第六話
「ちょっと、まだ付かないの!?」
「ま、だ」
「黙って歩けよ、うるせーなー」
今後直属の上司になる事になった近衛騎士団副団長アリアからの命により、勇者パーティ一行はヴェルケットに向かうために険しい山道を登っていた。
魔術師のマリンにとって山道を走る事は苦境でしかなかった。
「なっ、ていうか何でアンタは平気なのよ!」
「俺が盗賊だってお忘れですか? 追ってから逃げるために二つ三つの山を越えるなんて日常だったんだよ」
「ば、化け物……! 気持ち悪い!」
「おいこら最後のはいらねえだろ!」
「気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」
「ぬがあああああああああっ!」
「うるっっっっせぇええええええええええんだよおおおおおお!! 黙って山も登れねえのかてめぇらは!!」
いい加減に嫌気が差したガッサムが叫んだ。
「ご、ごめんなさい」
「へっ。怒られてやんのー」
「ッ、アンタのせいでしょ!」
「おっ、また怒ったぞガッサム、ほら怒れ怒れ!」
「……ニックは晩飯抜きだな」
「え?」
「ぷふっ」
ど、どうして俺が!
この女、よくも……!
「はあ。どうなる事やら……」
「…………」
「トン、ボ」
その様子を見てパーティリーダーのリヒトはパーティの行く末を案じて溜息を吐き、オリヴィアは彼らのやり取りを無言で見つめ、カルはマイペースに空を飛ぶトンボを目で追うのだった。
しばらく歩いてようやくヴェルケットより一つ手前の街に辿り着いた。決して都市と呼べる程の規模の街では無いが、王都へ向かう道のりの中間地点として行商人や冒険者で賑わっていた。
ここからヴェルケットの街までは山があるが一日でそれを超えて行くのは不可能だ。野営をするくらいならば、街の宿に泊まる方が安全だろう。
「アンタは一人部屋だからね」
「はあ? 何で俺だけ……」
「だってアンタ、人から物盗むでしょ!」
マリンにそんな根拠も無い事を言われた。
酷い話だ! 確かにリヒトとかガッサムから盗ろうかと思ったけど!
「マリン、それは流石に……」
「甘く見ないでよ、リヒト! コイツはこの国でも有数の泥棒なのよ! アンタらの目を盗んで盗むくらい余裕なはずよ!」
事実だから何も言い返せない。
「ううん……」
どうやら、これだけ言われてもリヒトは俺の事を信用してくれているみたいだ。全く、リヒトからは簡単に盗めそうだ。
「悪いが俺もマリンに賛成だな。コイツからは目を離すなと言われちゃいるが、俺の大事な装備が盗まれちゃ流石に困る」
「……分かった。悪いが、ニック。今日は一人で寝てくれ」
「へーい」
チッ。こいつらの装備は上等そうだし、盗んで売ればそれなりの金になりそうだったのによ。
結局、部屋割りはマリンとオリヴィア、リヒト・ガッサム・カル、ニックと三組に分かれて泊まる事になった。ついでに俺が逃げない様に交代で部屋の前に見張りが立たされる事になり、夜の街へ乗り出す機会を失ってしまった。
「あー、俺の唯一の楽しみが……」
やる気が急激に冷めていくのを感じる。
まあ別にダンジョンでも戦う気は無かったけどよー。
適当にやり過ごすしかねえかー。
「……あ? オリヴィア?」
木が軋む音が聞こえたのでそちらを見れば、俺の見張り当番だったはずのオリヴィアが部屋の中にまで入って来ていた。
「…………」
どこを見ているのか分からない、虚空を写す瞳のオリヴィアは無言で神衣を脱ぎ、全裸となった。
「ニック様……、私を抱いて下さい」
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