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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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先手は向こう?

 さて、現在の私達は真っ暗闇の中、全ての灯火を消して飛行している。だから、地面付近でのホバリングで少々埃が舞い上がろうと誰に見咎められる訳も無い。と思うかもしれないが、そんな事は無いのだ。

 何故なら、こちらが暗視装置を持っているという事は相手も同じ装備を持っていると考えなければならないからである。

 私は、ひとまず操縦をプリンスに任せ彼女の操縦による機体の動きを視界の端に捉えながら、センターコンソールの下に格納されてる戦術用のコントロール・パッドを取り出した。

 これ、見た目はまんまゲーム機のコントローラーなのよね。でもね、これを使って戦術画面の地図に描画したり、レーダーの操作は勿論、武装のコントロールも出来るのよ。当然、同じ物がもう一つ後席にも備え付けられてるわ。

 このコントローラーで武装の管理が出来ると言ったが、当然20mm機関砲やミサイルなんかのトリガーも付いてる。と言うか、サイクリック・ステッィク(操縦桿)にしかトリガーが付いて無かったら操縦してない方が射撃する時に不便だろう。

 勿論、操縦しながらの射撃も可能だが、対地攻撃時の様に精密照準が必要な場合は、PF(Pilot Flying:パイロット、コ・パイロットの別無く、その時操縦している者)とは別にPNF(Pilot Not Flying:PFとは逆に、その時操縦していない者)がガナー(Gunner:射手)として攻撃に専念した方が何かと良いのは理解して貰えると思う。

 何度も言うが、ヘリの操縦は難しい。攻撃の為のホバリングでも、ホバリングする事そのものにかなりのリソースを必要とするのだ。

「レーダーに反応は無いわね」

 サーペントに搭載されてるミリ波レーダーを使いLZ周辺を対地モードで掃引する。同じ情報は1番機にもデータリンクで共有されているから、余計なボイスは出さない。

 無線交信はデジタル暗号化されてるとは言え、電波を出さないに越したことは無い。

 現在高度は、電波高度計で30ft(約9m)。レーダー捜索の為に一時的に高度を上げている状況だ。

 注意しなければならないのは、敵の自走対空車両であるZSU―23―4である。だが、その射撃統制レーダーは、200m以下の高度だとグランドクラッター(地面からの乱反射)で性能が急速に低下する事が分かってる。

 比較的平坦な地形故に、索敵の為に余り高度を取らなくてもすんで良かったが、逆に地形を背景に利用する事も出来ない。もし目視で索敵してる相手がいたら思いっきり空中に暴露してる筈だ。さっさとレーダー捜索を終わらせよう。

 今の所、RWR(レーダーワーニング・レシーバー)にも敵のレーダー波は捉えられていない。

 もし、敵のレーダーを検知した場合はヘルメットのイヤーレシーバーへの音声とディスプレイへのシンボルによる表示(コンソールパネルとHMDS)両方で知らせてくれる。その際の警報は、レーダーを発射してる相手が何かという事迄教えてくれる。色んな種類のレーダー波の情報がコンピューターに記憶されており、そこからSAM(対空ミサイル)であったり、ZSU(自走対空車両)だったりを識別・判断しているのだ。

 しかもレーダーの警報は、その脅威の度合いも教えてくれる。

 戦術用のレーダー波には、捜索用と照準用があるのは知っているだろうか?

 つまり捜索用のレーダー波を検知した場合は、まだ敵はこっちを見つけて無いってコト。照準用のレーダーに捉えられたらいよいよ敵のミサイルなり、機関砲の弾が飛んでくるってコトなのだ。

 因みに、一般の民間空港にもレーダーがある。気象用の観測レーダーや、航空機を誘導する為の精密監視レーダーなどだ。当然それらのレーダー波もRWRに検知されるのだが、普段はフィルターを掛けてるので一々警報に煩わされる事は無い。勿論スイッチ一つでフィルターを外す事も可能である。RWRには自己診断機能も付いているが、簡単な機能点検をしたい時などは、わざわざ戦術用のレーダー波を照射してもらわなくても大丈夫って訳だ。


「よし、いいわ降下し― 」

 LZ(降着地域)周辺のレーダー捜索を終えて、一旦地表付近へと降下を命じようとしたその時、私の目に信じられない物が飛び込んできた。

「プリンス退避!」

「!」

 プリンスはホバリング状態の機体をすかさず加速させる。余計な事は聞き返さない、まず行動。機体を退避させる方向は、パイロットとして当然予め考えてる筈だ。

 退避する方向を選定する基準は地形上と戦術上の二つ。その場から直ぐに移動しなければならないから現在地よりも低い方(加速し易い方向)、或いは現在機首が向いてる方向、そして当然風の方向、あと重要なのは敵が進攻してくるであろう方向を承知している事だ。全てを一瞬で判断する必要がある。

「ジュリエット?」

「敵の攻撃を受けてる!機体は〈小破〉した」

 そう、何の前触れもなく模擬交戦装置の指示器に〈小破〉を示すオレンジ色のランプが点灯したのだ。

「ハーレー、2(ツー)小破」

 詳細な情報はおいといて、まず現状の報告だ。

『了解、敵は?』

 ハーレーから冷静な無線が入る、取り敢えず向こうは無事みたいね。

「不明、レーダーワーニングに反応無し。現在南へ退避中、高度10ft」

『了解、こちらは無事だぜ。敵は… ダークどうだ… うん、確認できないな。よし、こっちも現地を離脱する、ACP―5で合流しよう、高度2000(ft:フィート)』

「2(ツー)」(2番機了解)

 ACPとはエア・チェックポイントの事だ。航法を計画する時、変針点や時間管理をする為に何カ所か飛行経路上に設ける任意の点である。ACP―5はさっきハーレー達と分かれた場所だ。

「プリンス、何か見えた?」

「いや、何も。

 しかし小破って何だ、何に撃たれたんだ」

『あー、サーペント2番機へ、こちらは演習統裁部だ。送レ』

 統裁部から呼び出し?

「統裁部、サーペント2。感明良好」

『サーペント2番機へ、統裁指示を送ル。

 サーペント2番機は第21戦車連隊所属の砲兵大隊から榴弾砲による砲撃を受けた。じ後の戦闘継続は不可能とする』

 え~、砲兵射撃?

 つまり砲兵部隊のFO(Forward Observer:前進観測員)が近くにいたって事? 

 そうよ、ヘリボン部隊のLZに選定される様な地形だもの、所謂CT(Critical Terrain:クリティカル・トレイン)緊要地形ってヤツよ。敵も自分たちの前進に先駆けて偵察員を配置してたのかもしれないわ。

 予め配置された偵察員が偽装して潜伏してたら、幾らレーダーで探ったって、そりゃあ見つかる筈無いわ。

『統裁部へ、サーペント・リーダー了解。2は直ちに帰投、4は当初の指示通りリーダーと合流せよ』

「2了解、4了解」

 直ぐさまハーレーが統裁部へと返信すると共に、私達に指示を出す。流石ね、一切の遅滞が無いわ。でもプリンスはちょっと違った感想を持ったみたい。

「ジュリエット。別に文句が有る訳じゃ無いが、ハーレーって軽すぎないか」

「あ~プリンス、あなたにはそう感じるかぁ。

 ま、そうよね。彼はいつもあんな調子よ、実戦の時でもね。だから別に不真面目って訳じゃ無いのよ」

「そうなのか?

 まあ、想定外の事態にパニくる様な間抜けよりは余程良いか」

「そういう事。腕の方も確かだしね」

「了解した」


 あ、さっきの交信だけど、演習に参加してるサーペントが2機なのに突然4番機が出てきたけど、その事について説明するわね。

 実際にこの演習に参加してるサーペントは2機だ、それは間違いない。しかし攻撃ヘリ部隊の運用としてヘリボン掩護で事前制圧を2機だけで行うのは妥当性として低い、だからハーレーと私それぞれが僚機を引き連れて2機×2機の4機で任務に当たってるって設想だったのだ。

 当然、統裁部でもそれは承知している。だから砲兵部隊の攻撃で私の分隊が2機とも損害を受けた可能性もあった筈だ。でも、実際に指示を受けたのは2番機だけだった。それって実は敵もこちらを完全に発見した訳じゃ無く、観測情報が不正確だったって事かもしれない。

 結果、統裁部からの状況付与とハーレーの判断でサーペント2は帰投する事になったけど、実際は今から私はサーペント4番機として行動、ハーレーと合流して戦闘を継続する事になる訳である。

 機数が1機減ったって事は、攻撃出来る弾数が減ってしまうという事でもあるけれど。


 今の私達への砲兵部隊からの攻撃判定についてだが、少し補足しよう。

 模擬交戦装置はレーザー光線を使っている、だから小銃やミサイルの様な直接照準で相手を狙う火器(直射火器って言うわ)については命中判定が可能なのだ。しかし迫撃砲や榴弾砲などの曲射火器(敵を直接狙う事が出来ない様な長距離を、観測員による間接照準で山なりに弾を飛ばして射撃する火器)については判定出来ないのは分かるだろう、直進するレーザーでは大砲の弾道を模擬する事は出来ないからである。

 ではどうしてるのかと言えば、演習部隊の観測員が自軍の砲兵部隊へ送った射撃の為の各種諸元を統裁部でも共有し、その結果を射撃の効果判定に使用しているのである、ある意味アナログな方法だ。


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