表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第七章 対決! ハインド
32/107

一難去って

 取り敢えず一息吐けたわ。

 そんな風に思った時だった、一瞬気を抜いた私の視界が突然真っ白になった。

「!」

 雲だ。しまった、いつの間にか雲底が下がってた所に突っ込んだんだわ。

 やばい、何にも見えない。

 機体の姿勢も分かんない。

 旋回した状態で雲に突っ込んだ筈だけど、私の体感じゃ機体が傾いてるのか水平なのか、機首が上がってるのか、下がってるのか全く分からない!

「計器飛行モードだ! HMDSを切り替えろ」

「はい!」

 一瞬パニックに成り掛けた私に、サッドの指示が飛ぶ。

 サイクリック・スティックのスイッチを弾く様にスライドさせて、HMDSのモードを切り替える。するとヘルメット・バイザーに疑似水平線を示す輝線と飛行諸元が現れる、飛行経路は入力されて無いので針路の指示ポインター等は出ないけど、機外の状況や機体の姿勢はこれで把握出来る様になった。

「ふう、助かった」

 パイロットってね、限られた計器の指示情報や抽象化されたシンボルであっても、機体の飛行状態を頭の中に再構築して適切に飛行できる能力を持っているのよ。って言うか、そう訓練されてるの。

 それが、HMDSのヘルメット・バイザーに映し出される視覚情報であれば尚更容易に機体を操る事が出来るわ。

 素早く機体を安定させた私は取り敢えずオフにしているSCASを再度エンゲージする。

 さて次はどうしようか。まだ戦闘空域を離脱した訳じゃ無いから、ゆっくりじっくり考えてる時間的な余裕は無いわ。

「ジュ、ジュリエット。まず進路を南、次に上昇して雲の上に出ろ。グッ、ヴッエエッ」

 おう、流石サッド。操縦は無理でも的確なアドバイスだわ。そうよ、北は峠だから、最悪山の斜面に激突する可能性があったわ。

 視界が利かなくてもHMDSの情報で機体を南に向け更に上昇に移る。

「ジュリエット、すまんが俺は回復にもうしばらく掛かりそうだ…ウップ」

「了解、ASAP(なる早)で雲の上に出ます」

 ヘルメット・バイザーに投影される各種情報の中から機体姿勢と高度表示を読み取りつつ上昇を続ける。

 取り敢えず雲の中に居る限り攻撃される危険は限りなく低い筈。

 高度2000ftフィート通過、…3000ft、まだ雲を抜けない。

 5000……遂に6000ftを越えたわ。

 上昇率をもう少し上げよう。雲の中じゃあ、サッドだけでなく私まで錯覚に入ってしまいそうだ。そんな事になったら機体を立て直せずに墜落間違いなしだわ。

 8000………9000……

 …まだなの。嘘、もうすぐ1万ftを越えちゃうじゃない。

 視界を閉ざされた真っ白な空間の中をヘリは飛ぶ、比較対象が全く無いからホントに上昇してるのか分からなくなって来る。

 時折風に機体を揺すられるけど、概ね安定して飛行出来ているのでかえって体感も無い。ヘルメット・バイザーに投影される疑似水平線と各種飛行諸元だけが頼りよ。

 そんな神経をすり減らす飛行をどの位続けただろうか。しかし遂に終わりが見えてきた。

 やった、少し明るくなって来たわ。

 今までは白一色に思っていた雲中の景色も、実は微妙な濃淡があったらしい。それが太陽からの光によって強調されていく。

 もう直ぐ雲を抜ける。

 しかし、私はそれでホンの少し気を抜いてしまった。無意識の内に明るい方が上って思い込んだみたい。日差しを微かに感じた瞬間に思った雲の中の濃淡、雲の中って一様な密度って訳じゃ無い、濃い所もあれば薄い所もあるって事。それがもたらす結果については全く考えが及ばなかったわ。

 今、雲のトップに近い所迄来てるのは確かだけど、明るい方が上とは限らなかったのよ。

 その結果どうなったか。

 私達は唐突に雲から飛び出した、目の前一杯に青空が広がっている。

「ま、眩し」

 まあ、当然よね。雨だ曇りだ、なんて事は雲の下の世界の話。雲の上は1年365日、毎日晴れなんだから。

 そして雲から出たのはいいけれど、それまで順調に上昇を続けてた機体が何故か上昇を止めていた。機体の上昇率を示す昇降計を確認すると0を示している。

「??」

 そしてふとTQトルクの表示を確認した私は驚いた、なんと95%を超えている。イエローゾーンの上限いっぱい、辛うじてレッドには達して無いけど、全く気を抜けない数値である。TQは100%が上限、超えたらローターシステムに致命的なダメージを負う可能性が高い。実はハインドから逃れる為のさっきの機動で制限を超えている可能性が高いのだ、計器を見てる余裕は無かったけど多分、いや確実にあの時は制限を超えていたと思う。今再び制限を超えたら、辛うじて無事でいる機体もどうなるか分からない。

 ええ?どうなってるの?姿勢は?

 外を見るけど足元は一面の雲海だ。ここで、雲から出た時点でHMDSの表示を変更せずに計器飛行モードに入れっぱなしだったのが役に立った。

 雲海みたいな雲の表面って平らで水平線と同じイメージを持つけれど、実はそんな事は無い。

 分かりやすく凹凸が有るならまだいいのだが、平気で微妙に傾いていたりするので始末に負えない。ここにもパイロットを錯覚に陥らせる罠があるのだ。

 んで、今この機体の状況がどうなっているかって言えば。

 HMDSの表示を信じるならノーズ・アップ、左右の傾きが無いのが唯一の救いかしら。

でも何故か、機首を上げてる状態にあるにもかかわらず速度はほぼゼロ。

 つまり限りなくホバリングに近い状態。

 分かる?

 高度1万ftでホバリングよ。

 そこへ最悪の状況ついでに、もう一つの危機が迫っていたの。


          ◆


「ロック、あそこに居るのはさっき逃げられた奴じゃないのか」

 ジュリエット達の追撃を諦め再度雲を抜けて国境を越えようとしていたロック/プリンスのハインドが偶然にも雲から飛び出したサーペント発見していた。

「どこだ…

 …ああ、インサイト(目視した)。大分遠いな」

「よし、今度こそ逃がさないぞ」

「プリンス、奴の飛行方向は分かるか。

 少しばかり距離がある、上手く接敵しないと又逃げられるぞ」

「任せておけ、ここからなら死角を突ける、真後ろに付けてやる」


          ◆


「ジュリエット、機首を下げろ。まず、速度を獲得するんだ。ヴェェ」

「了解」

 全く予期せぬ事態に一瞬固まっていた私に、又もやサッドの的確なアドバイス。

 サッド、眩暈から来る飛行機酔いに苦しんでるみたいだけど、大丈夫かしら。さっきチラッと後遺症云々って聞こえたんだけど。

 ガガッ、ガガガッ

「!」

 今まで何とかホバリング状態で高度を保っていたサーペントだけど、嫌な振動と共に機体がゆっくりと沈下を始めた。1万ftでのホバリング、TQトルクは限界一杯、現在高度を維持出来ないのは当然だわ。

 パイロットの本能から、私は反射的に機体の沈みを止めようとコレクティブ・レバーを引き上げる。

 但し、先程TQが一杯一杯だったのを見てたから、コレクティブを使う量は100%を超えない様に抑え気味になる。

 私がコレクティブを使ったその瞬間だった、サーペントは高度を維持するどころか逆に急激な落下を始めた。

対地攻撃を行う時のダイブなんて目じゃない程の降下率だ。

 正に落下としか言いようがない。制御された降下じゃ無い、なす統べなく石ころの様に落ちていく。

 コクピットの中では固定されていないファイルや資料、床に溜まっていた埃などが一斉に舞い上がる、一体何が起こった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ