表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第三章 戦場へ、それぞれの思い
62/109

対カザフスタン戦略

 今回の演習での我々戦車連隊の任務は、国境を越えて侵攻する敵に対する機動打撃である。もし不幸にも隣国と戦端が開かれた場合、我が方の国力から言って初動はどうしても受け身とならざるを得ない。北に国境を接するロシアは当然として、東のカザフスタンにしても国土、軍事力その他全てにおいて数倍の差があるのだ。

 現在第一の仮想敵であるカザフスタンは我が国同様ソビエト連邦の衛生国家から独立した経緯を持っている、すなわち国軍の装備、戦略・戦術はソ連のそれを基本踏襲していると言う訳である。

 そんなカザフスタン軍に対して、我が国が取るべき対抗策は如何様な物であるべきか。それは、当然と言えば当然の結論なのだが、東西冷戦時代のソ連と対峙する事となったNATO軍が模索した戦略と同様の推移を辿る事になる。

 即ち、まず〈アクティブ・ディフェンス〉である。

 ソ連=カザフスタンの戦い方は、こうだ。

 敵に対して圧倒的な軍事力を迅速に投入する事。多数の部隊を長い国境線の広範な戦線にわたって同時に投入する事で、最大の戦力を最高度に発揮、前方に突進する事が可能になるとの考えだ。

 我が国の戦力は限られている、国境線の全域に部隊を配備するとなるとそれぞれの戦力は当然小さくならざるを得ない、薄く広くという状態だ。それではそもそも部隊を配置する意味が無い、しかし敵にしても攻撃軸を自由に選べるとは云え大部隊を機動させるにはそれ相応の地形的条件が有る。

 そこで、

1 敵の侵攻の可能性の高い地域を幾つか優先して部隊を配置しておく。

2 実際に侵攻があった場合、素早く敵の主攻正面を特定してそこへ他の正面に配置していた味方部隊を 迅速に増援として投入する。(翼側を突破される危険性は生じるが、主攻正面では局所的に戦力の優越を作り出す事が、これで可能になる)

3 そこで集中された戦力をもって反撃に出る。

という方法が考案された、それがアクティブ・ディフェンスである。


 ただし、これには幾つかの欠点が存在した。

 まず、敵主攻正面の特定が迅速に可能であるかという事である。もし、部隊の転用が遅れれば各個撃破される危険が増大する。

 そしてもう一つが、他の正面からの増援が戦力を保ったまま機動出来るかである、敵にしても主攻正面への増援を座して見送る筈は無く、得意の全縦深同時打撃で妨害を図って来るであろうと云う事である。

 そして、これが最も懸念される事態であるが、もし部隊の転用と集中に成功して反撃を開始出来たとしても、敵が次々と投入してくる後続梯団との消耗戦に引き込まれてしまえば、最終的に戦力に優る敵軍に押し切られてしまうのではないかと言う事なのだ。

 そこで、アクティブ・ディフェンスの「兵力の迅速な転用と集中、その際の機動力」を更に発展させた戦い方が新たに考案されたのである。


 それが〈エア・ランド・バトル〉である。

 エア・ランド・バトルはアメリカ軍とNATO軍によるドクトリンであり、我が国がそれをそのまま援用する事は出来ないが、基本的考え方は踏襲する事が出来ると判断された。

 エア・ランド・バトルは〈ディープ・アタック〉と〈マニューバー・ウォーフェアー〉の2本柱から成っている。

〈ディープ・アタック〉とは〈縦深攻撃〉の事である。

 多連装ロケット、大砲、攻撃ヘリ、或いは空軍の攻撃機等の遠戦火力をもって敵の前線とその後方奥深くを同時に攻撃するのである。

 何のことは無い、ソ連得意の〈全縦深同時打撃〉と同じ考えである。期せずして、東西両陣営の軍事研究者達は同一の結論に達した訳である。

 さて次に〈マニューバー・ウォーフェアー〉であるが、これは固定された前線をあえて作らない事でいたずらに消耗戦を戦う愚を避けると共に戦場を広域化し、突進する敵に対し遅滞防御を行う部隊と、後続する梯隊への機動力の高い複数の部隊による同時多方向からの襲撃を組み合わせる事で敵を包囲撃滅しようとするものである。


 先程も説明したが、この〈エア・ランド・バトル〉を我が国がそのまま採用するには、米軍とは戦力も兵器体系も違う為現実的では無いが、なにもそのまま採用する必要は無い、要は我が国にフィットする様にカスタマイズすれば良いのだ。


 かつて強大なソ連軍に国土へ踏み込まれても、独立を守り通した国があるではないか。

 そう、フィンランドである。

 この北欧の小国は、1939~1940年の「冬戦争」と1941~1944年の「継続戦争」と二つの戦いをソビエト連邦と戦っている。

 当時も今も、小国が大国によって戦争を仕掛けられた場合の運命は過酷である。ポーランドは国が消滅し、バルト3国は併合された。フィンランドにしてもソ連の大兵力に対する国力は余りにも小さく、軍備も到底十分とは言えなかった。

 しかしフィンランドは最終的に、幾つかの先祖伝来の国土をソ連への割譲と引き換えに独立を保つ事が出来た。少ない兵力、決して一流とは言えない、いやはっきり言おう大国が装備を見送った様な2線級の兵器を使い国の命運を懸けて絶望的な戦いを繰り広げたこの国。そこには、兵士の質や、一部の軍人の超人的な活躍、そして国土戦と言った様々な理由があるだろう。ただ、私としてはやはり軍事作戦、或いは戦術的な次元において大いに参考とすべき事を一つ挙げたい。

〈モッティ戦闘〉、或いは〈モッティ戦術〉と呼ばれる物である。

 モッティとは純粋な軍事用語では無い。フィンランドに古くから有る言葉で、森で切り出した材木の単位であった。それが、転じて少数に切り離されたソ連軍を指す言葉となったのである。

 それでは、モッティ戦闘とは如何なる物なのか。

 フィンランドの国土、特に戦闘となった地域は鬱蒼と茂る森と多くの湖や湿地が広がっていた。更にそこを通る道路は余り整備されておらず、それによってソ連軍は部隊の機動を大幅に制限された。

 機動の発揮及び部隊の展開地積に制限を受けたソ連軍は、唯一通行可能な道路上に長い隊列を晒し、逆にフィンランド軍は慣れ親しんだ国内での戦闘の為、地形と気象を存分に活用出来た。

 機動の発揮を制限され、戦闘力の集中を妨げられたソ連軍に対して、フィンランド軍は攻撃方向の柔軟性をもって敵の隊列の弱い部分を狙って攻撃しこれを分断・包囲、各個に殲滅したのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ