オヤジ二人
この戦争が正しいかどうか、そんなのは後世の歴史家が判断することだ。ここは学校じゃないから、国のため、天皇陛下のため、家族を守るため、そんな観念的なことは論じなくていい。われわれは、敵に勝つためだけに訓練を行う。空戦になれば、向かってくる敵機を叩き墜とす、それだけを考えろ。目の前の敵機との戦いに全力を尽くせ。
海軍航空隊 少佐 鈴木 實
師団司令部でのミーティングを終えた俺達は、駐屯地を離れて陸軍の飛行場へと移動していた。
持ち込んだサーペント2機は整備の手で既に準備が整えられており、ジュリエット達は早速先の打ち合わせ通りのクルー編成で地形慣熟のフライトへと出発した。
「ようサッド、ワシから話を切り出しておいて何だがプリンスの件いいのか」
「今更だなロック。
実は他の皆には黙っていたが、事前に航空隊のパイロットについても可能なら実地で経験を積ませてもらいたいとの依頼があったんだよ。
まあ、実際に引き受けるかどうかは保留にしていたんだがな」
「ほ、そいつは」
「白々しいな、アンタ知ってただろ。
確か今回の共同訓練に関する書類の中にエルリック・ベリク中将の名があった」
「ああ、ベリク中将ってのはプリンスの父親だよ。
この国の族長に連なる一族だな、王位継承順位は相当に低いが一応傍系王族って事になる」
「ふむ、じゃあスヴェトラーナ准尉は本物のプリンセスって訳だな」
「ま、そう言うこった。本人はベリクって家名に色々と複雑な思いが有る様だが。だから、あえてプリンスってタックネームを付けてやった訳さ」
「それにしても、一匹狼のアンタがどう云った風の吹き回しだ」
「…ワシはな、弱い人間なのさ。
それを自分で良く知っている。
この歳になるまで独り身を通してきたのもその為さ」
「うん?」
「察しの悪い奴だな。
つまり、女房やガキが出来ればワシはもうそれが人生の優先事項になっちまうって事だよ。そうなっちまったら、もう以前の様なフライトは無理さ。
どうしたって愛する家族の元へ生きて帰りたいって思っちまう。そう、たとえ卑怯な振る舞いをしてでもな。
でもなあ、そんな事をして生き残っても結局の所ワシは決して自分を許すことは出来んと分かってもいるんだよ。
一生消えない負い目を抱えて生きるなんて、考えただけでもゾッとすらあ。
かと言ってな、自分が死んだら残った家族はどうなる?
ワシ抜きで、新しい幸せを掴んでくれってか。
まあ、独り身のワシには全て仮定の話、いや単なる妄想に過ぎんがね」
「優しすぎるな」
「ああ?言っただろ。自己中心的なただの臆病者さ。
おっと、だからと言って決してモテなかった訳じゃないぜ。いやホント」
「コ・パイを乗せないのも、そのせいか」
「スルーかよ。
いや、まあそれもあるが、稼ぎを独り占めしたいって方が理由としては大きいよ」
「プリンスは」
「うん、奴か。
まあ、さっき家族は要らないって話をしたばかりなんだが。
この歳になると何時まで現役でいられるか、先が見えて来るわな」
「今更か、アンタは規格外だよロック」
「ふん。
まあ、そこで少々心残りが有る事に気付いたんだよ。パイロットとしてな。
人としての遺伝子をこの世に残す事は無いし、それに対しては今更どうとも思わんが」
「……」
「おい、しつこい様だが、モテなかった訳じゃないから。そのチャンスはあったから。
オホン、しかしな。ワシのパイロット人生で積み上げた経験と技術。そいつが消えて無くなっちまうと思うとな。
誰かに託すことが出来ればと思わんでも無かったのよ。まあ、そんな時にあいつと出会ったって訳さ。奴にとっては迷惑な話がもしれんがな」
「ああ、良くわかる。
俺も未だに未練がましくヘリに同乗しているのも、同じだよ」
「そうか、お前さんは病気で」
「ああ、いつか事故や任務で死ぬかもしれない、その可能性は常に考えていた。しかしヘリを降りるのはまだ相当先だと思っていたよ」
「…そうだな」




