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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第二章 教 導
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教えて、ダーク先生 ②

「ここまでが、まあ基本。さて話はもう少し続くわよ。

 第2次世界大戦末期、世界の軍事情勢に大きく影響を与える兵器が登場したわ。何か分かる」

「え~、ジェット機とかですか」

「残念ね、答えは核兵器よ」

「あ~核、最悪ですね。無意識に考えない様にしてたみたいです」

「アメリカに僅かに遅れてソ連も核兵器の開発に成功するわ。将来の戦争が核戦争になるという認識は以降のソ連の軍事思想と戦略組成に大きな影響を及ぼすの。大部隊同士の戦いとは関係なくたった一発、或いは数発の核兵器によって戦略上の成果を上げる事が出来る様になってしまったのだから当然よね」

「考えたくないですけど、考えない訳にはいかないのが現実ですよね~」

「では、核兵器の登場によってソ連の軍事ドクトリンはどの様に変化したのか。

 ソ連は次に起こる大規模な戦争が核戦争になる可能性を認識しつつもそれを回避する方法を模索する様になるの」

「へえ、そうなんですね。意外」

「核兵器が与える打撃は敵味方双方に等しく与えられる事を正しく認識していたと言えるわね。

 全面核戦争回避には当然政治的な駆け引きもあるのだけれど、軍事的な話に限定するわよ」

「はい」

「ソ連軍の考え方はこうよ、敵の核兵器使用を先制するか又は核兵器の影響をどう最小限に抑えるか。

 答えは〈奇襲と機動の追求〉。

 つまり、敵に対して圧倒的な軍事力を迅速に投入する事。更に敵に十分な防御策を講じる時間を与えなければ、戦力の有効性は更に増大するって考えね」

「やっぱり、量を重視してるんですね」

「そうね。多数の部隊が広範な戦線にわたって同時に投入された場合、最大の戦力が最高度に発揮され、前方に突進する事が可能になるとの考えよ。

 多数の方向に沿って敵の防御縦深を急速に突破する事によって、彼我の部隊を直ちに混交させ、敵の指揮統制システムを完全に麻痺させるのが目的よ。それによって、敵の能力や核兵器による対応を低下させようっていう事ね」

「はあ~、敵味方が入り乱れた状態を作り出す事で核攻撃も牽制出来るって事ですか」

「まあ、そう簡単にはいかないけどね。

 奇襲によって敵の防御縦深を突破する為には、悠長に部隊を集結させている場合では無いの。何故かって、前線に張り付いてる第一梯団の後方に第2梯団や予備隊を集めていたら、これから攻撃するぞと言ってるようなものでしょ。

 下手をするとそこに核ミサイルを撃ち込まれて大打撃を受けてしまうわ。

 勿論第1梯団だけで敵を撃破する事なんて無理よ、当然第2梯団も予備隊も必要だわ、でも事前に動員する訳にはいかない。

 さあ、どうする」

「事前に集めておけないなら、集めないって事ですか。ん~、でもそれでどうやって戦うんだろ、量の重視は多分絶対でしょ、ソ連」

「解決法は、機動性の高い部隊を分散しておき、必要となる瞬間に戦場へ投入する事よ。

 今迄のような密集して縦深深く梯隊化された部隊による会戦じゃ無くて、量と集中は分散化された位置からの部隊の迅速な移動と火力の転移といった柔軟な梯隊運用によって行うと云う考えよ」

「え~、迅速な部隊の移動って言っても限界があるんじゃ」

「だから、その為には部隊単位で作戦機動を行なえる能力が必要となるの。その作戦機動を行う能力の一つとして垂直次元の活用が生まれて来るって訳よ」

「垂直次元? ああっ!」

「もう気付いたわね、そうヘリコプターによる火力支援や地上機動部隊と連携する空中機動部隊の使用よ」

「やっと私達、航空隊の出番ですね」

「機甲主力の地上次元と歩兵主力の空中次元を組み合わせれば、バランスの取れた強力な部隊が敵の作戦上の後方地域で活動出来る事になるといった考えよ。

 それがソ連の〈ランドエア・バトル・コンセプト〉ね」

「ん、ランドエア? エアランド? なんか聞いた事がある」

「ああ、それはアメリカの〈エアランド・バトル・コンセプト〉の事ね、それについてはまた今度。最初に話したドイツの〈電撃戦〉とソ連の〈縦深戦略理論〉が同じようなコンセプトから生まれた様に用兵思想って時代ごとにあるパターンに収斂していくのかもしれないわ」

「ふ~ん、そうなんですね」

「話を戻すわよ。

 ソ連は、急速な技術変化と新型の高精度兵器の出現によって、伝統的な攻防のバランスが変化したと考えていたの」

「え、どう云う事ですか」

「ジュリエット、防御する側の利点って何?」

「え、突然?」

「答えは、〈戦場を選べる事〉よ」

「戦場?」

「そう。

 つまり、敵が無視できない重要な地点に防御陣地を構築して、そこで待ち受けるの」

「え~? 敵が無視できない重要な地点って事は、結局防御側もそこそこ選べる場所って限られちゃわないですか」

「それでも、攻撃する側からすれば周到に準備された防御陣地なんて出来れば攻撃したくない筈よ。

 攻撃行動の〈迂回〉〈包囲〉〈突破〉は、この順序が選択の優先順なの。つまり、敵と正面からやり合う〈突破〉は〈迂回〉や〈包囲〉が出来ない場合仕方なく取る行動なのよ。

 攻撃側はまず第一に、どうやったら相手が準備した地形を放棄させて、準備した陣地の外で戦う様にするのかを追求するの」

「あ~確かに、言われてみればそうですね。敵の陣地なんて攻撃しなくていいならそれに越した事無いですもんね、だから相手が無視できない場所を選んで陣地を作るのか。戦場を選ぶってそう云う事ね~」

「じゃあ、逆に攻撃側の利点は?」

「え~、こっちから攻撃出来るんですから戦闘のイニシアティブを取れるって事ですか」

「まあまあ、正解ね。

 攻撃側の利点は、陣地に籠もって動けない敵に対し攻撃の時期と主攻撃の方向を選べるって事よ」

「そうか、相手をじらしたり、サプライズを仕掛けたり。なんか恋の駆け引きみたいですね~」

「あなたにしては、言い得て妙ね。

 でも現代ではね、防御側は新型の長距離精密誘導兵器等で、攻撃側が配置に付く前から自らが選択した時期に攻撃出来るようになったの。

 それによって戦闘の初期における攻撃と防御の相関関係が曖昧に変化してしまったのよ」

「ははあ。防御する側でも、だだ待受けするだけじゃ無く、ミサイルなんかで先制攻撃が出来る様になったと」

「だから、防御側の遠距離からの交戦手段、つまり高精度兵器からの攻撃を無効化する為に攻撃側は敵に対して迅速に接近する能力がより重要になって来るの。

 それはつまり、戦闘が混戦状態になるという事よ。彼我入り乱れた戦闘は、敵が高精度の戦術核兵器を使用する事を妨げられるしね」

「なる程です。だったら、作戦や戦術上の機動は更に重要になりますね」

「そう。当然そこには空中部隊による敵の後方地域での戦闘も含まれる。

 そんな、敵の縦深或いは後方地域で空中突撃部隊と共同して敵の増援部隊と交戦し、決定的な目標を奪取する為投入される部隊が〈OMG〉(Operational Maneuver Group:作戦機動集団)なの」


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