃による遅滞行動で本隊か増援到着迄の時間を稼ぐつもりではないかと」

「よし、我々がそれに真面目に付き合う必要は無い。

 可能ならば、現在敵と接触している中隊に敵との間合いを切らせ大隊に収容せよ。夜間戦闘である、各個撃破されぬ様部隊をしっかりと掌握せよ」

 さて、次はヘリボン部隊に対している第3大隊の対応も決めなければな。全く時間が足りんわ、第3大隊には側衛という任務の特性上、燃料・弾薬を増加携行させておる。このまま単独で対処を任せるべきか…

「第3大隊の状況はどうか」

 第3大隊については少々距離が離れ過ぎて通信車経由でないと連絡が付かないのがまどろっこしい。

「は、現在第3大隊は敵ヘリボン部隊と接触した中隊に合流すべく前進中です」

「よし、伝達。第3大隊は敵ヘリボン部隊の降着後の弱点を捕捉、戦機を逃すことなく撃滅せよ、主力は継続して計画通りの経路を前進する。以上だ」

「は、了解致しました」

 それにしても、航空部隊と連携出来る敵が羨ましい限りだ。掩護部隊の投入にせよ、敵の後続遮断にせよヘリコプター火力が有れば随分と楽になるのだが。更に言えば、今敵が使っている手の様に、緊要地形を敵に先立って占領する手段としてヘリボンを使う事もそうだ。

 軍の派閥や政治的立ち位置から、陸軍航空に対して否定的立場を取る身では有るのだがな。

 それでも、分かってはいるのだ。現代の陸戦において、航空戦力が如何に重要であるか。そう、ある程度の頭が有ればそんな事は自明の理、しかし。

 しかし、である。ソ連の崩壊から独立に至るわが軍の混乱の中、全てを手に入れる事は不可能な事であった。何を取って何を諦めるのか。

 理想や絵空事では無く、現実にこの国を守って来たのは我々であるとの自負は微塵も揺るが無いが、最近もしかしたら時代は変わりつつ有るのかもしれないと思わないでも無い。

 今その事について、ああだこうだと思い煩っている様な時では無いが…

 何れにしても、この演習に全力を尽くして部隊を鍛え上げるのみだ。


          ◆


「進め進め!

 いいか、一番の脅威に向かって突っ込むんだ。中途半端な守りは却って己の身を危険に晒すぞ」

 俺は、大隊の目たる尖兵中隊が敵のヘリボン部隊と交戦したとの報告を受け、直ぐに大隊の行進速度を上げさせた。そこへタイミングよく連隊長からの命令も届く、自分の判断は連隊長の企図を過たず体している。

 敵に対応の暇を与えてはいけない、今こそ戦車大隊の衝撃力を敵に叩きつける時である。

「大隊長から、大隊各車へ。夜間戦闘である、友軍相撃の危険極めて大なるものの、落ち着いて行け。訓練通りだ。

 それともう一つ、未だ報告は上がって来てはいないが攻撃ヘリは必ず居るものと思え、対空の見張りを怠るな」

 敵の攻撃ヘリは厄介だ。大隊にはZSU23―4(自走対空車両)が随伴してはいるが、発見出来無ければ攻撃のしようも無い。そして、行進中の車両からの空に対する見張りは正直厳しいものが有る。

 そもそも、ZSUを随伴させている事が宜しくない。ただでさえ数が少ないZSUである、対空の傘を効果的に利用する為には、対空火器は経路上の要点に先行配置しておくべきなのだ。理由は、どうしても地形や植生によって視・射界が制限を受けてしまうからである。従って行進経路が決定されたなら、防空中隊は予め地図上で制高点を明らかにし、それを十分に活用できる計画を立てるのだ。

 ただし、今回の様な対ヘリボン戦闘ともなればそうも言っていられないのも又事実なのだが。

「急ぐぞ、少々脱落する車両が出てもこの際仕方が無い。

 敵のヘリボン部隊が組織的戦闘力を発揮する迄の時間は概ね30分程度だ。ただし見積上はそうでも、それ迄全くの無力かと言えば当然ながらそうでは無いからな」

「はい」

 降着したヘリボン部隊が戦力を発揮出来る迄の所要時間は、大隊規模で約10~15分である。しかし、夜間である事を考慮すれば倍の30分と見るのが妥当だろう。

「所で、砲兵はどうなってる」

「は、間もなく陣地占領かと」

「よし」

 今の所大きな問題は発生していないが。

「隊長、模擬交戦装置の受感部に細工して正解でしたね。これで敵の航空攻撃に対する注意配分が大分楽になります」

「おい、細工呼ばわりはよせ。実施規定の知的な解釈だよ」

「ああ、正にインテリジェンスですね」

  そう、今回の演習で使用している模擬交戦装置のレーザー受感部であるが、戦車に施している偽装が激しい機動により図らずもそれを覆い隠す様にズレてしまっているのだ。

 勿論、決して縛着を緩く調整したりはしていない。

 あくまで。そう、あくまで偶然にそうなってしまっているのだ。

 云わば不可抗力である。

 そんな時である、ヘッドセットに耳障りなブザーが鳴り響いた。

「何事だ」

「レーザー・アラームです!

 敵からのレーザー照射を受けています、あ!」

「どうした」

「スモーク・ディスチャージャー(煙幕展張装置)が作動!」

「何ぃ、くそっ。大隊、戦闘展開だ!」

「隊長、他の各車からもレーザー照射を受けているとの報告です」

「被害状況!」

「実際の攻撃は受けていない模様、レーザー照射のみです。模擬交戦装置にも反応有りません」

「つまり、照準用のレーザー照射を受けだだけって事なのか。

 どういう事だ、いったい何のつもりだ」

 模擬交戦装置は沈黙したままだ。まあそうだろう、受感部は偽装によって覆われている筈である。つまりAPS(アクティブ防護装置)のレーザー・ワーニングのみが反応している事になる。

 撃破の判定を受ける心配は無いが、こうなっては無視出来ない。対応が必要だ、これで前進速度が落ちる事は避けられないだろう。大隊の戦闘加入が遅れれば、それだけ敵ヘリボン部隊に有利となる。

 つまり敵の狙いは足止めか。

 だが残念だな。こちらが撃破される心配はほぼ無い以上、そうそう時間をロスする事も有るまいよ。

「レーザー照射、継続しています」

「敵は、敵は何処だっ」

 それにしても、相手の所在位は掴まなくては。最低限の対処は必要だろう。或いは、これはZSU(自走対空車両)で撃墜するチャンスかもしれない。

 何れにしても、放っては置けない。今は殆ど脅威が無くとも、この先何をされるか分かったものでは無いからな。

「敵攻撃ヘリ、発見出来ず。何分夜間であります、しかもスモークを展開してしまっている為、周囲は著しく視界不良です」

「よ~し、慌てるな。視界不良は敵にしたって同じだ。

 大隊、傘型。このまま前進を継続する」

 大隊に対しての指示は、そのまま自分自身へも当て嵌まる。そうだ、慌てる必要は無い。

 敵の意図を計りかねていたその時、大隊指揮通信に割り込んでくる無線が有った。

『第3大隊へ、こちら統裁部。

 統裁指示を送ル。APSの発煙装置が作動した車両の内、次に指示する車体はミサイルの直撃を受けて撃破されたものとする。

 繰り返す、次に指示する車体は撃破されたものとする』

「何ぃ、どういう事だ」

『撃破された車両は次の通り、1号車、3号車、4号車…、……以上14両。

 ただいま状況を付与された車両は直ちに現在地にて停車、じ後は統裁部の指示を待て』

「隊長!」

「俺が、俺が撃破されただと」


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