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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 夜を克服せよ
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日暮れ

 攻撃は最大の防御である、味方の損害を出さずに目的を果たすには、相手を撃墜してしまうに限る。


                           航空自衛隊 服部省吾




 我が戦車連隊は戦場予定地域へ前進中であるが、現在は幾度目かの大休止を兼ね戦車、装甲歩兵戦闘車等の点検・整備を実施中である。

 下士官・兵が交代で寛ぐ間も、士官連中はそれぞれの職責に応じ立ち働いていた。

 自分以下、連隊の参謀達は最新の状況確認と認識の統一を兼ねた作戦会議を行っているし、会議への参加資格の無い小隊長達は今頃自分の部下隊員の状態を直接見て回っている筈である。それこそが部隊を、部下隊員を預かる指揮官なのだ。そうでなければ時に命を懸けた命令なぞ下すことは出来ないし、部隊を統率する事も不可能だろう。部外者から見れば士官は、兵隊達に働かせて自分は命令を下すだけの楽な仕事、兵達の労働を搾取し結果だけを奪う悪人と思われている節もあるのだが、実際は軍隊に楽な仕事なぞ無い。それぞれの階級・職責に応じた義務と権利があるだけなのだ。

「連隊長、そろそろ日没です。

 敵の動きも活発化するでしょう」

「うん、参謀長(副連隊長)の言う通りだな。

 1科長(作戦参謀)、遅滞戦闘を担当している連隊の情報を師団から継続的に入手せよ。

 日没と共に真面目な戦闘も一段落していた頃があったとは、今では信じられんな」

「はい」

「2科長(情報参謀)は、先行させている先遣中隊との連絡を絶やすな」

「了解、連絡が途絶える事も重要な情報と心得ております」

「後方科長(兵站参謀)、装備の状況は」

「は、各大隊共に軽微な不具合が出てきている様ですが、戦闘行動には問題が無いレベルとの報告を受けております。

 現在は各車燃料補給中です」

「よし。戦車だけでなく、兵達にも食事の時間を取ってやれ」

「はい。計画上も今大休止が食事休憩となっており、交代で食事を取らせております」

「うん。味気ないレーション(コンバット・レーション:戦闘糧食)でも温めれば少しはマシになるからな、時間を十分に取れ。

 出発は予定より遅れても構わん、我々も腹ごしらえとしよう」

 よし、取り敢えず現在までは連隊の練度も満足の行くものだ。

 特に戦車に一両の脱落も無いのは宜しい、本来戦車などの装軌式(無限軌道:キャタピラ)戦闘車両は長距離機動をする場合、専用の重トレーラーや貨物列車に乗せて移動するものなのだが、今回程度の移動距離で落伍車を出していては話にならないのも確かである。

 さて、いよいよこれから。日が暮れてからが本番である。


          ◆


 飛行場に夜が訪れようとしている。平原の遥か彼方で太陽は地平線と一つになり、最後の光によって作り出される長い影が、このなだらかに続く地形にも僅かながら起伏がある事を思い出させる。

 見上げれば、夕陽の色に淡く染まった雲はまばら。気の早い一番星がもう確認出来る。

 今の私の視力なら目を凝らせば、その周辺にもまだ輝きだす前の星が更に幾つかは見えるだろう。

 間もなくエンジン始動の予定時刻だ。

 空って実は太陽が地平線に没し去っても直ぐには暗くはならない、だがらもう少しだけこの心地よい風に吹かれている余裕は有るだろう。

 ついさっき、飛行指揮所で相手部隊の最新動向も確認した、後はひとまず計画通りか。(但し、それも敵と接触する迄でしょうけどね)

 ええと、私達の行動をもう一度おさらいしましょうか。

 ハーレー/ダークのサーペント1番機、そしてジュリエット(私)/プリンスの2番機。2機のサーペントはヘリボン部隊の掩護機として経路を先行、必要ならLZ(Landing Zone:降着地域)の事前制圧を行う事が任務である。

 私達に続行するヘリボン部隊は設想。つまり、今回の演習では実動しない想定上の部隊だ。

 想定上と言えば、そのヘリボン部隊にも編隊に同行して掩護する攻撃ヘリが編成されており、状況によっては、その同行掩護をしてる攻撃ヘリも私達が演じる事になっている。


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