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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第七章 対決! ハインド
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空中戦闘機動

 ハインドは速度維持の為にロー・ヨー・ヨーを仕掛けたものの、戦闘開始時の高度が低かった為、単純に降下する訳にはいかず苦手な地表付近まで降下し更に地形に合わせて飛行しながら加速する羽目になってしまっていた。

「プリンス、敵機のケツを追うんじゃない。

 女と同じだ、後を追いかけるだけじゃ逃げられるぞ」

「フン、その例えは分からないけど。要するに偏差射撃、移動する目標に対する射撃と同じって事だろ」

「すまんすまん、バージンには意味不明だったか」

「貴様はっ、何でそう下品なんだ」

「バカ。こういう時の指示ってのはな、印象的且つ具体的な方が良いんだよ。

 生き残った時の為にもな」

「んん。奴ら、旋回を止めたぞ」

「よし何か仕掛けられる前に撃ち落とせ、プリンス」


          ◆


 自分を殺しに来る相手は大きく見えると言う。初めて真剣による果たし合いをする弟子への師匠による助言は「自分の刀の鐔で相手の額を叩き割るつもりで打ち込め」だ、それでやっと剣先が相手に届くという。

 そして今。後方へと迫って来るハインドは、もう十分大きく見える。これ以上は無理だ、もう待てない。

 私は、サイクリック・スティックのSCAS(スキャス)リリース・スイッチを押した。


【SCAS】(Stability and Control Augmentation System:スキャス 操縦性安定性増大装置)

 サーペントの操縦システムはフライ・バイ・ワイヤーだ。つまりサイクリック・ステッィクやコレクティブ・レバー、ラダー・ペダルはローターシステムとは機械的には繋がっていない。

スティック等操縦装置の動きは電気信号に変換、セントラルコンピューターを介してメイン・ローターやテール・ローター、シンクロナイズド・エレベーター(テール・ブームの横に付いてる小さな羽よ)に伝えられる。機械的なコントロール・ロッドの代わりにワイヤー(電線)が使われている訳である。だからその分だけ機体の軽量化が図られてる。

 それに加えて、操縦信号を伝達するワイヤ―についても複数用意してそれぞれの経路を別にしている、その事によってリダンダンシー(冗長性)及びサバイバビリティ(生存性)も向上してるのだ。

 そしてフライ・バイ・ワイヤーを採用した一番の理由、それが操縦にコンピューターを介在させる事で飛行に関するアシストを積極的に行えるようにした事である。それを司るのがSCAS(スキャス)なのだ。

 具体的にはパイロットの操舵入力を状況に応じて増大させる事で機体反応を良くしたり、逆に操舵入力を伴わない機体の動きを封じる事で安定性を増大させている。SCASが操縦性安定性増大装置と言われる所以である。

 だからSCASをリリースする、つまり切るという事は、コンピューターのアシストが一切無い状態で操縦するという事なのだ。

 今、何故こんな事をしたかって言うその理由は―

〈SCASは操舵入力を伴わない機体の動きを封じている〉って所。

 操舵入力を伴わない機体の動きと言うのは、具体的には気流によって機体が煽られたり、操縦のカップリングによる動きの事だ。

 そう、SCASは操縦のカップリングの制御も行っているのだ。

 だから


「うおりゃあああ!」

 私は気合一発、右手に握ったサイクリック・ステッィクを左へ薙ぎ倒す様に思いっきり操作した。

 そして、間髪入れず今度は後へと力の限り引き倒す。

 それと同時に左手のコレクティブ・レバーも、床から引き抜けよとばかりに引っ張った。

 私の無茶な操縦にもかかわらず機体は分解もせずに、瞬間左へ傾くと同時に通常の操縦では有り得ない速度で斜め上方へと吹っ飛んで行った。


          ◆


 ハインドのコクピットでは、プリンスが今まさに機関砲のトリガーを引き絞ろうとしていた。

 その瞬間。

「! 何っ」

 うずくまった鴨の様に目の前に居た敵機が一瞬で消えてしまった、一体何が起こったのか。

 標的が左にロールしかけてた所迄はシッカリと見えていた、でもその後はどうなった。

「おおぅ、奴ら何をしやがった。この期に及んでまだ奥の手を用意してたなんて。まったく、やりおるわい」

「何が起こったんだ、ロック」

「プリンス、ぼーっとしてるんじゃない。

 敵を見失ったなら、自分の位置をとにかく変えるんだ。今度はこっちが撃ち落とさせるぞ」

「了解だ、でも完全に見失っちまったぞ」

「ふむ、ワシらが十分に近寄った所を見計らって死角へと飛び込んだんだろうが。

 いったいどうやったものやら」

「これからどうする」

「別れた2番機の状況をまずは確認だな」

「そうだ、忘れてた」


          ◆


 ハインドに後方へ付かれ絶体絶命のサーペント、ジュリエットのとっさの操縦。その時機体にいったい何が起こったのか。


 メイン・ローターのローターディスク(回転面)は左に傾ける事によって、クロスカップリングによる機首上げモーメントが発生する。通常ならここでSCASによる制御が自動で働くのだが、今SCASはOFFになってる。

 つまり、急激な左へのサイクリック・ステッィク操作の結果、SCASによって打ち消されないままの機首上げモーメントが発生。

 更に、間髪入れずにサイクリック・ステッィクを後へ倒すという機首上げを助長する操作が加わり。

 ダメ押しとばかりにコレクティブ・レバーを限界を無視して使用した事によって推力が増大。

 結果機体は急激に左へとロールし、それとほぼ同時に、斜め上方へと瞬間的に移動したのだ。


 空中戦で敵機を仕留めようとする場合、腕の良い相手ほどこちらに最大限接近して来る筈。だから尚更標的が目の前から急に消えた様に感じたと思う。

「よし、成功よ」

 コクピットの中はレッドやアンバーの警報灯が点灯しまくっているし、耳元のレシーバーからは警報音が鳴りっぱなしだ。だけど、後ろについていたハインドを引き離すことには成功している。

 限界を超えた操縦によって機体の特別点検やローター関連の部品交換が必要になる筈、後が大変だろうけど、それも生きて帰り着けたらの話。撃墜されなければ問題ない。

 取り敢えず一息吐けたわ。

 そんな風に思った時だった、一瞬気を抜いた私の視界が突然真っ白になった。


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