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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第三章 戦場へ、それぞれの思い
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最新技術と人間工学

 プリンスがシートから大きく体をずらして周囲の状況を確認している。

 今回のフライトは私が後席、プリンスが前席のポジションだ。他の機種については知らないが私達はフライト中操縦席に行儀よく前を向いて座っていたりはしない、何故なら普段から敵を意識して周囲を見張る事を習性化してるからである。戦場で敵に撃墜されるパイロットは射撃を受ける瞬間まで敵に気付いて無い場合が殆どなのだ、逆に言えば先に敵を発見した方が圧倒的に空戦を有利に進める事が出来るという訳だ。

 それは平時においても同様である、何時でもトラフィック(他の航空機の運航)情報をレーダーから受けられる訳では無い。寧ろ普段から航空路を飛行しないヘリコプターはトラフィック情報を得られる方が少ない、だから見張りは大切なのだ。

 シートに座って頭だけ動かしても見える範囲は限られている。キャノピーフレームの陰、計器盤のバッフルの向こう側、自分から動いて死角を無くす事が必要となる。

 見張りの一環として、たまに親指を太陽に重ねて見る事もしている。そうすると、太陽に紛れている機体のシルエットが指の外側に見えるのだ。

 因みに私は、ショルダーハーネスをわざと緩く締めている。本来なら体にピッタリとフィットさせてないと不時着の時に危険なのだが、それでは見張りの為に体を動かしずらくなってしまう。ショルダーハーネス自体はきつく締めた状態でも根本の部分で伸び縮みはするのだが、リールに巻き取られるテンションが有るから動き出しに力が必要となる。ホンのちょっとした事だがそれが私にとっては重要だ。ショルダーハーネスを緩めに付ける事で最初の動き出しがスムーズになり、その勢いで巻き取られてるリールのテンションを相殺するのだ。

 私も最初の頃はあまり体を大きくは動かさなかった、操縦に慣れてない内は頭を動かしただけで機体がその方向へ動き出してしまう位だったからだ。

 でもそれでは、例えば野外で機体の幅ギリギリの場所へと垂直に降下させるなんて無理だ。大きく張り出した枝などが被さって来る様な、高速で回転するローターブレードと障害物との間隔に余裕が無い時は、より危険な障害物の有る方向へ大きく体を乗り出して降下する先を確認しながら微妙な操舵で機体を操って安全に接地させる必要がある。

 シートポジションやラダー・ペダルはある程度は調整が出来るが、体が小さい私やプリンスには限界が有る。コクピットの中であちこち体を積極的に動かし、体格的なハンデを補わなくてはならない。


「ジュリエット、しかしこの機体の操舵感覚はいいな!」

「うん?」

「サイクリック・ステッィクのこの感じ、上手く言えないけど凄く手に馴染むって言うか。そう、扱いやすい」

「プリンス! そうよね、私もそう思うわ」

 プリンスの感想に私も激しく同意する。

 ヘリコプターの操縦装置は一部の小型機を除いて殆どがハイドロ(油圧)によるアシストを受けている。

 機種によって多少の差はあるとしても、ハイドロ(油圧)がアウトになるとサイクリック・ステッィクもコレクティブ・レバーもラダー・ペダルも全てが途端に重くなってまともな操縦が出来なくなってしまう程である。だからサーペントでは油圧系統が3重になっており、非常時の安全確保に努めている。

 つまり、操縦系統がハイドロでアシストされているという事は、各操縦装置の感覚は人工的に付与されてるという事なのは分かるだろう。

 それは機体開発者の一つの腕の見せ所では無いかと私は思う。と言うか、プリンスの言った通りこの機体はホントにそれが素晴らしいのだ。

 私は、サーペントに乗る迄にも飛行学校で何種類かのヘリを操縦をして来たが、ある機種は操舵感覚がもの凄く軽くて操縦桿を小指一本で動かす事も可能なくらいだった。でも、そのかわり操舵による抵抗感がスッカスカで、逆に常に力を入れてないと一定のポジションをキープ出来ない感じだったのだ。

 一番初めに乗ったハイドロを使った機体がそれだったから、どれもそんなものなのかと思ったけれど、今思えば開発者も良く分かって無かったんじゃないだろうか、それとも開発の段階でパイロットの意見を聞く機会が全く無かったのか。

 まあ、私の想像だけどね。

 それ以外では、こんな機種も有った。操縦桿の動き出しまでは抵抗が有るのだが、それ以降急にフリクションが抜ける様な操舵感覚だ。これも慣れてしまえば特に操縦に支障は無かったのだけれど…。

 まあ、人それぞれに好みが有るからそれらが一概にダメって訳じゃ無いでしょうけどね。

 その点サーペントは、今までで一番私の手に馴染むチューニングになっている。何処にも力を入れていない無感域、それ自体はすごく狭いのだが、操縦桿を動かせば直ぐに適度な反力がありそこから更に動かすとスムーズに抵抗感が立ち上がるのだ、操舵に手ごたえが有るけど重過ぎない、これを実現してくれた開発者にホント感謝だ。


「ジュリエット、あと意外だったのがコンソールパネルが全面TFTなのにアナログ式のスイッチが多い事かな。もっとタッチパネルを多用してるのかと思ったけどね。

 ほら、今ってカーナビでもスマートフォンでもさ、タッチパネルが主流だろ」

 うん、これも私が気に入ってるトコよ。プリンス、良く気付いてくれたわ。

「あらそう、プリンスはタッチパネルの方が良かった?」

「いや、逆。自分でもビックリしたけど、意外とアナログ式のスイッチの方が使いやすいよね」

「でしょ。何でも最新式が良いって訳じゃ無いのよ」

 タッチパネルの場合、当然操作をする時には、タッチする場所を見てなければ駄目なのだ。物理的なスイッチが無いから、視線は別の方向を見ながら指先の感覚だけでスイッチ操作をする事が出来ない、それでは操縦向きの装置とはいえない。

 それに操作感が無いのも私的にはダメだ。スマホなどでは時々タッチの感度が悪いのか、動作が遅いのか分からなくて何度もタッチした結果、目的と違うページに飛んでしまい、操作をやり直す事もある。それがもしフライト中、しかも戦闘してる最中に起こったなら最悪だ。

 その点カチカチ回すタイプのロータリースイッチなどでは直接目で見ていなくても、回す方向やノッチの回数で今どんな状態なのか判断が可能だ。トグルスイッチにしても手前と中立と奥、どちらに今倒れてるのか触っただけで分かる。スイッチを操作した結果を確認する為に一々手元を見る必要も無い、スイッチの方向は指先の感覚で分かるからだ。

 これもやはり、開発陣の英断だと思う。コンソールパネルが全面TFTだったなら、それに合わせてスイッチもタッチパネルを使いたくなるだろう。しかし幾ら最新の技術でも、それが使用状況にマッチしていなくては意味が無い。意味が無いだけならまだしも使い勝手の良し悪しが生死に直結するのがこの仕事だ。

 その点サーペントのコクピット・レイアウトやシステムの操作関係は人間工学的にも非常に優れていると思う。

「ジュリエット。この辺りの地形も概ね偵察出来たし、どうする。戻るかい」

「そうね、リーダーに聞いてみましょうか。

 24、09(24号へ、09号です送レ)」

 24号機はハーレー/ダークの機体で09号が私達の機体だ。

 サーペント2機は私とプリンスが乗る09号が先導する形で比較的ルーズな隊形を保持して地形偵察の為の飛行をしていた。

『09、24』(09号へ24号だ、どうした)

「プリンスだ、演習場周辺はほぼ偵察を終了したけど他に見たい所はある?」

『待て』

 元々物怖じしない性格なのか、この数日でプリンスもすっかり私達に馴染んだみたい。

『よし戻ろう。

 右から超越する、続行せよ』

「2(ツー)」(2番機了解)


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