表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第七章 対決! ハインド
30/108

サッド!

「2番機の奴め見つかったか、奇襲は失敗だな。

 よし、そうとなりゃ何時までも敵機にケツを晒してる場合じゃねえ。オーバーシュートさせるぞ、減速」

「うきゃっ」

「気持ち悪い声をだすんじゃねえ。しっかり見張ってろ、目を離すなよ」

「クソッ、了解だ」

 ロックは無茶な減速姿勢からは考えられない素早さで滑らかにハインドを操り、改めてジュリエット達のサーペント1番機の追尾を開始する。機体の周囲を流れる空気を直接見る事が出来る様な、的確で無駄のない洗練された操縦だ。

「よし、ユー・ハブ」

「え、いいのか。アイ・ハブ」

「仕留めて見せろ、プリンス」

「任せておけ、ロック!」


          ◆


 ガクッ

 急旋回してハインドから距離を取ろうとしていたその時、突然機体が大きく揺れた。

「ぐっ、う」

 同時にインターフォンからサッドのうめき声が聞こえる。何事!

「サッド!」

 返事は無い。

 機体は急に機首を上へ向け、速度が失われ始める。私は咄嗟にサイクリック・ステッィクを掴んで機を水平に戻す。

「アイ・ハブ!」

 私はそう告げて、サイクリック以外の操縦装置、コレクティブとラダーも強引に引き継ぐ。

「ユー・ハブ…」

 ようやく、絞り出すようなサッドの声が届く。

 何? いつの間にか被弾してた? 私の脳裏に初めてヘリを操縦したあの時の状況が浮かんで来る。ダメッ、今は戦闘中よ。

 瞬間、体が緊張で硬直しそうになるけど、でも今の私はあの時とは違う。

 一つ大きく深呼吸。よし、ダイジョブだわ。

「サッド!何があったの」

「ジュリエット、すまん。眩暈が、クソッ、酷い眩暈だ、全く収まらない。こんな時に後遺症か… グフッ、ウッ、ッグ」

「サッド、大丈夫なの。何かできる事は」

「大丈夫だ、死ぬわけじゃない。

 ただ、クソッ、すまん、平衡感覚が完全に麻痺してる様だ、吐き気も…グッ酷い。

 それよりも…とにかく戦場を離脱するんだ」

 そうだった、私達が相手をしてたハインドはどこ行った。

 戦闘中に敵機をほったらかしにするなんて、やっぱり緊張してた。まず生き残らなくちゃ、全てはそれからだ。

 漫然と直線飛行してた機体をとにかく再び旋回に入れる。

 その直後、今まで私達がいた場所を機関砲の曳光弾の帯が舐める様に掠める。

 バンッ

「わっ」

 ハインドの12・7mm機関砲だ。キャノピーで覆われたコクピットの中まで砲弾が空気を切り裂く音が聞こえた。

 あっぶな~。やばい、いつの間にか後に付かれてた。

 敵の第一撃を偶然にも躱した私はラダーを踏み込んで機体を滑らせる、機体の進行方向と機首方向をわざと変えて敵の照準を狂わせるテクニックだ。

 次に何時撃たれるか気が気じゃない私は、とにかく敵機から目を離さない様に後ばかりを気にして機体を操っていた。

 90°に近いバンクを取って無理矢理急旋回を切る、体に掛かる荷重は3G程か。コレクティブ・レバーを持つ左腕がGの影響を受けて下がろうとする。TQトルクが減少すれば速度が落ちるか高度を維持できなくて地面に激突だ。

 私は、歯を食いしばって腕に力を込めコレクティブを引き続ける。顔は斜め後ろを向きっぱなしだ、その時視界の隅に映るハインドがスッと下に移動するのが見えた。

 追尾を諦めたのか。いや違う、ロー・ヨー・ヨーだ。

 元々、減速姿勢から無理矢理追尾してたハインドは私達の旋回に合わせて速度が必要以上に低下するのを嫌ったのだ。その為、一度降下する事によって位置エネルギーを運動エネルギーに変換し、経路を内側へ曲げつつ再度上昇、今度は運動エネルギーを位置エネルギーに変えて私達に攻撃を仕掛けるつもりに違いない。

 どうする? サーペントは最小旋回半径ギリギリで飛行している、物理法則は気合や根性じゃ変えられない、もうこれ以上内側へ切り込む事は出来ないわ。何れにしても低空から突き上げて来るハインドから逃れる方法は無い。

 いや、ホントに無いのか。考えろ、私。

 今は完全に後ろを取られている、反対方向へ旋回を切り返してシザースに持ち込むか。いや、旋回を切り替えたその瞬間無防備な背中を相手にさらす事になる。ダメだ、どうする、どうする。

 遂に、急旋回を続ける私達の未来位置へ向けてハインドが上昇を開始した。

 この時私の頭の中にある言葉が浮かんだ、それはサーペントの操縦教程の一節だった。

【対ヘリコプター機動、特に性能限界付近の操作にはAH―69の飛行特性を十分に理解しておく事が必要である】

 この子の飛行特性…

 瞬間、限界まで追い詰められた私に一つのアイディアが閃いた。

(サッドの場合は閃きでお前の場合は単なる思い付きだ)

 バカ、バカ。そんな事思い出してる場合じゃ無いのよ。

 もうっ仕方ないじゃない。今まで一度も試したことは無いけど、やるしか無い。覚悟を決めろ、私。今がその時よ。

 行くわ!

 ここで私は旋回を止め水平直線飛行に移る。Gが抜けた私は瞬間楽になる、しかし気を抜いてはいられない、ハインドが迫って来る。

 仕掛けるには、タイミングが重要だ。チャンスは一度きり、やり直しは効かない。

「どうしたジュリエット、ハインドは」

「大丈夫です、任せてください」

 ハインド、何時撃って来る。

 まだか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ