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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第二章 教 導
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らしいぜ情報

 運命は試行の為の時間を与えないばかりか、速やかに圧倒的な凶暴さで襲いかかって来る。そして一時的麻痺状態には血なまぐさい結果が待ち受けている。すなわち、被弾炎上し、操縦不能となって地上に墜落するのである。


             ルフトヴァッフェ 大佐 ヨハネス・シュタインホフ





「おい、どうも又近々海外での任務が有るらしいぜ」

 飛行班へ入って来たハーレーが、前置き無しにそんな事を話し始めた。

「なにその“らしいぜ情報”、あなた又隊長室に行ってたんじゃないでしょうね。

 私だって用が無い時に隊長室へ行くのは一日に二回(午前と午後一回づつ)で我慢してるのに、ズルいわよ」

 サッド隊長にぞっこんなダークが、自分の欲求駄々洩れでハーレーに抗議している。話の要点ってそこなの、いやズレてるでしょ。

 それに用も無く隊長室へ行くって、いいのそれ。

「おま、そんな事してたんか。サッドの邪魔してんじゃ無いよ」

「あら、いいのよ。ホントに仕事に支障が有ったら、追い返すでしょ。

 私が行くことで、彼の息抜きになってるのよ。緊張と解放って重要でしょ」

「う~ん。ま、奴が許してるなら俺がどうこう言う事でもないか。いや、いいのか」

 良くも悪くも、サッド隊長と私達飛行班のパイロットは距離が近いのよね。隊長は元々パイロットで、しかも飛行班長として私達を直接まとめていた存在だったんだからまあ、当然なんだけど。

 で、私達は情報の出所が曖昧だったり情報源を明かせない様な、今一信憑性に欠ける話をその喋り言葉から“らしいぜ情報”って呼んでるの。

「ハーレー。だったらその情報、何処から手に入れたんです?」

 話が横道に逸れたまま進みそうだったんで、私も会話に入る事にする。

「ああ、整備班長がそれらしい事言ってたんだ」

「「ああ~」」

 その返答に、図らずも私とダークがハモる。

 うちの整備班長、シートキア・ラークシィは一見線の細い優男風なんだけど、元は米陸軍航空隊にいて事務仕事より現場大好き人間なのだ。しかも空軍からAAM(空対空ミサイル)を融通(一時的にね)して貰えるような謎人脈も持ってる凄いんだけどちょっと怖い人でもあるの。

 だから今、私とダークはシートキア班長がその情報の出所って事に納得すると同時に、どうやってその情報を入手したのか、この際深く考えない様にしましょうって共通認識に至ったって訳。

 ただし、情報源が整備班長って事は俄然確度が上昇したって事でもあるわ。

「海外か~、何処でしょうね」

「それよりも、派遣される規模よ。ここには飛べる人間が今は3人しかいないのよ」

「う~ん、マジックとスージーが合流する可能性はどうだろうな」

「げっ」

「ダーク。げって事は無いでしょ。私はまだ二人には会った事無いけど」

 そうなの、今現在このレントン飛行場/シアトルに有るA・A社回転翼航空機部の戦闘ヘリコプター飛行隊にはハーレー、ダーク、そして私の3人しかパイロットがいないんだけど、実は飛行班に所属してるパイロットは他にあと二人いるのよ。

 それが、マジックとスージー。二人は今中東の方に出張中なの、あれ?アフリカだったかな。とにかく私は何時もすれ違いで、この会社に入ってから一度も二人に会って無いのよね。さて、今回はどうなるか。


          ◆


「お、揃ってるな」

 私達が憶測の域を出ない話題をあーだこーだと話していた所に、計ったようなタイミングでサッド隊長が現れた。

「隊長っ」

 ダーク、目がハートになってる…

「もしかしてもう情報が入っているかもしれないが、海外での仕事が入った。

 詳細は後程改めて説明するから、取り敢えず概要だけ」

「了解」

 ダークは使い物にならないのでハーレーが話の続きを促す。

「場所は、ハザフエリ共和国だ」

「ハザフエリ? 聞いた事無い国だな、いや中近東辺りにあったか―」

「中央アジアだ、カスピ海の沿岸でカザフスタンとロシアに挟まれた小国だな」

「ほう、それで仕事の内容は」

「ああ、教導だ」

「なる程、OPFORオプフォーか」

 やばい、又話に置いてかれちゃう。今このメンバーで軍隊未経験なのは私だけなのよ、皆が当然知ってる様な軍事的用語も未だに知らない事の方が多いの。

「はいっ、はい!

 オプフォーって何ですか?」

「ん、アグレッサーの方が通りが良いか」

 はい出ました、分からない単語の説明に更に分からない単語。

「ハーレー、陸軍とか海兵隊とかの用語の違い以前にこの●●●●には意味が通じて無いわよ」

 ダーク、その通りなんだけど。もっと言い方が有るでしょ~。

「お、そうか。すまん、すまん。

 オプフォーもアグレッサーも仮想敵部隊の事だよ」

「仮想敵?」

 いかにも間抜けみたいだけど、仕方が無い。分からない事をそのままにしておく事は出来ないわ。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とは云う物の、実際には相手の知識不足を馬鹿にする人間って結構いるのよね~。

 幸いダークは口が悪いだけで、その手合いじゃ無いから良かったわ。

「そう、仮想敵。軍の訓練や演習で相手役を務める部隊の事よ」


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