仮想敵
「仮想敵」
ダークの説明ではこう云う事みたい。
軍隊の訓練や演習では何時でも相手役の部隊がいる訳じゃ無いらしいの。て、言うか演習の大部分が実際には相手役となる部隊がいないんだって。でも、その代わりに野球やサッカーの審判みたいな役割をする演習全般を取り仕切る部署(演習統裁部って言うみたい)を編成して、その審判をする人(これは補助官って呼ぶみたい)が何人か部隊に付いて来て色々な状況を口頭や文書で指示したりするんですって。
で、演習統裁部はその補助官達の運用を始め、演習してる部隊の行動を統制したり評価したりするらしいわ。
それでね、その統裁部も演習の統裁を専門にしてる部隊じゃ無くて、統裁を必要とする規模の演習が実施される時だけ演習を実施する部隊の上級部隊で一時的に編成されて、演習部隊の面倒を見るって言うか、演習部隊の練度がどの程度なのかを評価するみたいなの。
具体的に言うと、例えばある中隊が訓練する時はその中隊が所属する連隊で統裁部を編成するって事ね。
そんな統裁部によるシナリオに基づいた演習だと、実体を持った敵の部隊がいないって事でしょ。それって、敵の動きを統裁部で自由に出来る(勿論、妥当性の有る範囲でね)反面、演習部隊の行動に対して行う統裁部の対応には物理的にも時間的にも限界が有るって事になるわ。演習部隊に張り付いてる補助官の人数も際限なく増やす訳にもいかないしね。
それに加えて、統裁を受ける演習部隊の指揮官クラスの人間の判断にも少なからず影響があるわ。
演習統裁部はね、演習を事前に準備した統裁計画(所謂演習のシナリオね)に基づいて進めて行って、その中で部隊を評価するのよ。そういう事情は演習部隊も承知してるわ、だから統裁計画の具体的な内容については知らなくても統裁部に忖度して評価したい項目に合わせた部隊行動を取ってしまう事も有るでしょうね。それは〈演習判断〉って言って厳に戒められるべき事柄なんだけど、どうしても演習をスムーズに進めたいと思う気持ちも有るから完全に意識から無くすことって難しいみたい。
だから、訓練・演習での相手役を専門とする部隊を作って、部隊を鍛えようって考えが出てきた訳なの。
でもね、軍隊の中には沢山の部隊が有るでしょ。それらの部隊が行う訓練や演習の全てに対応できる規模の仮想敵部隊を持つ事って現実的に不可能だわ、勿論米軍でもよ。だから実際には対応できる訓練内容を限定した仮想敵部隊を作って、年間何組かの部隊を訓練させるみたいなやり方をしてるようね。
例えば、空軍だったら戦闘機の部隊のみを対象としてたり、或いは防空部隊のみを対象にしてたりね。勿論陸軍でも同じよ、戦闘の場面を中隊の陣地攻撃に限定したトレーニング・センターを作ったりしてるわ。
訓練・演習にはそういった色々な種類の訓練方法が有るんだけど、だからと言ってどちらか一方が優れているっていう訳じゃ無いの、それぞれに利点・欠点が有るわ。
例えば、仮想敵部隊を使わない一方統裁方式の演習の場合だと、利点としては被評価部隊の何を評価するのかを予め決めてあるから、それに基づいたシナリオを用意しておく事で部隊を評価する為の材料を十分に収集出来るわ。もし、部隊が統裁部のシナリオから外れる行動を取ったとしても、修正出来る余地も有る。欠点は演習部隊への状況の付与が補助官からの口頭や文書によるものになっちゃうから、どうしてもリアリティに欠けちゃうって事かしら。実際の敵兵や戦車なんかと射撃や砲撃を交わす事は出来ないからね。
じゃあ次にもう一方の仮想敵部隊を使った演習の場合はどうかしら。
実際に編成された部隊を相手にするんだから、演習部隊はリアルタイムで進行する状況に対応する必要が生じるわ、しかも敵はこちらに対しても柔軟かつ継続的な対応を強制して来るでしょうね。でも、その代わり統裁部にとっても統裁計画通りの進行を重視するよりも、演習部隊の予期しない行動に柔軟・適切に対応する必要があるって所ね。それと、仮想敵部隊は演習部隊にとって大きな壁であり続けなきゃならないわ。お互いマジの真剣勝負だからね、演習部隊を打ち負かして厳しい現実を突きつけ、そこから教訓を引き出さなきゃなんないの。
そんな仮想敵部隊だけど、世界中全ての国の軍隊が持ってる訳じゃ無いのよ。
国によって色々な考えが有るわ。繰り返しになるけど、実際に部隊を相手に戦って相手を鍛える仮想敵部隊って、訓練部隊に負けるようじゃ意味が無いでしょ、いや負けてもいいんだけど負け方ってものがあるの。仮想敵部隊との戦いから様々な教訓を得てそれを今後に活かせる様にしなきゃならない。その為にも仮想敵部隊には精強な、いわば最精鋭の人員を集めなくちゃならない。使用する機材も勿論必要よね、実弾を撃ち合う訳にはいかないから、攻撃が有効か否かの判定が出来る機材を演習に参加する敵味方全員に対して準備する必要があるわ。そして、そんな精強な部隊を実戦部隊とは別に編制して常時運用する必要がある。それも結構大変でしょ。
そこで、わが社に出番が来るって訳。
国防方針や、その他様々な理由で仮想敵部隊を持たない国や、もともと常設してる仮想敵部隊とは別の兵種の部隊に対して、仮想敵部隊として訓練に協力する事、それもPMSC(民間軍事警備会社)の仕事の内の一つなのよ。
因みに、会話の最初に出てきたオプフォーやアグレッサーについて説明するとね。
オプフォー(OPFOR)は、Opposing Force(対抗部隊=仮想敵部隊)の略よ。
アグレッサー(Aggressor)は仮想敵部隊のアメリカ空軍での呼び方。
海軍、海兵隊ではアドバーサリー(Adversary)って言うわ。
或いは単にエネミーフォース(Enemy Force)って呼ぶ所も有るのよ。
はい、って言う事でサッド隊長の話っていうのは中央アジアのハザフエリ共和国って所に行って、そこの軍隊とガチの訓練をするって事みたい。




