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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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状況は動き出した

「なに、敵のヘリコプターを攻撃したと」

『はっ』

「場所は?」

『少々お待ちを』

 敵との遭遇を予期して前進中の為に、私は指揮小隊のT―72戦車に搭乗しており、部下の参謀連中もそれぞれBMP(装甲歩兵戦闘車)に分散して搭乗している状態である。

 別々の車両に乗っている為に少々指揮に影響が有るが、いよいよ敵と接触しそうな段階である。一発の不運な敵弾で全ての指揮機能が一挙に失われる危険は冒せない、本部要員を分散させる事は必要な措置である。

 現に敵のヘリとの交戦が報告されて来たようだ。さて、これはいったい何の徴候と捉えたら良いのか。

『連隊長、敵ヘリとの遭遇地点は偵察中隊が事前に人員を配置していたOP(Observation Post:観測位置)―21です』

「OP―21か、確か第3大隊の前進経路に近かったか」

 現在我が連隊は国境を越えた敵を迎え撃つべく東進中であるが、前進経路は平行する二つの道路に大きく分けている。

 一本の経路を連隊の全部隊が使用すれば縦隊はかなりの長さとなるし、もし先頭付近でトラブルが発生した場合後続の前進に支障を来すだろう。

 具体的な編成は、大部隊の通過が容易な国道を第1大隊を前衛大隊として、連隊本部と第2大隊が続行し、その南を並行して走る比較的良好な側道を第3大隊が前進、それぞれの経路の後方から工兵中隊や衛生小隊などが後続している状況である。

 国道を行く本隊も、側道を行く第3大隊もそれぞれ戦闘偵察斥候を先行させている。しかし、経路からやや離れてはいるが無視できない地形上の要点には、連隊として予め観測員を配置していたのだ。そして、その一つが件のOP―21なのである。

『OP―21は敵が陸路を使用して進出しようとした場合、国境から大きく南を回り込む形となる為、移動の時間的所要が大きすぎるとの見積もりです。その為、配置した戦力も最低限の観測要員に限定したのですが』

「うむ。敵が空中機動により展開した場合、タイミングによっては我々の側背を突かれる恐れがある。そうだな」

『正に。ただ、その後の状況なのですが』

「おう、ヘリを攻撃した結果か。どうなった」

『はい。敵のヘリを発見した観測員は砲兵へ射撃要求を行い、曳火射撃により制圧を試みた模様です』


【曳火射撃】(Air Burst:エア・バースト)

 砲撃形式の一つで、砲弾を空中で炸裂させる事で遮蔽物や塹壕に身を隠した敵へ損害を与える事が出来る。


『結果は、撃墜には至らなかった模様ですが、損傷を与えた事は確かな様です』

「OPが発見したヘリは輸送用か攻撃ヘリか? 規模はどうなんだ? 砲撃の後はどうなった?」

『は、機種は攻撃ヘリ。数は細部不明なれど少数。我が砲撃を受けた後は南方向へ飛び去ったとの事です』

「報告が有った正確な時間は」

『はい。19時21分、今から約15分前です』

「その後ヘリの飛来は無いんだな」

『はい、OPへ再度確認しております』

「ふむ…」

 ヘリが砲撃によって損害を受ける程度には低空且つ低速で飛行していた…と言う事は、偶然付近を通りかかった訳では有るまい。

 しかし我が連隊の戦車を直接の攻撃目標としていたのであれば、機数が如何にも少ない、攻撃されて退避したまま戻らないのもおかしな事だ。

 目的はやはり空中機動、攻撃ヘリはその先触れか。

 ふむ。あの地点にわが軍の監視の目が展開している事はこれで暴露してしまったと考えた方が良いだろうな。ならば、幾らヘリボン部隊の降着適地と雖も、我々が待受けている所へ強行突入しては来まい。敵にしても、あの地点に我が部隊がどれ程展開しているのかまでは確認出来なかった筈だ。

 うむ、すると先程のヘリに対する攻撃を見送って監視を続けて居ればヘリボン部隊本隊に対して降着直後の態勢未完の状態を捉える事も可能だったかもしれぬ。さすれば、敵部隊へ痛打を与えうる絶好の機会であっただろうが。

 しかし、敵は去った。まあ、OPの隊員を責める事も出来まい。戦車の天敵と言われて久しい攻撃ヘリが手の届く所に現れたのだからな。戦闘のテンポは急速に変化する、古来より〈兵は拙速を貴ぶ〉とある様に一度戦機を逃したら挽回のチャンスは無いと思った方が良い。

 たら・ればの話をしても始まるまい。

 さて、これからの事だ。

「よし、敵のヘリコプター部隊が居る事は分かった。だがそれは今更の事、敵が航空部隊を出さない筈は無いからな。ヘリは厄介な相手だが適切な対処で何とでもなる。

 ヘリボン部隊は身軽な分、装甲車や重火器を欠くし、補給も貧弱だ。つまり、地上の部隊と必ず連携を図る筈である。

 敵の主力は近いぞ、徴候を見逃すな」


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