濃い人たち
「無理言わないでよ、それって多分私が生まれる前の番組でしょ」
「でも、あながち無関係って訳じゃ無いんだぜ。プロフェッサー・イトカワがTVドラマ・スターウルフの監修をしてるんだ」
「おい、プロフェッサー・イトカワってヒデオ・イトカワの事か?
ジャパニーズ・アーミー・エアフォース(日本陸軍航空隊)のKi‐43の設計チームの一員だった」
ん? 意外な所から話に食いついてきた人がいるわ。
「お、ロック。その通りだぜ」
今度は陸軍航空隊? この話、何処へ向かうのよ。
「ロック、Ki‐43って何だ?」
うん、そうよね。
プリンスはハーレー以外の全員を代表する様に疑問を投げかける。
「ナカジマKi‐43《オスカー》、日本陸軍タイプ1ファイター。
第二次世界大戦当時の戦闘機だ」
「オスカーって日本の戦闘機なのに英語の名前なの?」
「それは連合軍が付けたコードネームで、《ハヤブサ》が正式名称だな」
「ああっ、聞いた事有るわ。《加藤隼戦闘隊》」
「当時ナカジマ・エアクラフトカンパニーの社員だったプロフェッサー・イトカワは、戦後は日本のロケット開発の中心となり活躍したのだよ。
ほら、何年か前に日本の宇宙探査機が小惑星からサンプルを持ち帰った事がニュースになってただろう。
その小惑星の名前がイトカワで、プロフェッサー・イトカワの功績から名前が付けられたのだ」
「思い出したっ! その探査機の名前《はやぶさ》よ。
へ~、歴史は繋がってるのね。なんか感動だわ」
「ロックさん、お詳しいんですね」
「ああ。日本は戦争に敗れはしたものの、有色人種が決して白人に劣った存在ではない事を証明したし、その後の白人による植民地支配を終わらせるきっかけを作った国だからな」
「日本を知ってくれて嬉しいけど、隼って零戦よりマイナーじゃない。良く知ってたわね」
「確かに日本海軍のミツビシA6M《ゼロ》は有名だ。しかし私見では有るが、ある程度知識が増えてくれば陸軍の戦闘機も興味深い存在だと思う様になるのだよ」
「A6Mだって、ここにも面倒くさいオタクがいるわ」
「あら、ダーク。でも私に「サムライ!」(原著「大空のサムライ」坂井三郎)を教えてくれたのはあなたよ」
ダーク、何もわざわざ憎まれ口をたたかなくても。
「ほう。サブロー・サカイの「サムライ!」はベストセラーだな。確か、アメリカは勿論カナダ、フィリピン、それにフランスとフィンランドでも出版されておる筈だ」
「へえ、そんなに沢山の国で読まれてる本なんだ」
「ああ、日本海軍航空隊の零戦パイロットだったサブロー・サカイの空戦記だな」
「やっぱりゼロ‐センなんですね」
「ゼロは名機なんだが海軍は後継機の開発に手間取ってな、結局第二次世界大戦の全期間を零戦ほぼ1機種で戦う事になったんだ。
それに対して陸軍は、タイプ1の後にも次々と新型機を投入したのだよ」
「そうなんですか、それでも陸軍機はマイナーなんですね」
「ああ~、なんか分るわ。ウチの国って太平洋戦争当時の旧海軍が〈いいもの〉で旧陸軍は〈わるもの〉みたいなカンジが何となく有るのよね~。まあイメージなんだけど、もしかしたらマスコミの印象操作なのかしら」
「お前さんの国の事情は分からんが、確かに書籍の類は圧倒的にゼロに関する物が多いな。但し、それは日本発の翻訳本に限っての事でそれ以外の研究書なんかは、陸軍機に関する物もそれなりに出版されておるよ」
「ふーん、自分の国の事なのに海外の本の方が充実してるのって、なんか残念ね。
じゃあ、隼の他にはどんな戦闘機が作られたの?」
「ああ。ナカジマKi‐43オスカーがタイプ1で、次がナカジマKi‐44トージョー、これがタイプ2。
オスカーは格闘戦重視の軽戦だったがトージョーは一撃離脱の重戦闘機だ。
それに、カワサキKi‐45ニック。タイプ2‐ツーシート・ファイター。
これは同じタイプ2でも、双発複座の大型戦闘機になるな」
「へえ、タイプ2が2種類有るのね」
「Ki‐44が単発・単座、Ki‐45が双発・複座だ」
「双発の戦闘機って、余り聞かないですよね」
「そうだな。ただ当時は、世界的にこの手の機体が一瞬だけ流行した事があったのだよ。
だが、爆撃機に随伴出来る長大な航続距離はともかく、やはり戦闘機としては運動性が芳しく無くてな。華々しい活躍には恵まれなかったのさ。
しかしながら、日本の本土にアメリカの爆撃機B‐29が飛来する様になると、その邀撃、特に夜間邀撃で有効な戦力として活躍する事が出来てな。ま、当初の目論見と違ってはいただろうが、相応の実績を残せた事は幸いだったと思うよ」
「そんな機体もあったんだ。でも本土爆撃で活躍の場が巡って来るなんて、ちょっと複雑かも」
「そして、カワサキKi‐61トニー、タイプ3。陸軍唯一のリキュード・クールド(液冷)エンジン装備の機体だ。
後は、ナカジマKi‐84フランク、タイプ4。ナカジマ・エアクラフトカンパニーがタイプ1、2を踏まえて世に送り出した集大成的な機体だな。
そして最後、カワサキKi‐100、タイプ5。カワサキKi‐61トニーの液冷エンジンを空冷エンジンに換装した機体だ」




