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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第二章 教 導
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そりゃあ機長になりたいって言ったけど、けど!

「では、改めて。こちらはOMG(Operational Maneuver Group:作戦機動集団)として戦えばいいのかな」

 そんなサッド隊長の言葉を受けて、プリンスがホチキス止めされた結構厚めの資料を数冊渡してきた。

「今回の〈演習実施規定〉と〈訓練想定〉だ。複製は禁止、最終的には回収するからそのつもりでたのむ」

〈演習実施規定〉はルールブックみたいな物だ。例えば演習部隊に実弾を撃ち込む訳にはいかない為その代わりに赤の発煙筒を敵の砲弾落下、白は有毒化学攻撃と見做すなどの戦闘に関する事項や、近接戦闘時は小銃に着剣はしない、空包射撃時の安全距離はいくらかなどの安全に関する事項などを定めている。

 もう一冊の〈訓練想定〉の方はシナリオといった所である。

 演習の仮想敵国が予備役の動員を始めたとか、国境付近に部隊を集めて大規模演習を実施しているとかの開戦に関する兆候。それと情報機関による敵の分析、例えば国境を越えてくる部隊の初期編成について。或いは迎え撃つ味方部隊のおおまかな防御構想などが記されている。

 今回は私達との対抗演習なので演習部隊に対する作戦立案の為の前提条件が重点になってるみたい。

例えば、今回私達が実際に持ち込んだ戦闘ヘリAH―69サーペントは2機だけど想定上では空中突撃大隊が相手の編成に入っている、とかかな。

 まあ、その辺はこれから渡された物を読んでみて、内容を確認した後に必要なら調整でしょうね。

「なあ、コマンダー・バッツ」

 ロックがサッド隊長へ話しかける。

「サッドで構わんぞ、何だロック」

「ああ、今回あんたらはヘリを2機持ち込んできてるよな」

「ああ」

「シートを一つ貰いたいんだが」

「「ええ!」」

 一応人数分用意されていた資料を読みつつ二人の話を聞くともなしに聞いていた私は思わず声を出してしまった。

 って言うか、ロックの隣にいるベリク准尉も同じ様に声を上げている、図らずもハモってしまった。ロックからの提案だけど、どうも二人の了解事項では無いようだ。

「「…」」

 ハーレーとダークも事の成り行きを注視している。

 確かに持ち込んだサーペントは2機でパイロットはハーレー、ダークそして私の3人だけど…

 私はてっきりサッド隊長が空中指揮官として搭乗して、2機で運用するつもりだと思ってたわ。てか、それしかないでしょ。

「ロック、それはあんたがか?」

「いや、このプリンスを乗せてくれ」

「! おいジジイ、何を勝手に話を進めてるんだ」

「プリちゃんや、何か問題があるのかね」

「茶化すな!

 いや、問題あるだろ。慣熟飛行もままならない状態で演習に参加なんて、戦力低下以外の何物でもないぞ。なあ、あんた」

「フム、腕に自信が無いならこちらも特に搭乗を勧めたりはしない」

 え、何言ってんのサッド。相手を挑発してどうすんの、どゆこと?

 ロックはと言えば、何故か納得顔でしきりと頷いている。うんうん、じゃないわよ。

「くっ、そうゆう事なら是非もない。乗らせてもらおう」

 あーあ、そうなるわよね。どうすんの。

「よし、それじゃあクルー編成だな。

 長機はハーレーとダーク、2番機をジュリエットとベリク准尉。

 今回俺は地上指揮に専念させてもらおう」

「えー、本気ですかサッド隊長」

「ま、そんなトコか」

 ハーレー、あんたはダークとクルーだからいいでしょうけど。ちょっと無責任じゃ無いの。

「私はサッド隊長の指示に従うわ。

 ジュリエット、念願の機長よ。喜んだら」

「ちょっと、ダーク」

「整備班長、どうだ」

「はい隊長、こちらは問題ありません。ただしヘルメットのフィッティングとボアサイトに少々時間を頂きますが」

 サーペントの航空ヘルメットって専用品なのよね、サーペントの専用であると同時にパイロット個人にも合わせてるのよ。

 HMDS(ヘルメット・マウント・ディスプレイ・システム)に対応する為なんだけど、単にヘルメット・バイザーの表示を読み取るだけじゃ無くてパイロットの視線と索敵・照準用カメラシステムの同期ボアサイトも行わないと性能を十分に発揮出来ないワケ。まあ、ここじゃしっかりとした器材も無いからヘルメットのフィッティングも頭の形を型取りする様な本格的なものじゃ無く、大小・厚薄の各種パッドでの代用になると思うけど。

 ボアサイトも同様に、簡易ボアサイトにならざるを得ないでしょうね。何にせよ、戦闘ヘリって設備の整った飛行場を離れて野外行動する事が基本だから、その辺の対策はしっかりしてる筈よ。

「うん、了解だ。よろしく頼む」

「はい、分かりました」

 あ~、話がどんどん進んでいく。私には不安しか無いんだけど。もう一方の当事者である彼女はというと。

「なにっ、FOP(Pilot’s Flght Operating Manual:取扱説明書)がこのタブレット端末に!

 ふむ、なんとチャート(航空図)もだと。おい聞いたかロック」

 あー、なんか凄くウキウキなんですけど。しょうがない、こっちも腹を括るしかないか。

「ベリク准尉、クマ・アテラザワよ。ヨロシクね」

「こちらこそよろしく頼む。改めて、陸軍准尉スヴェトラーナ・ベリクだ。

 プリンスでいい。飛行隊じゃコイツのせいで誰も彼もプリンス呼びだ」

「そうなの、じゃ私もジュリエットで」

 この娘とはついこの前命の遣り取りをしたばっかなのに、何なんだろ。

 サッドとロックもそうね。時には味方、時には敵。戦場でも直接顔を合わせる事が無いパイロット同士だからかしら。でもあの時、もしハーレーとダークが撃墜されていたらどうだったのか。

 ま、仮定の話を考えても今は答えが出ないわね。


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