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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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ヘリボン援護

『フォーメーション。マスターアーム、スタンバイ』

「2(ツー)」(2番機了解)

 飛行場を離陸して直ぐに1番機の機長でフォーメーションのリーダーでもあるハーレーから指示が来た。

 マスターアーム・スイッチはその名の通り、全ての武装系統を管理している。今が実戦だったらスタンバイ(待機状態)では無く、アーム(武装使用可能状態)にするのだが。

 今回訓練の為に機体に取り付けてる模擬交戦装置は、スタンバイ状態で稼働するから問題は無い。

 模擬交戦装置というのは、レーザー光線の発振器と受信機の組み合わせによって射撃の効果判定を行う物である。小は歩兵が携行する小銃や機関銃、無反動砲、大は戦車や装甲車に装着して使用する。勿論攻撃ヘリにも装着が可能である。

 レーザー光線の受信機は単に命中か否かを判定するだけで無く、人員の場合は軽傷、重症、死亡といった細かな結果が表示される。私達攻撃ヘリの場合は小破、大破、キル(撃墜)ってカンジだ。

 今回みたいな大掛かりな訓練の場合は、模擬交戦装置単体の他に訓練に参加してる車両や火砲、ヘリコプターなどの位置情報も演習統裁部で集約して総合的な評価を行う様だ。

 模擬交戦装置のレーザー光線は、サイコロの目に手心を加える様な忖度は一切無いから対抗部隊として、こっちも気を抜けない。


『自己防護システム、オン』

「2(ツー)」(2番機了解)

 私達のサーペントに搭載されてる自己防護装置は、敵のレーダー波を受信して警告を発するRWR(レーダー・ワーニング・レシーバー)、受信したレーダー波に応じてそれを妨害するRJ(レーダー・ジャマー)、敵のIR(赤外線)追尾ミサイルに対して攪乱用のIRレーザー光を直接照射するDIRCM(指向性赤外線対抗手段)、エンジンからの排熱を低減するIRサプレッサーなど様々な機器から構成され、それら対抗手段の各種センサーは一つのシステムとして統合・一元化されている。

 従来の機体であれば、対抗手段それぞれに表示器がありその情報一つ一つをパイロット自身が頭の中で組み合わせて総合的に判断していたのだが、有難い事にこのサーペントに搭載されたシステムはそれを機体側がやってくれている。

 他にも使い捨ての対抗手段として、〈チャフ〉と〈フレア〉が有る。

 チャフは対レーダー用でガラス・フィラメントを空中に散布し、あたかもそこに目標が有る様に見せかける。

 フレアは対IR用であり、赤外線を発する物体を囮として機体から投射する。

 当然それらもシステムによって制御され、最適なタイミングで自動放出される様になっている。勿論、手動によって任意のタイミングでの放出も可能だ。


 今回の相手は正規軍の、それも戦車連隊である。それはつまり、彼らも自分達を守るための手段として自走対空車両を編成に入れているという事だ。

 それに加え、MANPADS(Man Portable Air Defence System:個人携帯防空システム)も携行しているだろう。つまりP―SAM(Portable Surface to Air Missile:携帯対空ミサイル)を末端部隊の隊員まで装備してるのである。

 ハザフエリ共和国陸軍が装備している自走対空車両はZSU―23―4シルカだ。

 ソ連が開発した自走対空火器では最もポピュラーな装備である。ZSUは、Зенитная Самоходная Установка(ゼニートナヤ サモホートナヤ ウスタノーフカ)のアルファベット表記で自走高射機関砲の意味であり、続く〈23―4〉という数字は砲の口径と門数、つまり23mm機関砲を4門装備しているという意味だ。

 その射撃は車載されたレーダーと連動したコンピューターによって制御されており、航空機にとって非常に厄介な相手となっている。

 ヨム・キプール戦争(第4次中東戦争)では、エジプト軍のZSU―23―4が地対空ミサイルを避けて低空侵入して来たイスラエル空軍機を撃墜しまくった。イスラエル空軍機の損失103機中31機がZSU―23―4を含む対空機関砲によるものとされている。

 その為、今の西側諸国で装備されてる攻撃機や攻撃ヘリは開発段階から、ZSU―23―4をアウトレンジ出来るか、23mm砲弾に耐えられる防御力を一つの基準としている程である。

 そしてもう一つの脅威、P―SAM(携帯対空ミサイル)については、9K38イグラ(NATOコードネーム:SA―18グロース)が配備されてる。赤外線誘導で射程は約5km。戦車連隊の場合、編成上は各大隊に最低9器は配分されてる筈だ。これも決して侮れない相手である。


          ◆


『間もなく、LZ(降着地域)だ。

 計画通り俺達は一航過して、敵情を偵察する。

 2番機は、ここから別れて南西側に占位、掩護態勢を取れ』

 俺達、つまりハーレーとダークの事よ。サーペントは2人乗り操縦だから無線交信の時には1機であっても、「We」が一人称になるの。慣れないと、ちょっとややこしいかしらね。

「2(ツー)」(2番機了解)

 戦闘/偵察ヘリコプターLARH―69〈サーペント〉2機は闇夜の中、無人の荒地を匍匐飛行で進んでいた。機体の灯火類は全て消灯されていて、編隊内のお互いの位置さえも肉眼では確認出来ない状態だ。


【匍匐飛行】

 戦闘行動中のヘリは敵の脅威が低い地域から脅威が高くなるに従って次の様に飛行方法を変更する。

 LLF(Low Level Flight:超低空水平飛行)

 低空を概ね速度一定、高度一定、方向一定で飛ぶ方法。

 CF(Contour Flight:地形追随飛行)

 その名の通り、山や谷などの地形に沿っての飛行だ。速度はほぼ一定を保つようにする。

 NOE(Nap Of the Earth:匍匐飛行)

 限りなく地面に膚接、速度は地形・敵状に合わせて変化させ、時にはゼロに(ホバリング)する事も有る。正に歩兵がホンの僅かな窪みに身を伏せ、小さな堆土の陰を利用する様に敵に接近する飛行方法である。

 良く地形追随飛行=匍匐飛行と思っている人もいる様だが、その二つは全く違うのだ。

 NOE(匍匐飛行)は、だだ地形に沿って低く飛ぶだけでは無く、正にヘリコプターにしか出来ない特別な飛行方法なのである。


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