シーサー、発艦
夜明け前の闇にも十分目が慣れた私とプリンスは、カーリィ大尉と別れて飛行甲板に係留されているサーペントへと向かう。
艦後部の飛行甲板に並んだ2機のサーペントは、整備員の手で何時でもエンジン始動が可能な状態に準備されている。
既にPR(飛行前点検)は済ませているけど、プリンスと二人でそれぞれ反対方向から機体の周りを軽く一周して外観をチェックする。
そこにハーレーとダークも合流、いよいよ出撃も近い。
コクピットの前席には機長の私、後席にプリンス。正直二人の操縦技量に大きな差は無いんだけど、私の方が社歴と69(サーペントに対する現場の呼び方、型式名称であるAH‐69に由来する)の飛行時間が多いのがその理由だ。
時間通りにエンジンを始動した私達に、整備員がウイング・ストアから引き抜いたセーフティ・ピンを手渡すと共に最終チェックの異常無しをハンドシグナルで伝えて、機体を離れる。
今日の機体のスタブ・ウイングにミサイルやロケットは取り付けては無いのだけど、その代わりに電子戦用のECMポッドと増槽を吊るしている。武器は自衛用の固定火器、20mmGUNのみだ。
『シーサー・フォーメーション、チェックイン』
長機から離陸準備が完了したかの確認が無線で届く。
「2(ツー)」(2番機準備完了)
間髪入れずに返信。
因みにシーサーは沖縄のアレじゃ無く、シー・サーペントの略ね、今回の作戦の為に色々と装備を整え、艦載機仕様にしたので、呼び名も通常のサーペントからシー・サーペントに変えたって訳よ。
「長機の離艦を確認、こちらも離艦する」
「了解」
取り敢えず操縦はプリンスに任せて、私は周囲の安全確認を実施しつつ甲板上の整備員達に敬礼を送る。
流石にこの艦からでは、飛行場や野外の展開地の様な同時離陸とは行かない。だからフォーメーションを組む迄の時間をなるべく短縮する為に、発艦の間隔を開けない様に、更に離艦後は速やかに最大トルクを使用した加速を指示する。
「2、ポジション」
プリンスが定位置についた事をリーダーに報告すると、それまで灯されていた長機の灯火が消灯される。
それに合わせてこちらも全ての機外ライトを消灯する。
甲板上では安全の為に通常の輝度で灯されていた各種灯火だが、離艦後は暗視装置に対応した肉眼では見えないモードに変更していた。それを更に今、完全に消灯した訳だ。これは、戦時故の航空法を無視したやり方である。(多分、航空法の適応除外となっている筈だから違法では無い、よね?)
フォーメーションの隊形はパレードの時みたいな見栄え重視では無く、戦闘を予期したかなりルーズなものとする。長機を視界に納めてはいるものの、何時でも自由に機動出来る事が優先だ。
私達は二人ともNVS(ナイトビジョン・システム:コンピューター補正された赤外線画像をヘルメット・バイザーに投影する事で、ほぼ昼間と同様の視界を得る事が出来る)を使用している為、日の出前の暗闇でも問題は無い。それどころか足元も後方も、機体を透かして外を見る事が出来るし、そこに飛行や戦闘に必要な各種情報を重ねて表示する事が可能な為、視線をコンソールパネルに戻す必要が最低限になる優れものだ。
勿論、それを使いこなせる様になるにはそれ相応の訓練が必要では有るのだけれどね。
現在飛行速度は120kt(約230km/h)、高度は50ft(約150m)。まあ、かなりの低空を高速で突き進んでいるって事だ。
今回の作戦、実は私達が一番最初に戦場に飛び込む事になっている。
それは私達の任務が電子戦支援だからである。支援と言っても実体はAEA(Air Electronic Attack:空中電子攻撃)なんだけどね。
AEA(空中電子攻撃)には幾つか種類があって、私達が行うのはエスコート・ジャミング。敵のレーダー覆域内に侵入して妨害を行うのだ。
防空システムは使用する武器によって対空砲(AAA:トリプルA)と地対空ミサイル(SAM:サム)に大きく分類出来るけど、そのどちらも捜索レーダーや射撃管制レーダーを使っているわ、防空指揮管制システムなんかもそう。だからそれらを無力化してしまえば、敵の防空システムの能力を大幅に減殺出来るって訳。
でもね、航空機を撃ち落とす事を目的とするシステムを無力化する為に航空機を送り込む訳だから、当然危険度は跳ね上がるって事でもあるの。全くタフな任務だわ。
「プリンス、間もなくRP(Release Point:分進点)よ。ネクスト・ヘディング300(機首方位300°)」
「スリー・ゼロゼロ、了解」
ここからは、ハーレー/ダークの1番機と別れての行動となる。
1番機は、主力が上陸する〈ブラッカァ・ビーチ〉へ。
私達2番機は、空挺降下が予定されている島唯一の飛行場である〈ターミ・シッラ〉が目的地だ。




