先ずは、戦艦と巡洋艦
「う~ん、じゃあ何も分かって無い様だから。
まずは戦艦と巡洋艦の違いから、かしらね。
ジュリエットどう?」
一先ず、コーヒーとクッキーを準備して落ち着いた私とプリンスは、ダークから教えを乞う事になった。カーリィ大尉はダークの助手的ポジションに落ち着いた感じかな。
さて
「戦艦と巡洋艦ですか」
「そう、現役の戦艦はもうこの世の何処にも無いけれど。
先ずは、そこからね」
「えっ、戦艦って今は無いんですか、アメリカにも?」
「そうよ。かつての海の覇者は、全て歴史の彼方に姿を消してしまったわ」
「し、知らなかった。
え、ショックなんですけど。プリンス、あなた知ってた?」
「その位なら、軍人として常識の範囲内だろ」
「私グンジンじゃないし~、地方人だし~」
別に僻んでる訳じゃ無いんだけど、どうしてもこの仕事をしていると軍隊経験が無い事にコンプレックスを刺激されてしまうわね。
「で、どうなの」
「ああ、はい。
え~と、戦艦は凄く強い、巡洋艦はそこそこ強い」
「そう、戦闘力の違いって事ね。
確かに戦艦を倒せるのは戦艦だけだわ、逆に言うと戦艦を倒せる砲を持っている事が戦艦の要件ね。でもそれだけじゃ不十分よ、プリンス?」
「そうだなあ、火力と来たら次は防御力か。
敵戦艦の砲撃を跳ね返す装甲を持ってる事だろう、敵を撃沈出来る火力を持ってても、その前に自分が撃沈されたら意味が無い」
「ほぼ正解。正しくは自身が持つ砲と同等の威力の砲弾に耐えられる事ね。
一度言ったけど、戦艦を倒せるのは戦艦だけなの。他の艦艇が戦艦に出会ったら、一方的にやられて終わりよ」
「そうなんですか、じゃあ戦闘艦は全部戦艦でいいじゃない。巡洋艦の意味って何?」
「それは、戦艦や巡洋艦がどの様に進化して来たのかを知る事が答えになるわ。
ジュリエット、あなたが知ってる戦艦は有る?」
「はい、戦艦大和ですっ」
「ああ。日本海軍が建造した船で、戦艦の一つの到達点ね。
でも、最初からヤマトの様な戦艦が作られた訳じゃ無いのは分かるわね。戦訓や技術の進歩に合わせて徐々に進化したって事。
じゃプリンス、戦艦のご先祖様は?」
「何処まで遡ればいいんだ?
う~ん、良く分からないけどカリブ海の海賊とかスペイン辺りの大砲を積んだ帆船か」
「良いわね。大砲を積んだ帆船に装甲を付けた戦列艦がまずあって、そこから更に時代が下って蒸気エンジンによる航走と砲塔化された主砲を持った装甲艦なんかが、まあ戦艦の先祖って言っていいかしらね。
但し、装甲艦には決定的な弱点があった。カーリィは分かるわね」
「はい。当時の技術では主砲と装甲による重量増加に対する蒸気エンジンの性能がまだ低かったので、航洋性が極端に乏しくその活動域が沿岸に限られました。
有名なのは、アメリカ南北戦争でのハンプトン・ローズ海戦でしょうか。モニターとバージニアによる装甲艦同士の戦いです」
「そう。つまり戦艦(の祖先)は攻撃力と防御力有りき、航洋性は二の次って云う思想の下に作られたって事。
じゃあ巡洋艦は? もう分かるでしょ」
「名は体を表す、ですね。
巡洋、つまり海を渡って遠く外国や自国の植民地への軍事プレゼンスを担う存在って事ですか」
「その通り、元々戦艦と巡洋艦は求める目的が違っていたのよ。
技術の発展に伴ってお互いのテリトリーが重複する様にはなったけどね」
「じゃあやっぱり、戦艦が海を渡れるようになったんだから巡洋艦はもういらないのでは?」
「戦艦ってね、ものすっごくお高いの。国家予算何年分って規模よ」
「たっか! それじゃ欲しいと思ってもポコポコ造るって訳には行かないですね、軍隊には戦車だって戦闘機だって必要ですから」
「その通りよ。戦艦の数が限られてるって事は遭遇する確率も限られるって事だからね、戦艦と出会いさえしなければ巡洋艦だって十分以上に役立つわ。
それに戦艦は強力な主砲と分厚い装甲を強力な主機で動かしてるから、艦体も大きくならざるを得ない。すると燃料の重油なんかの消費量がトンデモナイ値になって運用コストが馬鹿にならないの」
「なる程ね、建造費がバカ高い上に運用コストも洒落にならないと」
「だから、数を揃える事が出来る巡洋艦は必要って事。
それに、ほぼ艦隊決戦にしか使い道の無い戦艦と違って、植民地を持ってる国では現地に派遣する艦として重宝するし、自国に資源を持って来る輸送船団の護衛にだって使えるわ。
更には、艦隊同士の決戦に先立つ偵察にだって巡洋艦は活躍するでしょうね」
「確かに、今みたいに衛星による偵察システムなんて影も形も無いだろうし、初期には航空機だって無かったもんね。
偵察は、その場所にいる事が重要。その為にはある程度の数が必要か」




