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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 奇襲? 強襲!
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遡 行

 と云う訳で私達はプリンスの操縦で川の遡行を始める。河口は海へと流れ込む為に比較的広い、まずは川面の真ん中を飛行する。

 左右の川岸は一段高く、増水に備えた河川敷が広がりそこから更に護岸が高く造られていて、レーダーから身を隠すには最適だ。

 後は地図に記載の無い小さな橋や、川を跨ぐ高圧線に注意する事ね。

 特に高圧線の様な線状障害物は、NVSナイトビジョンシステムでは機器の能力的にも発見が困難なのだ。その為見張りをする際は、高圧線その物を見つけようとするのでは無く、両岸に有るであろう鉄塔を見逃さない必要が有る。その辺は、機長の私と操縦するプリンスとの役割分担ね、目が4つ有る事を最大限活用しなくちゃ。

 機体にはWSPS(Wire Strike Protection System ワイヤー・ストライク・プロテクション・システム:所謂ワイヤー・カッターの事、サーペントではコクピットの上下にそれぞれ1つづつのカッターとキャノピーを防護する為のフレームに沿ったガイドがセットになって装備されている)も有るが、飽くまで緊急対処の装備だ、実際にワイヤーにぶち当たって無事で済む保証は無い。しかもメイン・ローターにでも引っ掛けたら、一瞬でお終いよ。

 緩やかに蛇行する川面を進む事数分。河幅は少しずつ狭くなり、更に周辺の地形が人工物の殆どない鬱蒼とした森へと変化して来た。

「プリンス、そろそろBPよ」

 BPとはBattle Point、即ち攻撃位置の事である。しかしながら今回は戦闘は無い予定、実際の所は視察点なのでOP(Observation Point)と呼ぶ方が適切だ。なのだけれど、私達は攻撃ヘリを運用する部隊(と言うか民間軍事警備会社ね)なので、どうしても馴染みのある言い回しを多用しがちになってしまうのよ。

 それともう一つは、言外に火力戦闘をも辞さない気概を示したいとの思いも、まあ少しは有ると思うわ。

「了解、障害物無し。機首を南に向けて停止する」

 川は飛行場の北を流れているので、視察方向は当然南となる。

「停止後は遮蔽したままホバリング待機。現出のタイミングは、こちらで指示する。

 ルック・インサイド(外の見張りはしてませんよ、計器を見てます)」

「ルック・アウトサイド(了解、こっちは外を見てます)」

 機長と副操縦士が前後に並んで座るタンデム配置のコクピットでは、操縦士相互が実際には何処を見ているかが分からない為、必ずダブル・ヘッドダウン(どちらも、外を見ていない状態)を防止する意味で、お互いに現在見ている場所を発唱し合う。

 私はここで、飛行経路の見張りから飛行場を偵察する為の準備に移行する。

 機体の操縦はプリンス、私は機長としての状況判断の他に、EWO(Electronic Warfare Officer:電子戦士官)としての役割もこなさなければならない。

 これが二人乗り操縦の利点だ。ヘリコプターは操縦するだけでも多大なリソースを必要とする。特にホバリングしてる時なんかは、とてもじゃ無いが他の操作など無理だ。

 いや、一応は自動操縦でポジション・ホールド等のモードも有るには有るけど、戦闘中の使用に耐えるレベルには残念ながらまだなってはいない、今後の技術の進歩に期待だ。


 さて、ECMポッドのジャミング・システムを作動させましょうか。

 元々機体に装備されている自己防護装置については既に作動済み、敵のレーダーに照射されたら即警報が出る状態になっている。

 そこから更にECMポッドを作動させる事で、敵の監視レーダーや目標捕捉レーダー、地上管制、敵味方識別、GPS、そして通信などの妨害を開始するのだ。

 通信への妨害は、携帯電話を起爆装置に使っているIED(Improvised Explosive Device:即製爆発装置)にも有効なので、空中部隊のみならず地上部隊の被害を軽減させる事も可能となるわ。

「ECMポッド、作動開始。

 ミリ波レーダー、モードセット・GTM」

 コクピットの上、マストの前方に装備されているミリ波レーダーをGTM(Ground Target Mode:対地目標化モード)にセット。

 それと合わせて、ヘルメットのバイザーに映し出しているNVSナイトビジョンシステムの画像を正面のコンソールに移管する。

 なんでわざわざそんな事をするかって云うと、コンソールの上なら赤外線画像の倍率を上げる事が可能になるからよ。それによって赤外線による偵察もより詳細に実施が可能になり、更にはその画像にレーダーで得た戦術情報を重ねて表示する事も出来るから、より使い勝手が良くなるからなの。繰り返しになるけど操縦を担当しないからこそ、出来る芸当ね。


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