第三話 前半
まるで迷路の様に長い廊下を歩き、辿り着いたのは壮観な装飾が施された巨大な扉が付いた部屋だった。その奥には何十人もの気配があり、シンと静まり返っていた。
今までは和やかな雰囲気を醸し出していたのに、俺に不意打ちを仕掛けて来た時の様に人を殺す勢いで鋭い視線を作っていた。
「行くぞ」
「あ、ああ」
そのあまりにもアリアには似付かない厳格な声色に、緊張を隠せずに生唾を呑んでしまった。
左右に控えていた門番によって、重厚と書いて字の通りの扉はが開かれた。
アリアに扉を続いて通れば、そこに広がっていたのは夢物語の世界だった。
学の無い俺でも知っている、第二十八代目クローバー王国国王 リヴェルデ・ローグ・クロバルトが玉座に深々と腰を下ろしていた。目付きは鋭く無く、むしろ穏やかで触れ合わずとも温もりを感じるのに、その雰囲気は何者も侵す事が出来ない威厳を身に纏っていた。
扉から通った先は床に敷かれた赤い絨毯、その左右には幾人もの貴族が並んでいた。俺でも名を聞く貴族が何人もいる。
そして近衛騎士だ。彼らは揃って純白の鎧に身を包んでいるため、他の騎士と区別が付けやすい。その純白の鎧を身に纏った近衛騎士が、この場には二十七名。ほぼ全員が集まっていた。
本来の近衛騎士の役割は王族の護衛だ。つまり、今この場には王族が全員集まっているという事だ。
国王に王族と近衛騎士が全員、さらに名の通る貴族、何人か強そうな軍人か冒険者の様な者もいた。
これだけの面子が集まる事なんて、建国記念日であってもあり得ない。
一体何が起こると言うんだ。
俺はアリアと共に左右の列に加わった。
国王が起立した。
瞬間、跪く。
何が起きたか全く分からなかった。
身体が自然に動き、頭を垂れていた。
姿勢を崩そうとしてみるが、まるで蛇に睨まれた蛙の様に自由を失っていた。
これが国王の権威だとでも言うのだろうか。
「面を上げよ」
ただの言葉だ。
何も命令されていたわけでは無い。
それなのに俺の身体はようやく許しを得られたと肩の力を緩めた。
周囲も似た様なもので、許しを得てようやく顔を上げられていた。
「皆、忙しい中よく集まってくれたな」
そして俺の疑問に答える様に、国王の声は威厳に満ちていた。
リヴェルデ王から許しを得て、皆が再び立ち上がって話を聞いた。
「東の方では帝国が再び猛威を振るっているな、大臣らは皆、外交に力を入れて同盟国との繋がりを強化しておくのだぞ」
「「ははあっ」」
「そう言えば先日、ナチュールの領地で大規模な山火事があったと聞いたが?」
「はい……、そのせいで田畑の四割がやられてしまい……」
「ならば失った分は国の貯蔵から持っていくと良い」
「なっ。それは、王の物です」
「違う。国の物だ。こういう時のために、我らは税として作物を徴収しているのだからな」
最初こそ世間話に似た話をしていたが、時間が経つにつれて王は貴族一人一人に声を掛ける様になった。
文字通りに全員に、というわけでは無いが、最近に大きな功績を上げたり、何か不幸があった貴族には一通り声を掛けていた様に見える。国王と言葉を交わす貴族たちを見てると、人徳がある王だという事が良く分かった。
「父上。そろそろ、本題に」
まだまだ話が続きそうだな、と思っていたらこの場によく通る声が響いた。
「おお、そうだな。すまない。お前達と話したい事が沢山あってな……」
「い、いえ。お気になさらずに」
リヴェルデ王は残念そうに言い、こほんと咳払いをして気を取り直した。
「近年、魔物による被害が深刻化して来ている」
数人の貴族達の顔色が変わった。
誰もが表情に憎しみを浮かべているところを見ると魔物による被害にあった領主なのかもしれない。
「先日、我の元に魔族の使者がやって来た」
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