イージス・コンバット・システム
「はい次に行くわよ。今度はイラン・イラク戦争、1980年から88年ね」
「対艦ミサイル関係と云う事は、タンカー戦争ですか?」
「タンカー戦争? タンカーが戦ったんですか」
「いや、常識的に考えてタンカーが標的になったって話じゃないのか」
「どこの常識? そんなの知りませ~ん」
「そうね、ここでも詳細は省くけれどイランとイラク双方が原油の積み出し基地やホルムズ海峡を通過する民間船舶を無差別攻撃した件ね」
「民間の船を無差別攻撃って、そんな事有る? それも常識?」
「まあそこ迄の事をしても、原油積み出しが停止になったり、海峡が封鎖されたりはしなかったので、イラン・イラク双方ともに決定的な勝利を得る事は出来なかった様です」
「それどころか、アメリカの介入を招いているわ。
それが、プレイング・マンティス作戦よ」
「Play(遊び)?」
「いいえ、Pray(祈り)よ」
「ああカマキリか」
「ジャパニーズには苦手なLとR。
これはもう、日本人ってそう云う人種って思って貰うしかないわ。」
「諦めるなよ」
「勿論、努力はするわよ。それ前提での相互理解って事
それで、プレイング・マンティス作戦って?」
「はいはい。
ホルムズ海峡を通過するタンカーを護衛していたアメリカ海軍の駆逐艦が、イランが敷設した機雷によって損傷した事を原因とする戦いね。
これも、メディアの脚光を浴びる事のない出来事だったわ」
「アメリカ海軍による一方的な戦いでしたから」
「そうね、アメリカはイランの対艦・対空ミサイルを全て回避したのに対し、イランに対するミサイル攻撃は、ほぼ全てを命中させているわ」
「へえ~、そうなんだ。
でも確かアメリカって、対艦ミサイルの開発に対しては消極的なんじゃなかったか」
「そうよね、カミカゼ攻撃を凌ぎ切ったって慢心してたんじゃなかったっけ」
「慢心言うな」
「対艦ミサイルの開発と配備に後れを取っていると思われていたアメリカ軍が、海空一体の攻撃をほぼ完ぺきな形で成功させた事で、その疑惑を払拭させた形かしら」
「う~ん、さすがアメリカってカンジ。キチンと修正して来るわね~」
「それだけじゃ有りませんよ、イージス艦もこの頃配備が始まったのですよね」
「そうね、初のイージス・システム搭載艦タイコンデロガの就役が1983年よ」
「イージス艦って聞いた事あるわ」
「それって確か巡洋艦や駆逐艦みたな艦種の呼び方じゃ無くて、イージス・システムを搭載した艦の総称なんだよな」
「その通りよ。
イージス・システム、正確にはイージス・コンバット・システムね。
それまでは、レーダー等のセンサーで感知した敵を迎撃するには人間の意思決定が必要だったから、自ずとある程度の時間を要したわ。
更に迎撃できる目標の数も、それに対応できる射撃指揮装置によって限定された為、精々が1~2個の空中目標が精一杯だったの」
「あ~、迎撃に当たる指揮官の能力を超える数で押し切られたら困りますね」
「飽和攻撃だな」
「当時ソビエトは潜水艦と水上艦艇、それに航空機を動員した演習を実施したのだけれど、その中の対空母作戦で海空立体同時攻撃を行ったのよ」
「それって、」
「勿論、アメリカを意識しての事だろうな」
「演習とは云え、目標に対艦ミサイルの同時弾着を実現させてるわ。
そのミサイルに戦術核弾頭が含まれてたら、艦隊は壊滅でしょうね」
「ああ~、核……、核ね」
「イージス・コンバット・システムは、艦のレーダーやソーナー等のセンサー、通信機器及び兵器システムを中枢となるコンピューターを介してリンクさせた統合システムなの。
遠距離から多数が同時に飛来するミサイルや航空機、それだけじゃ無く高高度を高速で飛翔する弾道ミサイルを含めて、脅威の度を判断して優先順位を付け、どの兵器を使用するか迄、自動で行う事が可能になっているのよ」
「従来の戦闘指揮官が情報を元にして目標毎に武器を割り合てて対処していく方式に比べると、迎撃可能な目標数も時間の短縮化も比較にならない程です」
「イージス・コンバット・システムの優れている点は、個艦防空に留まらずシステムにリンクしている全ての艦が統合されていると云う事よ。
つまり迎撃に適していれば、自艦のミサイルを使って他の艦に向かっている敵ミサイルを撃ち落とす事が可能となっているの」
「艦隊が一つのシステムとして防空戦闘が可能なのです」
「な~る程、航空母艦がわざわざ迎撃ミサイルを積まなくても、情報共有してる艦隊の他の艦が守ってくれるのね」
「対艦ミサイルの脅威って、これで大分低くなったんじゃないのか」
「そうね。実際その後の湾岸戦争や南オセチア紛争でも対艦ミサイルが使用されてはいるけれど、兵器の運用などでは特筆すべき事は無かった様だわ。
そして最後に……」
(最後に?)
(最後!)




