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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第2部「サーペントチャ―マー」 第一章 技術の継承って大切よね
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編隊飛行

 私は、先行する24号を追尾する。但し、わざわざ後方に回り込んで接近する様な事はしない、先行する機体の飛行方向に対して見越し角を取って接近するのだ。

 そう、常にリード量を取って機関砲の射弾が未来位置で敵機(先行機)と交差する様に意識しながら接近するのである。速度は決して落とさない、速度エネルギーは位置エネルギーへと変換できる大切なモノだからだ。

 エネルギーはとっても大切。どれだけエネルギーを持った状態で空中戦に入れるか、或いはどれだけエネルギーの損失を抑えて機動出来るかで勝敗が決すると言っても過言では無い。速度も高度も失って、低空をフラフラと飛ぶ機体は最早射的の的、戦闘機械としての能力を失ってると言っても過言では無い。

 先行している24号に対して角度を持って接近している私達の機体は、このままのコースではいずれ衝突してしまう。24号のクルーも接近して来る私達の機体は見えている筈、だけど今の所は飛行経路を維持している。つまり、こっちの意図を探って様子を見ているって事だろう。

 24号はどんどん近づいてくる。私は、このままではオーバーシュートしてしまうギリギリのタイミングで機体を上昇させて、そこから経路を内側へと捻り込む。

 24号を追い越す勢いだった私達の機体は、上昇に転じた為に当初持っていた速度を高度へと変換、24号を見下ろす後上方のポジションを確保する。

 24号がどちらに旋回しようとも対応が可能な位置だ。実戦なら、ここから降下しつつ更に接近して敵機の未来位置へと機関砲なり、ミサイルなりを発射するのだが。今は編隊構成が目的だから、減速しつつ24号の斜め後方へと舞い降りて2番機のポジションへと移動する。

「09、ポジション」(09号機、2番機の位置へ占位完了)

『24』(24号、了解)

 よし。後は、この2番機の位置をキープして飛行するだけだ。

 戦技飛行もそうだけど、編隊飛行についても単機で飛行する事が一般的な普通の民間機では使わない技術だろう。

 編隊飛行では長機と一定の角度と距離を保って飛ぶのだが、長機との間隔は実は近い方が編隊を維持しやすいのだ。

 その理由は編隊の中で位置をキープする為の角度も距離も、長機の見え方で判断するからである。或る意味ホバリングと同じかもしれない。基準となる目標物を長機の機体に見つけて、その位置関係が動かない様にするのだ。

 例えば、機体に描いてある番号や注意書きの文字、国籍マーク、アンテナ等の突起物を複数組み合わせて目標として使っている。

 当然だが編隊は旋回もするし、上昇・降下もする。その時、長機の動きをなるべく早く、つまり動きの小さい内に感知出来れば、こっちもスムーズに追随出来るって事だ。その為には距離が近い方が目標の細部や、機体の挙動も分かりやすい、つまり初動の発見も容易になる訳である。

 しかし、普通の飛行機と違ってヘリコプターは編隊飛行でも更に細心の注意が必要なのだ。その理由はやっぱり頭の上で回ってるメイン・ローターに有る。

 どういう事か。

 固定翼機なら例えば編隊飛行をしてる時の速度が400kt(740km/h)としても、編隊を組む2機が同じ速度で飛んでいたら、相対速度は0である。2機が近づき過ぎて接触したとしても、お互いに接近する速度がつまり相対速度が遅ければ、もしかしたら機体が少し傷つくだけかもしれない。

 しかしヘリコプターだったらどうだろう。

 どんなにお互いの接近する速度が遅くても、結局メイン・ローターは高速で回転してるのだ。だから、メイン・ローターが相手に接触して損傷でもしてしまったら後は揚力を失って墜落するしか無くなってしまう。

 どうだろう、かなりシビアな状況ではないか。

 だから、編隊訓練を始めた当初は恐ろしくて中々距離を詰める事が出来なかった。正直、長機の動きの初動を捉えるどころでは無かった。

 近づき過ぎたり、遠ざかり過ぎたりで手汗は凄いわ体はガチガチになるわ、そりゃあ大変だったものだ。

 まあ結局は、とにかく訓練を繰り返して経験を積むしか無いって事なのだが。

 それに意外に思うかもしれないが、問題なく編隊を組める様になると、編隊の僚機は案外楽な所も有るのだ。

 編隊長は編隊を指揮している訳だから、当然編隊を代表して地上との無線交信をするし、編隊を目的地へと連れて行かなければならないから正しい経路を飛んでるかどうか航法もする。その他にも空中では色々としなければいけない事が多々有る、例えば燃料管理、それに天候判断などもそうである。しかし、編隊の僚機となればそれらを全て長機に任せてただ付いて行くだけでいい、物凄く気が楽だ。

 但し、僚機だからといってあまり気を抜いていると酷い目に遭う事も有るから注意が必要だ。

 訓練中の場合、突然長僚交代(長機と僚機の交代)などと言い渡される事も有るからだ。何も考えずにのほほんと飛んでたらどうなるか。

 それに訓練では無くとも、実際に器材トラブルで長機だけ引き返すなんて事も有るかもしれない。

 それが実戦だったら尚更だ。例えば、戦闘地域で編隊がバラバラになり単機で帰投しなければならなくなる事も十分考えられる。だから、編隊の僚機として飛行していても地点標定などは継続して実施して無ければ駄目だ。

 とは言え、作戦行動中の軍用ヘリはパイロットの二人乗り操縦が基本だからPNF(Pilot Not Flying:操縦を担任していないパイロット。機長、副操縦士の別に関係なく、その時操縦していないパイロットの事、航空機では常に機長が操縦桿を握っている訳では無い)がその辺をサポートしてくれている筈だが。

 ただ、余り考えたくない事ではあるが、特に実戦では自分しか操縦出来ない状況が起こらないとも限らない。人は、〈起こって欲しくない事は起こらない〉という考え方に陥りがちだが、パイロットとしては常に最悪に備えておかなくてはならない。


 無事に24号とフォーメーションを組んだ私達は、飛行場へと帰投。

最後のアプローチは2機がタイトな編隊を維持したまま、綺麗なフォーメーション・ランディングを決め訓練を終了した。


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