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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 奇襲? 強襲!
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空中強襲

 バイザーを跳ね上げた私の目に、夜明け前の薄闇が広がる。先程迄は鼻を摘ままれても分からない程の暗闇だったのに、今はぼんやりとだが周りの地形の輪郭が確認出来る。

 そう、間もなく作戦の揚陸開始予定時刻なのだ。太陽はまだ地平線の向こうだが、目に映る世界は濃い闇の青を基調にしたグラデーションに彩られている。

 戦場に身を置いているにもかかわらず、この一瞬の刹那にだけ現れる全てが青く染められた世界に私は思わず感動を覚えてしまう。

 空を飛ぶ事を仕事にしていると、こんな心を揺さぶられる景色が突然目の前に現れる事が有る。そんな時、趣味で飛行している人ならば幾らでも感動を噛みしめる事が出来るのだけれど、私にはそれが許されない。

 景色に見惚れて後方へ忍び寄る敵機を見逃す訳にはいかない。だから感動を心のメモリーに焼き付け、瞬間気持ちを切り替える。

 少しばかり、寂しいかしら。いいえ、感動は生きて地上に帰ってからゆっくりと味わえば良いのよ。


「プリンス、現出よ~い…… 現出」

「現出」

 サーペントはホバリング状態から、垂直に上昇を開始する。

 コンソールの赤外線画像もそれに連れて上昇し、河川敷を越えて前方を見通せる位置まで移動する。

「良し、停止。GTM(対地目標化モード)捜査開始」

 サーペントを偵察が可能な必要最小限の現出位置で停止させ、レーダー捜査を実施する。

「んん? これって!」

 コンソールの戦術情報画面には赤外線画像に重ねてレーダーで発見した目標が表示されたのだけれど、それとは別に重大な事が判明した。

 空港は敵にとっても戦略上重要な施設なので対空火器等で防御こそすれ、ランウェイを破壊したりはしないだろうとの見積もりだったのだが。

「敵も考えたわね」

 なんと、一本しかないランウェイのほぼ中央に何処から集めて来たのか大型車両や重機などが多数放置されているのだ。

 ランウェイ自体は無傷の様だけど、これでは輸送機は着陸出来ない。

 そう、計画では第一波を空挺降下させた後、本隊は輸送機を着陸させて展開させる筈だったんだけど……。

 これじゃどう考えても無理ね、地上の敵を排除しつつ障害物を撤去してランウェイをクリアにするには時間が掛かり過ぎるわ。

 作戦全体のタイムテーブルは計画通り進行している、知り得た情報は直ちに共有しなければ。後の判断は上がするでしょう。

 よし、データリンクを通して事前制圧の為にこちらへ向かっている筈の戦闘機(確か空軍の虎の子であるF‐16だったと思う)に目標情報を送信。合わせて、目視した現地の様子を空中指揮系の無線で放送よ。

「ジルコニア・リーダー、こちらシーサー2。

 ランウェイ上に障害物多数、ジルコニアの着陸不可能。撤去にはかなりの時間を要すると思われる。」

 ジルコニアは空挺部隊を載せてる輸送機部隊のコールサインよ。

『シーサー2、ジルコニア了解。

 空挺降下は中止、中止。

 作戦はO‐2(行動方針‐2)、ヘリボンによる空中強襲に変更。

 変更後のタイムスケジュールは追って達する』

 判断が早い。この辺は、しっかりと現場に指揮権が委任されているらしい。戦場の霧は前線に近い程薄いって事が常識だからね。

「ジュリエット、ジルコニア・リーダーは流石だな。

 自分の責務をしっかりと全うして、行動方針を遅滞無く決心出来る指揮官がいるって事は素晴らしい」

「ホントそうね」

 ここで更に空軍からも無線が入る。

『マルテンサイトも了解した。

 ホールディング・エリア〈カラット〉で待機する』

 マルテンサイトは空軍の戦闘機F‐16のコールサインね。

 さて。私達もこのままここでホバリンクを続けている訳にはいかないわ、燃費が悪すぎる。

 近くに接地して待機って手も有るけど、敵地でそれを単機でするのはちょっと大胆に過ぎる。やっぱり、一度海まで戻って海岸線付近でホールディングが妥当かしらね。

「プリンス、一度海まで引き返すわよ」

「了解」

 私達が機首を川下に向け直そうとしたその時、飛行場の遥か東の空に閃光が走った。

 東海岸での揚陸作戦に対する味方戦闘機の事前制圧だわ。本来なら、東西2正面での同時爆撃で作戦が開始される予定だったんだけど、仕方が無いよね。今頃はハーレーとダークのシーサー1も、揚陸予定地点付近でEA(空中電子攻撃)を行っている筈だわ。

 ピピピッ

 電子音がヘルメットのイヤー・カップに響く。コンソールを見ると、右下に縮小表示しているデータリング・ウインドウがブリンクしている。

 タッチして開くと、最新のタイムテーブルが表示される。

「プリンス、飛行場制圧は45分ディレイで進行するみたいよ」

「45分って、随分と早く無いか」

「ええ。揚陸作戦の第2派に使用する予定だったヘリボン部隊をこっちに転用するって事みたいね」

「まあ、ヘリなら降着可能だろうけど……」

「うん。でも決定事項だから、私達は私達の任務に全力を尽くしましょ。

 とにかく一度洋上に出て、時間調整よ。新しい降着時刻は完全に夜が明けた後になるわ。こっちも厳しい状況になる事が予想されるからね」

「ああ、ジルコニア(空挺部隊)もエア・アサルト(空中強襲)って言ってたな。

 了~解」


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