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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第三章 ダーク研修会
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フォークランド戦争

「次はエイラートの撃沈から15年後の1987年に起こったフォークランド戦争よ」

「フォークランド?」

「確かイギリスとアルゼンチンの戦争だよな」

「アルゼンチンと云えば、ワタシ的にはサッカーかな~。

 でもこの世界、ずーっと何処かしらで戦争やってますよね」

「この戦いは、フォークランド諸島の領有を巡ってイギリスとアルゼンチンの間で約3カ月間戦われました」

「フォークランド諸島はアルゼンチンの東約400NMノーチカルマイル(約740km)に位置していて、イギリスからだと6800NM(約12600km)も離れているのよ。

 まあ離島奪還作戦として多くの戦訓を残しているのだけれど、今回は対艦ミサイルについてだけね」

(ホッ)

(いやっ、油断するな!)

「……、ン゙ン゙ッ。

 フォークランド戦争と云えば?」

「はい。アルゼンチン海軍の攻撃機シュペルエタンダールによる、イギリス駆逐艦シェフィールドと徴用コンテナー船アトランティック・コンヴェアの撃沈ですね。

 攻撃には対艦ミサイルのエグゾセが使われました」

「アトランティック・コンヴェアはともかく、シェフィールドは正規の戦闘艦だったから、当時のメディアがセンセーショナルに報道したらしいわ」

「まったく」

「シュペルって事はおフランス製の飛行機なんですね~」

「そうですね。シュペルエタンダールもエグゾセもフランス製の兵器です」

「シェフィールドが被弾した当時の状況だけれど、まず前提としてイギリス機動艦隊はアメリカの空母打撃群にある様な早期警戒機を持ってはいなかったと云う事」

「え?」

「当時のイギリス海軍は国防予算の削減から最終的には航空母艦を全廃するとの決定がなされていて、最後の正規空母だったアーク・ロイアルが1978年に退役すると空母に搭載されていた早期警戒機ガネットAEW.3も同時に退役させられてしまうの」

「え~と、フォークランド戦争が87年だから…… その9年前か」

「実際にスクラップにされてしまったのは開戦の3年前だけれど、正規空母が1隻でも残っていたらアルゼンチンは立ち上がれなかったと言われてるわ」

「う~ん。でも確かフォークランド戦争で派遣されたのが、機動艦隊って言う位だから空母が無かった訳じゃ無いんだよな」

「そうね。イギリス空母戦闘群の主力はインヴィンシブルとハーミーズの空母2隻だったのだけれど、インヴィンシブルは対潜航空母艦、ハーミーズは対潜兼揚陸戦航空母艦にカテゴライズされていて、所謂軽空母だったの」

「つまり?」

「V/STOL(垂直/短距離離着陸)攻撃機であるハリアーとヘリコプターしか載せてないって事か」

「その通り。早期警戒機を載せたくても載せられなかったのよ」

「それじゃあ、艦隊防空はどうしてたんだ」

「レーダー・ピケット艦を配置していたわ」

「えーと、それって第二次世界大戦でアメリカの空母任務部隊が対カミカゼ・アタックで使った方法なんじゃ?」

「そうですね。そして往々にしてレーダー・ピケット艦はカミカゼ攻撃の部隊が最初に遭遇する戦闘艦ですので当然……」

「最も多くの突入を受けた。

 シェフィールドも同じ運命を辿った事になるわね」

「そんなの分かってた事じゃない、戦訓はどうなってるのよ」

「戦場なんてそんなもんだろ。

 でも、ピケット艦なんだからレーダーとかどうなってたんだ?」

「勿論シェフィールドには遠距離対空見張り用のレーダーが装備されていたわ。但し当時でも既に装備から20年近く経った旧式だったのよ」

「ああ~、何でよりにもよって旧式レーダー装備の艦を攻撃ルートの最前線に位置する哨戒艦にするかなあ」

「イギリス艦隊に油断が有った事は事実ね。

 アルゼンチン海軍が攻撃機シュペルエタンダールを採用した事も、それに装備可能な対艦ミサイルのエグゾセを購入した事も当然イギリスは情報を得ていたのだけれど実はその二つ、セットとしてでは無く個別に輸入されていたの」

「つまり?」

「それらが作戦可能なシステムとして完成しているとは考えていなかったのね」

「それにしたってさあ」

「当のフランスからも、システムを構築する前に技術者が引き揚げたって情報をもらっていたみたいですし」

「この戦争でのエグゾセの総発射数は8発」

「え、意外と少ない?」

「まず駆逐艦シェフィールドに対し2発発射、内1発が命中。

 次に、コンテナー船アトランティック・コンヴェアに2発命中。

これは空母ハーミーズを狙ったものがチャフにより妨害されて、たまたま近くに居た最大の目標であるアトランティック・コンヴェアに突入したとの説も有るのだけれど真相は不明ね。

 そして航空機による最後のエグゾセ攻撃が、やはり空母に対するもので3発を発射しているわ。

 狙われた空母がインヴィンシブルかハーミーズだったのかは分からないのだけれど、1発は空母直掩の21型フリゲート艦アヴェンジャーの113mm砲が迎撃に成功し、残りの2発は空母や護衛艦艇からのチャフによって誘導を妨害され海に落ちてしまったみたい」

「2・2・3で7発、あと1発は?」

「陸に揚げてトレーラー運搬から発射したものが1発ね。

 これは、駆逐艦グラモーガンに命中して小火災を発生させているけれど撃沈には至ってないわ」

「なる程、マスコミの印象操作でシュペルエタンダールとエグゾセの戦果が如何にも凄かった様に思ってたけど、実際の所は結構微妙か」

「そうですね~。8発撃って、命中が4発。それで撃沈が2隻」

「実は1隻目のシェフィールドですけど、命中はしたんですが弾頭は炸裂しなかったみたいなんです。

 ただ、突入したミサイルのロケットモーターに残っていた推進剤が原因で大火災に発展し、最終的に艦を放棄しなければならなくなったと」

「起爆しなかった対艦ミサイルと……」

(残念)

「ダメージコントロールに失敗した駆逐艦……」

(無念)


「因みにこの当時の駆逐艦だけど、ティン・カン(ブリキ缶)って呼ばれていた第二次世界大戦頃の物とはかなり違っているのよ。

 環境の変化に柔軟に対応していった結果と云えるかしらね」

「戦艦は絶滅したけど、駆逐艦は生き残った?」

「そう。駆逐艦のデビューは魚雷艇を始末する為だったけど、その後は大型化して艦隊に随伴可能になり更に魚雷を主兵装として、戦艦に突撃する水雷戦が任務となった。

 そして戦後には、ミサイルの重要性が増しその結果、駆逐艦の兵装にもミサイルが追加され更に艦体は大型化の方向へと進む」

「当然ですが巡洋艦にもミサイルは搭載されるので、巡洋艦と駆逐艦との境界が曖昧になりますね」

「その通りよ。砲弾を装甲で弾き返していた時代は遠く過ぎ去り、敵のレーダーを妨害するジャミングやECM(Electronic Counter Measures:電子対抗手段)などのEW(Electronic Warfare:電子戦)や、チャフやフレアと云ったデコイ(囮)などが防御の手段として一般化していったわ」

「因みにですが、第二次世界大戦当時の平均的なイギリス駆逐艦の排水量はざっくりと1500t前後でシェフィールドは5000tです」

「ふわ、随分と育ったわね~」


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