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匍匐飛行 ~ ヘリコプターパイロットの細腕戦記 ~  作者: 梅小路 双月
第三章 ダーク研修会
109/113

対艦ミサイルの歴史

「まずは、エイラート事件かしらね」

「う~ん、全く分からん」

「右に同じで~す」

「エイラートはイスラエルの駆逐艦ですね」

「イスラエル!」

「駆逐艦?」

「1967年の話よ」

「すると6日戦争か?」

「いいえ、その後。消耗戦争ね」

「ああっ! 待って待って。置いてかないで~」

「6日戦争も消耗戦争もイスラエルとアラブ諸国との間で行われた、所謂中東戦争の一つだよ」

「6日戦争は別名第3次中東戦争とも呼ばれているわ。

 その名の通り6日間の戦争で、イスラエルとエジプト・シリア・ヨルダンで戦われ、イスラエルの圧勝で終わったのよ」

「しょーもー戦争も中東戦争って事?」

「そ、6日戦争で大負けしたエジプトがイスラエルに対して散発的に仕掛けた戦争だな」

「大負けしたのに」

「あの辺のイスラエルとアラブの対立は歴史的にも根深いですから」

「それもこれも、イギリスの3枚舌外交のせいだな」

「エジプトってピラミッドやスフィンクスで、なんか観光のイメージしか無かったけど、結構戦争してるのね。

 二次大戦後はずっと平和だった日本って実は凄く恵まれてるんじゃ」

「はいはい、話を戻すわよ。

 まず簡単に対艦ミサイルの歴史を話そうかしらね」

(おい、ホントに簡単に済む話なのか)

(し~、もう覚悟を決めるしか無いよ。ダーク基準の簡単がどんなかは、ダーク本人しか知りようが無いもん)

「……、ン゙ン゙ッ。

 対艦ミサイル発想の大元は誘導装置を備えた無人機に有るの。構想自体は結構古くて、第一次世界大戦にはアメリカ海軍やイギリス海軍が試作段階まで進んでいるわ」

「ええ~、一気に遡ったね」

「思ってたより昔だ」

「その後、第2次世界大戦でドイツが《V1》ミサイルや無線誘導可能な滑空爆弾《フリッツX》を実戦投入しているわ。特にフリッツXは地中海でイタリアの戦艦ローマを撃沈しているのよ」

「へえ~」

「更にドイツは、大戦後期にロケット推進式の《ヘンシェルHs293A》って空対艦ミサイルを実戦投入しているし、ジュリエットあなたの祖国日本も同じ頃《イ号一型甲》及び乙と云う空対艦ミサイルの開発を進めていたのよ」

「日本もですか、え~意外~。

 ドイツはなんか科学力は世界一ィィィィってイメージ有りますけど、うちも案外負けて無いですね。いや戦争には負けましたけど」

「いや日本は、当時もゼロやヤマトって云う世界水準を超える兵器を開発してただろ」

「あ、確かにそうか~」

「そうね、後は余り良いイメージは無いかも知れないけど航空機による自爆攻撃、所謂カミカゼ特攻は、ある意味人間を誘導装置にした対艦ミサイルの先祖とも言えるのよ、特にロケット推進の《桜花》なんかがそうね」

「ああ~」

「そして第二次世界大戦が終結するのだけれど、それまで対艦ミサイルを試作してたアメリカ海軍は開発を止めてしまうの」

「え、なんで?」

「そうだよ、実際にカミカゼ・アタックを受けてたのはアメリカなんだから、それが無人化したらもっと厄介な兵器になるって分かりそうなもんじゃ無いのか」

「逆ね。アメリカは日本の攻撃を凌ぎ切ったって云う経験から、対艦ミサイルに対する評価も低かったのよ。

 それと核兵器ね」

「ああ~」

「核戦争を前提としたら、対艦ミサイルは不要と。またえらく物騒だな」

「後は、そうね。アメリカ最大のライバル、大日本帝国が無くなってしまった。

 平時には平時の戦略が有り、限られた予算には優先順位も有る」

「当時、東西冷戦はまだ始まって無いのですね」

「そう、但しソビエトは対艦ミサイルの開発に対して積極的だったわ」

「何で?」

「対艦ミサイルの登場以前。主砲や魚雷の攻撃、それに航空機による爆撃もそうだけど、敵との相対位置や角度って命中を得る為にはとても重要だった事は分かるわね」

「??」

「つまり、古くは日本海海戦で連合艦隊が左大回頭トーゴーターンをしたのも、水雷戦隊が突撃するのも、雷撃機の機動も、全ては発射した後は砲弾なり魚雷なりの針路を修正する事が不可能だったからよ」

「だから、弾が当たる所へ艦や機体を持って行かなきゃならなかった?」

「そう」

「うん。確かにミサイルって自分で目標を追尾するからな。目標に対する発射する側の位置関係はかなり自由だな」

「そして射程距離の問題も大幅に改善された。

 カーリィ、対艦ミサイルの威力ってどの位か分かる?」

「そうですね、第二次世界大戦時の戦艦の主砲が直撃した場合とほぼ同等かと」

「これが意味する所が分かる?

 航空機の登場で戦艦は時代遅れとなった。

 そして対艦ミサイルの登場。でも、対艦ミサイルが直撃しても耐える為には戦艦並みの装甲が必要。

 戦艦並みの装甲を装備するって事は、戦艦並みの船体サイズとそれを動かせる動力が必要。

 どうする?」

「戦艦を復活させる……、は無いですね~」

「つまり対艦ミサイルの実用化は、戦闘艦の設計や戦い方にとても大きな影響を与えるって事。

 そもそもソビエトは日本海海戦で主力艦の殆どを喪失して、それを回復出来ていなかったから、従来の戦術に囚われる事無く新しいドクトリンへと再構築する事も容易だった筈。いえ、従来の常識を覆す事で、海軍力の不均衡を積極的に是正する意図があったのではないかしら」

「なる程~」

「ま、とにかくソビエトはドイツから捕獲した技術を元に、1950年代初頭には《KC‐1》空対艦ミサイルを開発し、更に《П‐1》艦対艦ミサイルを配備。1960年代にはより小型の《П‐15》を開発、それを主兵装とする新しい艦種《ミサイル艇》の生産を開始するのよ」

「おお~、新しい艦種」

「ミサイル艇」

「そして、1967年エジプトのミサイル艇がイスラエルの駆逐艦エイラートをП‐15で撃沈するの」

「話が繋がった」

「こ、これは小が大を倒したって事になるのでは」

「東側の新兵器によるジャイアント・キリング、ですね」

「海軍力が心許ない国は積極的に機載・艦載ミサイルを配備し始める。そして対艦ミサイルは、ミサイル艇からより排水量の大きな各種艦艇へも装備されていくわ」

「水上艦艇の戦いは、対艦ミサイル中心になって行きます」

「ソビエトも当然、空対艦、艦対艦のミサイルを次々と開発・配備していく。

 ミサイルは射程も伸び、核弾頭の搭載も可能となるの」

「ああ~、核ね~」

「さて、対艦ミサイルの能力は益々上がり、防御の為に装甲を備える事は現実的じゃ無い。

 どうする?」

「小型化して機動力を高めま~す」

「魚雷艇と駆逐艦の時に説明したけど、水上艦に関しては航空機と違って小型=高機動とはならないのよ。

ある程度の機動性を発揮するには相応の機関を装備しなくてはならないの、それに航洋性の問題も有るわ」

「う~ん。確かに、艦が機動でミサイルを躱すのは現実的じゃ無いか」

「あ、そうよ。同じ航空機繫がりで、小型化じゃ無くて自己防護装置を載せればいいんじゃない」

「具体的には?」

「やっぱりチャフやフレアとか」

 チャフとフレアはどちらも空中に散布するタイプのミサイルに対する囮で、チャフは電波を反射し、フレアは熱源を発生させる。

「それと、ECMだな!」

「そう云う事ね、基本は航空機とほぼ同じよ」


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