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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第2部「サーペントチャ―マー」 第一章 技術の継承って大切よね
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今日も今日とて訓練よ

第2部スタートです。

ジュリエット達の活躍をお楽しみに。

 今の私を作った空と地上での全ての出会いに感謝を。

 私の魂の半分は今もあの空に在る。



 私の必勝法は二つ。

 一つは見張り、太陽の中を良く探す事。又、相対速度が大きいので前方の見張りも重要だ。

 もう一つは自信。俺は絶対に他人よりも技量が優れている、と自分自身に思い込ませる事だ。自信の喪失は危険である。


                   フィンランド空軍 中尉 オラビ・プロ






「課目、直進急発進・旋回急停止。

 見張りよし」

 現在地は、レントン飛行場からほど近い低空域訓練エリアよ。レントン飛行場はワシントン州のシアトルに有って、私達A・A(エア・アーマー)社の回転翼航空機部が拠点にしているの。

 その低空域訓練エリアで対地50ftフィート(15m)でヘリコプターをホバリングさせていた私は、後席に座るサッドに向けてこれから実施する戦技課目を機内インターフォンを通じて発唱すると共に自分自身にも言い聞かせる。

 じゃ、ここでまず自己紹介ね。

 私は左沢あてらざわ くま22歳。

 PMSC(民間軍事警備会社)のA・A社に所属するヘリコプターパイロットよ。

 A・A社はアメリカのシアトルに本拠を構えていて、現場の社員の殆どは軍関係のOBなんだけど、私は例外的に日本の高校を卒業してそのまま入社したわ。

 一般的なPMSC(民間軍事警備会社)の仕事内容は、海外に展開する米軍や国連軍の基地の警備、食堂の運営や装備品の維持・管理等々、所謂下請け的な事だ。直接戦闘行動には携わらないというのが建前なのだが、現場ではそうも言ってられない事も多々有って、その辺はグレーゾーンとなっている。

 私も実は、以前派遣された東南アジアの某国で実戦を経験している。

 因みに、私の名前はさっき紹介した通りクマ・アテラザワなのだが、パイロット仲間からはジュリエットと呼ばれている。別に自分からそう呼んで欲しいって言った訳では決して無い、って言うかジュリエットって何?って話だが、タックネームと言って要はパイロット同士が呼び合うニックネームみたいな物なのだ。

 そして、わが社が運用しているヘリコプターが《LARH―69 サーペント》である。

 カテゴリーは戦闘ヘリ。但し、優秀な索敵・照準システムを利用して偵察任務にも対応出来ますって事も売りの一つにしている。

 現在世界中で配備されているこの種のヘリの中じゃ開発が最後発に当たるんで、戦闘や防御に関するシステムはかなり充実している。

 しかしながら、機体の構造や装備の優先順位に関しては、かなり大胆な割り切り方をしている。その為既存の技術をそのまま採用している箇所も多く、結果その分価格が抑えられており、その辺のバランスは絶妙だ。

 価格はそれなりだが性能の方も今一つな、多用途ヘリに武装を付加しただけの機体は採用したくは無い。しかしながら、ある程度の数は揃えたいと思っている国には魅力的に映る筈だ。

 このサーペント、米軍への採用こそされなかったものの、最初からがターゲットを予算が潤沢ではない国に絞っている為セールス的にはそこそこいい線いってる筈だ。

 日本の陸上自衛隊も価格が理由で数を揃えられなかったAH―64Dアパッチ・ロングボウに代えて、このサーペントを主力の戦闘/偵察ヘリとして導入している。


 さて、今日の訓練でクルーを組むサッドだが本名をヘルムート・バッツと言い、私達A・A社の回転翼航空機部門の戦闘ヘリ飛行隊に於いて現場で働くパイロットや整備員、その他の支援要員等々全ての責任者である飛行隊長と言う役職についている。

 サッド隊長は飛行隊のパイロット誰もが認める凄腕として私達をまとめていたのだが、或る病気の後遺症から現在はライセンスを返納して地上勤務に移っている。

 隊長の職は組織人としては出世なのだが、自ら決心して地上へ降りた身ではあっても、やはりフライトが出来ないのは不本意の様だ。

 そんな本人の思いとは別に、会社としてはある意味好都合だったらしい。というのもサッドの前任だった飛行隊長は本社のオフィスに引き籠って全く現場に顔を出さなかったからだ。実際色々な業務をそれまでパイロットのまとめ役だったサッドに丸投げ状態だった。だから正式な発令を受けてサッドが隊長職を継いだのは、組織として正常化が図られた感じである。当然、現場で働く皆にも歓迎されている。

 という訳で今回の訓練飛行での機長は私、ライセンスの無いサッド隊長は同乗者って位置付けとなっている。しかし、サッド隊長はライセンスこそ返納したとは言え、その卓越した技量は失われていない。実際に操縦桿を持たなくても十分に訓練の教官役が務まる位なのだ。

 本人も自分で操縦は出来なくてもフライトできる機会を望んでいるし、何より私達が彼の身に付けた技術を伝授してもらいたいと思っている。だからサッド隊長も勤務で忙しい中、時間を遣り繰りして訓練に付き合ってくれているのだ。

 繰り返しになるが、基本地上勤務のサッド隊長から貴重な指導を受ける今回の様な機会は得難い、それを最大限に生かさなくてはと思う。


「課目開始」

 私は、ホバリングさせていたサーペントの機首を大きく下げると同時にパワーを増大、機体は速度0から80ktノット(148km/h)まで一気に加速する。

 当然の事だが、課目を開始する前には一度現地を確認して目標となる地点を決めている。その場所があっという間に近づいてくる。

「停止目標確認、減速~」

 進行方向の左斜め前(左前方45°)の林が切れた草地、そこが停止目標だ。

 私はタイミングを逃さず左手のコレクティブ・レバーを押し下げる。

 メイン・ローター・ブレードのピッチ角を小さくして揚力を減少させる為である。

 次は、それに僅かに遅れるタイミングで右手のサイクリック・スティックを後方へと引いて機首を引き起こす。

 これは、機首を上げる事で機体を後傾姿勢にして減速する為だ。

 左手のコレクティブ・レバーの操作を先行させたのは、機首を上げる事で加速していた機体が上昇してしまわない様にする為である。今やってるこれは戦技操縦訓練だから可能な限り低く飛び、不用意に上昇して敵に発見されるリスクを避けなくてはならない。

 この時、気を付けるべき事は機首を引き起こす際の機体の動きである。

減速の為に機首上げの姿勢を取るのだが、この時機体の中心を軸に回転させると低空を飛ぶ機体のテールブームが更に下がる事になり、地表面付近の障害物に接触する危険が大きくなるのだ。低空での飛行中はローターチップ(ローターブレードの先端)やテールを障害物に接触させてしまわない様に、機体のサイズを何時も頭の中に置いておかなくてはダメだ。

 だから地面付近で減速する場合は、機体の姿勢変化を極力小さくするか、今回みたいにテールの先端を中心に機体を引き起こすのだ。

 テールからコクピットまでは距離が有るから、テールを中心に機体を起こせば相対的にコクピットの位置は上昇するけれどそこまで織り込み済みで操作しなくてはならない。最悪なのは何も考えずにコクピットに座ってる自分の位置を中心に機体を振り回す事だ。

「ロール・イン」

 ノーズアップの減速姿勢を作ったら、すかさず左旋回に入れる。

 課目は『旋回』急停止だ。

 ここでクルッっと180°回って、反対方向を向いた状態で目標の草地上に停止しなければならない。

 さて、ここでも注意が必要だ、障害物の無い上空では旋回の為に幾ら機体を傾けても平気だが、地面付近ではそうも行かない。

 理由は、頭の上で回ってるメイン・ローターである。

 サーペントのメイン・ローターの直径は約12m、だから機体を30°バンク(傾け)させると、ブレードの先端は機体のスキッド(ヘリコプターの降着装置の一種、車輪の代わりにチューブを組み合わせた物を用いる)よりも更に下を通過する事になる。結果、地表面付近で考え無しにバンクに入れるとメイン・ローターが地面を叩いてしまう事になるのだ。

 メイン・ローターを草刈り機代わりに使う事はベトナム戦争当時良くあったみたいだけれど、流石に地面が相手では即墜落だ。

 勿論、枝を切り飛ばしたブレードは、変形してしまい以後の飛行に支障が出るくらいの振動を発生させただろうから、もう二度と使い物にならなかった筈だ。どれだけベトナムの戦場が過酷だったかって話だ。

 だから、パイロットは今機体が何 ftフィートの高さにいるのかを常に把握しておく必要が有る。特に低空での機動中は一々計器を見てる暇など無い場合が多いから、周りの見え方で高度の判断が出来る様に日頃から訓練しておく事が重要なのだ。

 例えば、課目を開始する時にホバリングで高度を50ftにセットする場合。その時は最初にしっかりと計器を見て高度を合わせる。そうして、次は目を計器から外に転じて50ftの見え方を覚えるのだ。高度判定の為だけの訓練なんてもったいない、フライト中は何時でも自分の練度を向上させる為に出来る事を考えてなくてはダメだ。

 限られた飛行訓練、無駄に出来る時間は1秒たりとも無い。その為には、いざ上空に行ってからアレコレ考えったって遅いのだ、予め地上に居る時から、いや地上に居る時ほど空中での事を考えておく必要が有る、空中ではその答え合わせって考えた方かいいかもしれない。

 私自身、パイロットになってからは生活の全てがフライト中心だ。


 はい、課目はまだ終わってないわよ。次は、減速からの旋回だ。

 減速姿勢からそのまま旋回に入れるのだが、減速の為に上を向いたノーズを一旦戻してシッカリと停止位置まで行き着ける様に機体姿勢を制御して速度を調整しなければならない。当然視線は基本コクピットの外、地形を見ているから計器などは確認できない。機体の姿勢を含めて、速度・高度は全て体感での判断だ。

「よし、ジュリエット。ここでラダーだ」

 指導役のサッドから指示が飛ぶ。

「ハイ!」

 サッドの指示に従って私は左のラダー・ペダルをグーッと踏み込む。

 ラダーを操作する事で旋回中の機体のバランスをわざと崩して機首方向だけを無理矢理捻じ曲げるのだ、すると機体はあたかもラリーカーが車体をドリフトさせてコーナーを曲がる様に、低空を機動する。

 ここから再度機体を減速姿勢にセット、停止目標へ持っていく。

私は当初決めた目標上空でホバリング停止が出来、課目を終了する。

 しかし訓練に先立ってサッドがアシストしてくれた見本の時みたいなコンパクトな旋回とは程遠く、課目の出来に全く納得が行かない。

「もう一度、実施します」

「了解だ」


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