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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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対機甲戦闘、敵は第3大隊

『大隊本部へ、こちら偵察中隊。先程情報のあった敵ヘリコプターの本隊と思われる多数のヘリを確認。

 座標202 097』

 側道を進む第3大隊に所属する偵察中隊は統裁部からの状況付与を受け、その内容を報告する。状況付与の内容については実際には敵部隊が存在しない為、同行している補助官からの口頭による指示である。

「大隊長!」

 連隊主力を差し置いて、我々が戦闘の火ぶたを切る事になるとは。

「慌てるな、大隊は前進を継続。偵察部隊にヘリの動向を報告させろ。

 後は、連隊本部への報告も忘れるなよ。詳細が分からずとも、まず第1報を入れろ」


 俺の第3大隊は現在、連隊主力の右を側衛という形で前進中である。連隊主力である第1・第2大隊とは、前進軸は同じでもやや距離が離れている状況だ。ここは連携を密にしなければならないだろう。

「偵察中隊からの報告です。敵は先程報告した座標付近に降着、部隊を展開させた模様、ヘリボン攻撃です」

「来たか。よし、降着した敵部隊の規模は」

「は、大隊規模と思われます」

「ふむ。偵察中隊には第一撃を加えさせろ、時間が重要だ。

 相手はヘリボン部隊、機甲戦力は皆無だろうがその分対戦車火力は増強されている筈だ。偵察部隊は一撃後、戦力の過早な消耗を避けて戦闘偵察斥候との合流を急がせろ。

 よーし、俺達も戦闘加入するぞ!」

「偵察中隊から更に続報、降着した敵部隊の周囲にヘリを確認出来ず」

「ん?、護衛のヘリはどうした…。

 まあ良い、油断せず周囲の警戒を厳重に、情報を逐次報告させろ」


          ◆


『ジュリエット、こっちは先頭を捉えた。そっちはどうだ』

「こちらジュリエット。オン・ターゲット、目標を捕捉した、準備良し。敵は増速してるみたいよ。

 そのせいで隊列は間延びしてる、最後尾車両はまだKZ(キルゾーン)に入って無いわ」

『分かった、KZの外でも構わんから捕捉出来る一番後ろの戦車を狙え』

「ウィルコ、照準よし」

 ウィルコとは「Will Comply」の略よ、良く耳にするラジャー(Roger)って言葉は単に「了解した」って事だけどウィルコは「了解して、それに従います」って意味ね。

『よ~し、初弾弾着14分ジャスト。じ後は各分隊毎に射撃』

「4」

 対戦車ミサイルの射撃モードにセットしてる画面にはKZを敵の戦車群が次々と横切って行くのが見える。私は、その中の最も後方を行く1両に照準を合わせて発射のタイミングを待つ。報告した通りKZには入って無いけど射撃には問題ない。

『1番機。発射用~意、発射ァ』

 ハーレーがミサイルを撃った、それに数瞬遅れて私もトリガーを引く。

「4。発射!」

 さて、結果はどう?

 画面の中を移動する戦車群には何の変化も無い。

 コンソール上のミサイル残弾表示は減ってるから、確実に発射信号は出てる筈だ。

「外れ?」

「FPを変換する」

 プリンスがFP(Fire Point:射撃位置)を移動する旨を報告して来る。そうね、1発撃ったら敵に気付かれる心配がある、何時までも同じ場所に留まってたらダメ。

「プリンス、そのまま移動して大丈夫よ。こっちは射撃を継続するわ」

 よし、気持ちを切り替えて次の目標に射撃よ。


 しかし私の撃ったミサイルはその後も立て続けに2発失中してまった。

 いや、どう考えてもおかしいでしょ。

「ジュリエット、どうなってる。当たらないのか」

「ええ、もしかして射程距離を外れてるの?」

 その場合は当然模擬交戦装置も命中とは判断しないだろう。

「敵はどんどん進んでるぞ、どうする」

「待って!」

 どうするも、射程距離外?いいや、そんな筈は無い。戦術マップ上で目標と自機の位置を再確認するが、やはり射程内だ。

 くそっ、訳が分からない。

「ターゲットは確実に射程内よ、命中しない理由が分からないわ」

「システムにトラブルかもしれないぞ」

「うん、ただしディスプレイ上ではきちんとミサイルは発射されてるわ」

「このままじゃ、敵は全部行っちまうぞ」

 プリンスの言葉通りに目の前を敵が次々に通過して行く、このままでは任務失敗だ。

 頭の中は、現在の状況をもたらした原因やその対策がグルグルと回っているが、焦りから思考が上滑りしてしまい具体的な対策が全く出てこない。

 サーペントに乗って日の浅いプリンスにはシステムに関して頼る事は出来ない、機長の私が何とかしなければ。

 半ばパニックに陥りかけていたその時である。

『ジュリエット、ハーレー。

 こっちは何発かミサイルを撃ったが、全て外れちまった。そっちはどうだ』

 ハーレーからの無線だ、そうだ私達は小隊で行動していたんだった。ホントはこっちから報告を上げなきゃなんないのに。もうっ、しっかりしなさい熊。

 でもやっぱり、向こうも同じ状況なんだわ。

「ハーレー! こっちも3発撃って全弾外れ、戦果無しよ。

 絶対おかしいわ、どうなってるの?」

 こうしてる間にも、敵の戦車は次々とKZを通り過ぎて行く。もたもたしてたら、全車見逃しちゃう事になる。こっちに全く気付いた様子が無いのがせめてもの救いだが。

 ハーレーにはこの原因が何か分かっているのだろうか。既に対策は有るのだろうか。

『さて、当たらなかったら当たる所迄近寄るのも一つの手では有るけどなあ~』

 あ~、相変わらずマイペースって云うか、いつものハーレーだ。

「突っ込むか!」

 プリンスが勢い込んで言う、脳筋か。

『待て待て、何で嬉しそうなんだよお前は。

 向こうが何か仕掛けてるんなら、思う壺だろうが』

「確かに胡散臭いけど。時間、余り無いよ。

 他に何か手が有る? 向こうは攻撃されてる事にも気付いて無いようだけど」

 プリンスの意見ももっともだが、今取るべき最良の手段がそれか。まだ何か手が有るんじゃないか。

『そうだな~。こっちの模擬交戦装置に何か工作する様な隙は無かった筈だから、考えられるとすれば向こうに装着してる受感部に何かしたのかねえ』

 無線からは相変わらず緊張感の無いボイスが流れて来るが、ハーレーの存在がこんなに心強く感じるなんてね、これがチームで戦うって事なんだわ。

 私も、少しは心に余裕が出てきた。ハーレーに頼ってばかりはいられない、何か解決策を考えなければ。

『ま、あからさまに不正して来るとは思えないけど、感度を落とす様な手は幾つか有るわね』

 あ、やっぱりダークも相手の不正を疑ってるのね。

「恥ずかしい。勝ちに拘る事、それ自体は決して悪くは無い。けど、こんな演習でしか通用しない手を使っても意味無いではないか」

「プリンス、限りなく黒に近いグレーだけどまだ不正って決まった訳じゃ無いわ。今はこの状況は何とかする方が先決よ」

「そうだな、やっぱり突っ込むか」

「それは、最後の手段よ」

 さっきはパニックの一歩手前で、思考の幅が狭くなっていた。じゃあ今度は小隊として、もっと俯瞰した思考だったら何があるのか。

「ハーレー。統裁部へ報告して何とかしてもらえないの」

『報告は上げておくが、無理だな。現時点で証拠は何も無いし、演習の状況を中止して迄原因を究明するメリットも無い』

 あ~ダメか。

「プリンスも何か手は無い? 突入以外で考えて。このままじゃ」

「相手に近づく以外でか…」

 私もプリンスも思考のループに陥ってしまい妙案は直ぐに出そうにない、このまま敵を逃がしてしまうのか。

「う~ん、相手に近づく以外にレーザーの感度を上げる方法なんてあるか?

 そもそも模擬交戦装置の出力は決まってるからなあ」

 ハーレーもダークと解決策を模索している様だ。


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