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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第四章 奇襲? 強襲!
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第二の天性

 飛行機と云うものは、教室で講師の話を聞く時の様に集中力を一点に絞ってはならない。自分の飛行機の状態は勿論の事、外敵の来襲に備えられるだけの訓練が必要である。


   海軍航空隊 中尉 岩井 勉

 

 

 

 明るい照明の艦内から水密ハッチを潜り飛行甲板に出る。外はまだ夜明け前、目が暗闇に慣れる迄は不用意に動けない。

 ふと空を見上げると、極薄い雲を透かして月が仄かに霞んで見える。

「綺麗な朧月夜ね」

「オボロ?」

「そうよ、日本じゃ良く春の夜に見られるの。

 春先の日本はね、よくBR(もや)やHZ(ヘイズ:煙霧)がかかるのよ。それと、Cs(シーロ・ストレイタス:巻層雲)かな、それら越しに見える月の事を朧月、朧月夜って呼ぶの。

 スプリングナイト・ウィズ・ヘイズィムーンって所かしら」

「へえ~。それって、エレガント(風流)なのか?」

「そうね、中秋の名月ってのも有るけど。私的にはやっぱり秋より春かな~。

 私の田舎じゃ、9月はもう冬って言っても過言じゃ無い位なのよ。寒いのは、ほんっとダメ」

「日本人の感覚には時々って云うか、しばしばついて行けないな。だって月だよ、100歩譲って桜の花を見ながら酒を飲むのはまあ分かる。でも月を見ながらって」

「え~、文化の違い~? ゆっくり月を眺めながら過ごすのって素敵じゃないの」

「う~ん、アジアじゃポピュラーな行事かもしれないけど、ウチはどっちかっていうとヨーロッパよりだからなあ。

 な、カーリィ。」

「え~っと、そうですね。英語圏では月はルーナティック(狂気)って言われてたりする位ですから、余り良くは思われて無いって云うか、どちらかと云えば不吉な方みたいですけど。

 そうですねえ、この国でもそこ迄の事は無いにしても、特に月そのものを愛でる行事は無いかもしれません」

「そうなの? 日本って昔はアイラヴユーを月が綺麗ですねって訳す位、月にロマンティックなイメージを持ってるんだけどな~。

 それ以外にも月見そばとか、最近では某ハンバーガーチェーンの月見バーガーとか、食文化にも浸透してるし」

「それにしても、お二人とも随分とリラックスされてますよね」

 カーリィ大尉が改まった様子で聞いてきた。

「え、何?」

「どうした?」

「今こんな質問をすべきでは無いのかもしれませんが……

 お二人は怖く無いんですか」

「あ~、そう云う事。

 そうねえ、実戦は今回が初めてじゃ無いし。そもそも操縦してて、自分がやられるイメージが無いって云うか……」

「うん、そうだな。慢心してる訳じゃ無いけど、一度離陸したら頭の中全てが空を飛ぶ事で一杯になって、地上での何やかやは何処かに行っちゃうんだよ。

 戦闘の恐怖も、その何処かにいっちゃう中の一つって事かな」

「そうそう、決して感覚が麻痺してるって事じゃ無いとは思うんだけど」

「まあ、操縦訓練を受けてた時から常にどんな時も、冷静に。ってのが、教官の教えだったし」

 そう、プリンスの言う通り。私達パイロットは多分、致命的な状況に陥っても、地面に激突するその瞬間迄、冷静に操縦を続けるんじゃ無いかと思う。

 パイロットにとって最大の敵は目の前を飛行する敵機では無く、パニックだって格言も有る位なのだ。

 他人から無神経と思われる程、冷静な上にも冷静。そうなる為に努力している内に、いつしかそれが第二の天性の様に体に染みついてしまっている。

 最早そうで無かった昔を思い出せなくなる程に、多分それはパイロットとしては良い事なのだろう。

「そうなんですね。正直その気持ちは分かりませんが、でも自分でどうにも出来ない事を心配するのは無駄って事ですよね」

「そうそう、数学と同じアプローチ。定数を動かそうとしても無駄、変数を何とかしなくちゃ」

「ふふっ、心の問題も理系的な考えで何とかなるものなんですね」

「後は、早く偉くなる事だよ。さっさと昇進して現場から離れた方が良いのかも」

「そうですね。今回の件が終わったら、私の立場も今よりは良くなるでしょうし」

「カーリィ大尉は冷遇されてるん? 女性だから?」

「いえ、主に派閥でしょうか。未だにこの国はフランス贔屓と云いますか、現実的にはもう米軍の影響力の方が勝っているのですが、歴史的な背景も有りまして」

「それなのに何でアメリカに留学を?」

「私がまだほんの小さい頃、一本の映画を観たんです。多分、映画館では無くて自宅のテレビだったと思うんですけど、その辺は記憶が曖昧で。

 今にして思えば全く意味不明と云うか、何故って感じなのですけど。幼い私の……自分で言うのもなんですが、ピュアなハートはその映画に持って行かれてしまったんです」

「え~、凄いね。

 でも少し分かるかも。初めての体験って、それがたとえ映像でも妙に心に残るよね」

「それで、その映画のタイトルは?

 僕も知ってるヤツかな」

「どうでしょう、後から調べたら興行的には今一つだったらしいので。

【メガフォース】って云う映画なんですけど」

「ゴメン、やっぱ知らないや」

「うん、私も観た事無いわ」

「いえいえ、いいんです。観たって言う人も、ほぼ100%微妙なリアクションですから」

「そうなの、そりゃあ益々気になるわ」

「メガフォースね、覚えとく」

「ええ、《正義は必ず勝つ。80年代でもな》です」


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