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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第三章 戦場へ、それぞれの思い
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操縦性と安定性

「それにしても地形の変化に乏しい所よね、プリンス」

「そうか」

「そうよ。前に山岳地帯を飛んだ時も尾根と谷間に苦労したけど、こうも平坦な地形が続くとまた別の難しさが有るわ」

 私達の地形慣熟とプリンスの機体慣熟、両方を兼ねたフライトも今日で3日目になる。

 この国特有のステップ(草原地帯)によって地形はほぼ平坦、そしてそれが地平線まで延々と続いているのだ。起伏が乏しく、植生も人の背丈を超える様な樹木がほとんど無い。丈の低い似たような草だけが地面を覆っている状態である。

「ふ~ん。ま、確かに地形的には明確な結節が無いのは確かだけどね。でも、まるっきりの砂漠じゃ無いんだ。生えてる草の密度やサボテンとの比率なんかで結構見分けが付くと思うんだけど」

「そりゃ、あなたがここの生まれだからでしょ。

 やっぱ、何だかんだ言っても地元の人間は強いわね」

 私達は今回の訓練で使用する予定の地域を中心に慣熟飛行を行いつつ電子地図に必要な情報を入力している。

 そもそも地図は昔から軍事上重要な情報で、かつては勝手に国外へ持ち出したりする事も禁じられていた位なのだ。今はそれこそインターネットなどで様々な地図や情報を入手出来るが、それでも軍事上重要な施設や地域は解像度が落とされていたり、情報その物が削除されていたりしてる位である。

 私達は当然、この国の許可を得て今回の訓練に必要な地域に限って情報を解禁されて、それを使用してるのだが。

 でもそれに加えて航法上参考に出来る様な地形や安全上必要な情報、例えば地図に載っていない鉄塔や高圧線の高さなどを現地を実際に飛んで収集してるのだ。地図は常に更新されているとは言え、古過ぎたり逆に新し過ぎたりする人工物はやはり実際現地を確認しなければ分からない。

 プリンスの慣熟については、サーペントをただ飛ばすだけならそう問題無くこなせるレベルにはなってる。

 まあ、ホントに必要なのはシステムとしてサーペントを乗りこなす事なんだけどね。流石にそれは5、6時間フライトしただけじゃ無理、10時間20時間でも足りない位よ。

 そもそもサーペントは操縦特性が凄く素直なのだ、理由はSCASスキャスである。

 サーペントの操縦装置がフライ・バイ・ワイヤーなのは話しただろうか。つまり、サイクリック・ステッィクやコレクティブ・レバー、それにラダー・ペダル等の操縦装置全てが機械的にはローター・システムとは繋がってはいないのだ。それらの操舵は電気信号に変えられてセントラル・コンピューターに入力され、各舵はセントラル・コンピューターからの電気信号で実際には動くと云う事である。

 その時パイロットの操縦に対して修正を加えるのがSCASスキャスなのだ。


 SCASをもう少しだけ詳しく説明しよう。

 SCASとは〈Stability and Control Augmentation System〉の頭文字で、日本語にすれば〈操縦性安定性増大装置〉といった所になる。

 ここで「あれ?」って思った人もいるかもしれない。操縦性と安定性の両方を増大する装置なの?これって矛盾してない?って事だ。

 つまり操縦性が良いって事は例えばスティックを動かせば即座に機体が反応するという事である。それは逆に言えば機体が直ぐにバランスを崩してしまうという事でもある。

 直線飛行から旋回に入れるって事は、直線飛行で取れていたバランスを一旦崩して、新たに旋回飛行のバランスに移行させるって事だからである。

 だから逆に安定性が良いって事は、少々の事ではバランスが崩れないって事になる。

 操縦性が良いのに安定性も良い機体は有り得ない事はこれで分かるだろう。

 SCASが登場する前は、この矛盾する二つの特性を機体の目的に合わせて調整・選択していたのだ。 一般的に戦闘機は操縦性(機動性)を重視し、爆撃機は安定性が重視される。

 特にヘリコプターの場合は元々の安定性が〈負〉である、その為パイロットが常に機体をコントロールしていなければバランスを崩して墜落してしまう。だから、機体を操縦する事だけにワークロードを奪われて任務に支障をきたす訳にはいかないのだ。

 それを踏まえて。

 まずSCASの機能の〈安定性〉増大を説明しよう。簡単に言えば操縦装置のパイロットからの入力以外を排除するって事だ。

 例えばホバリング中に風で機体姿勢が乱された時、元の姿勢を維持する操舵を自動で行うのである。あとは武装、20mmGUN(機関砲)を射撃した時の反動を抑える動きもそうだ。それに忘れてはならないのが、クロス・カップリングの修正である。それもSCASが或る程度は補正してくれている。

 クロスカップリングと言うのは、例えば右旋回時に機首が上げられたり、上昇や増速の為にコレクティブ・レバーを使った時にTQトルクの増加によって機首が右に振れる現象の事。操縦装置の単一な操作に対して、それとは関係の無い動きが出る事である。

 そのクロス・カップリングを打ち消す操舵をSCASが自動で行っているのだ。

 但し、SCASでもクロス・カップリングを完璧に抑え込める訳では無い。まあ、それでもパイロットのワークロードについて大分軽減されてるのは間違い無い。

 では次に、〈操縦性〉の増大について。

 操縦装置がコントロール・ロッドやワイヤー、チェーンなどで物理的に繋がっていた時は、当然パイロットが「1」動かせば舵面も「1」動いていた。(まあ、実際は1:1である必要は無く、機種によって任意の比率に設定出来るけど、通常はその比率が固定されているわ)

 でもフライ・バイ・ワイヤーで電気信号による制御になった時、パイロットの入力と舵面への出力は任意の比率を自由に設定出来る様になったのである、常に1:1である必要は無くなったという事だ。

状況によっては1:1.5や1:2、或いは1:0.8など柔軟に変化させる事が出来る様になったのだ。つまりパイロットが機体を大きく、或いは素早く動かしたいと思って操縦した時だけ、それに合わせて比率を変更する事が可能になったのだ、それも自動で、である。

 詳しい仕組みの説明は省略するが、コントロール・ロッドとアクチュエーターの組み合わせをSCASが制御しているのだ。パイロットが手動で設定を変更しなくてもそれをSCASが代わって行ってくれるのである。


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