パーソナル・エンブレム
訓練を終えた私達は、格納庫に併設されている装具室に救命ジャケットとヘルメットを格納してから飛行班へと向かった。
サーペントのヘルメットって、他の一般的な軍用ヘリのヘルメットと違って、パイロットそれぞれの頭を型取りした内装を使ってるから個人毎の専用品なのよ。
HMDS(ヘルメット・マウント・ディスプレイ・システム)を搭載してるから、被った時の重さやバランスで首に負担が掛かるんじゃないかって思われるけど、実は新しい素材を多用してるから従来品よりも却って軽量化されてるの。更にさっきも言ったけど、ほぼオーダーメイドに近い作りだからフィット感も良好で、バイザーに投影される情報を読み取る際にもストレス無く出来るわ。って言うか、その為に特別フィットする様な仕様になってるのね。
ヘルメットが個人に合わせて作られてるって言っても、外観に差異は無いからうちのパイロット達は何かしら自分の目印を工夫してるわ。
例えばダークは北欧の空想上の生き物トロールのイラストを描いてる、両手にリボルバーを構えたやたらと目つきの悪いムーミ●よ。自分で描いたって言ってたから意外な才能発見って感じね。
サッド隊長は、そのタックネーム通り稲妻よ。私は知らなかったんだけど、サッドって実はサンダーの愛称みたいなものなんだって。だから扇状に収束する3本の電光をマークにしてるの。
ハーレーはね、蛾のシルエットをイラストにしてる。なんか日本のアニメから取ったって言ってたわ。私は見た事無い作品だったけど彼がアニメを見てるなんてこれも又意外ね。でも、よりによってなんで蛾なのって聞いたら、蛾って〈飛んで火に入る夏の虫〉って諺にも有る様に自分から炎の中に飛び込んじゃうでしょ、まあそれって走光性って言う習性によるものなんだけど。でもそこから転じて決して危険に怖気づかない事、例え炎に焼かれようとも自ら危険に飛び込んでいくぜって言う精神を表しているそうよ。説明されないと全然分かんないんですけど。
私はって言うと、将棋の駒。
なんで将棋の駒って話だけど、実は私の地元の名産品なの。それで肝心の駒の種類だけど何だと思う?まあ、勿体着けても仕方ないわよね。
それは「と」よ。
所謂「歩成のと金」ね。歩の無い将棋は負将棋って歌もあるでしょ、王将や飛車角じゃないただの「歩」、だけど敵陣に斬り込んで存分に暴れまわり戦果を上げる「と金」をパーソナル・エンブレムにしてるの。デザインもシンプルだし、日本人的でしょ。
◆
はい、これからはデ・ブリーフィングの時間よ。
私のデスクのお隣はダークだからそのまま向かい合って話を始める、イニシアティブは私が取る形ね。
まず、今回のフライトでの目標について再確認して、それがどの程度達成できたのかを大まかに自己評価する事から。
次いで、個々の課目について思い出しながら、細部の操作がどうだったか振り返る。また、機内でダークから受けた指導なんかも含めて、お互いに意見を交換していく感じかしら。
「…という訳なんです」
「うん、そうね」
「今回特に実感として分かった事なんですけど、サーペントの操縦教程に書いてある着意事項の〈反転中にボールを滑らせると、目測が狂い手前接地となりやすい〉って部分ですね。ボールを滑らせた状態での反転って、当然そうじゃない操作とは反転中の機体姿勢が違うんです。
今回はサッド隊長の操縦法で意図的にボールを滑らせたんで、その辺の違いがより明確に感じ取る事が出来たと思います」
「分かったわ。
じゃあ、目測の狂いと機体姿勢の関係についてはどう考えてるの」
「はい、それについてなんですけど、私は機体姿勢って言うか姿勢変化に伴って起きる反転操作中の速度変化に関係が有るんじゃないかって思うんです。
ですから、次回はその辺を確認したいと思います。それと、今回は平坦地でのフライトでしたので、低空域訓練エリアの実際の起伏がある地形で更に技術を磨きたいなって思います」
「了解したわ。まあ、「C」練度の機長資格も取った事だし、時期相応って事かしらね」
「えへへ、やっと「格付無し」からコ・パイ(副操縦士)の「D」を経て、今や「C」機長ですからね…、ん?」
「どうかした?」
「気が付いたんですけど…、もしかして私って飛行班で一番の下っ端ですよね。
社歴も飛行時間も一番少ない」
「そうね」
「それじゃあ、いくら機長資格を取ったって言っても、誰とペアを組んだってコ・パイとしてしか飛べないじゃ無いですか~。
実際今飛行班にいるのは、ダークとハーレーだけですし…
ああ~」
「何、今頃気付いたの」
「ダーク、近々新人が入って来る予定って無いですかね」
「残念だけど聞いてないわね、あなたが来るまでは私が一番下だったのだし、我慢する事ね。
それに、新人が新米パイロットかどうかは分からないでしょ。
この業界、軍からの転職組の方が圧倒的に多いんだから。あなたよりベテランが入社して来る確率の方が大きいんじゃないかしら」
「ええ~、そんなあ」
「まあでも、サッド隊長が降りた今、パイロットの充足率が危険なくらい低下してるのは事実ね。本社の人事でもその事は承知してるでしょうから、いずれ何らかのアクションは有ると思うわよ」
「若い新人よ~、来~い!」
「何度も言うけどこの業界は元軍人、しかもベテランが多いのよ。今の私達みたいな状態って凄くレアなケースなの」
「ま~確かに。うちは女子率高め、平均年齢低めですもんね」
と、まあ少々の脱線を含みながらもデ・ブリフィーングは続いて行くのであった。




