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エピローグ ~結束~

第十八話

 聖女オリヴィアの献身と協会の協力によって怪我が完治した勇者パーティは、その足でスポンサーの大貴族との会食に出ていた。

「いやあ、これで王国の未来も盤石ですな」

 オッタル・ジャン・フリートス公爵。王国上層部にて重要な役職についているわけでは無いが、彼が治める領土面積は王国内で二位であり、それだけの領地を持ちながら領民から不満が上がるわけでも無く、実に二十年以上もその地位に就いている非常に優秀な男だった。

 彼が持つ資産は膨大なもので、今回の魔王四天王撃退の報を聞き、すぐに勇者パーティに出資したいと願い出て今回の会食の場を設けたのだった。

「いえ、全ては我々を応援して下さる、王国貴族の皆さんのおかげです」

「はっはっは。上手い事を仰るな、リヒト殿は。どうぞ、飲んで下さい」

「ありがとうございます」

 この会食で主にオッタルとの会話をするのはリヒトだ。貴族令嬢のマリンや聖女のオリヴィアもこういう場は慣れているが、やはりパーティリーダーの勇者と話した方がオッタルも面白いだろうという事で、パーティ内で決定した。

 勿論、個別に質問を掛けられれば答えるが、失礼な問答があれば問題だ。勇者パーティとしてもスポンサーに離れられるのは勘弁願いたく、ある程度の常識があるガッサムはともかく、口数が少ないカルと絶対に余計な事を言うに決まっているニックは会食に参加させずに宿に置いて来た。

「いやあ、残念ですな。弓の名手のカル殿と、四天王を撃退したと言うニック殿にも話を聞きたかったのですが」

「申し訳ありません、彼らはまだ傷が癒えておらず……。次の機会には必ずお連れします」

「おお、それではその時の楽しみに、お二人と会うのはとっておきましょうか」

 勿論、嘘である。そしてオッタルもまた、二人の傷が癒えていないという事が嘘だと気付いている。

 オッタルも独自の情報網を有しており、先日にニックとカルがぴんぴんして街を歩いていたと報告が来ていた。

 元々、ニックの性格に問題がある事は例の国王に煙を浴びせた件で分かる通りだ。今回の会食でもオッタルを気遣って連れてこなかったのだと、判断する。

 だからこそ、言葉を誤ってしまった。

 失言とは本当に口から零れる様に、落ちてしまうのだ。

「しかし、元は盗人のニック殿と共に旅に出るなど、気も休まらないでしょうな」

 スン、と一瞬空気が重たくなった気がするが、オッタルはさらに失言を重ねてしまう。

「所詮は盗賊。今回の撃退の件も、どこまで本当なのか……。もしかすると魔王の内通者なのでは?」

 オッタルはこの時、これを軽い冗談だと思って言っていた。

 普段ならこんな事は絶対に言わないが、その日は勇者パーティを歓迎するために六十年ものの秘蔵の酒を下ろしており、会食の場だとは思えないほどに酔っていたのだ。

「全くその通りですよ、オッタル様」

「む?」

「会ったばかりの頃はすぐに逃げ出そうとするし、戦いたくないと喚くし……」

 オッタルに同調して愚痴をこぼすのは、最もニックと口論を繰り広げたであろうマリンだ。

「全くだ。アイツは度胸も根性も何もねえんだよ」

「はははっ。そうでしょ……「でも」……え?」

 マリンに乗っかってガッサムも愚痴をこぼすもので、愉快そうにオッタルは笑う。しかしその言葉がリヒトによって遮られる。

「彼がガルバッタを撃退したのは本当ですよ。彼自身の手でガルバッタの左眼を潰していましたから」

「盗賊って言われているけど、その技術は間違いなく世界一よ」

「そもそもアイツの冷静な指示と索敵能力が無かったら、俺達は全滅していたしな」

次々に出る、勇者パーティからのニックへの絶賛の声に少しずつオッタルは酒気が覚めるのを感じた。

 そしてこの会食が始まってから、ずっと沈黙を保っていた聖女オリヴィアまでもが口を開いた。

「ニック様は女神からの信託によって選ばれた、勇者パーティに相応しいお方です」

「~~ッ!」

ここに来て、オッタルは自分が取返しの付かないほどの失言をしてしまった事に気付いた。

 オッタルはまるで自分に対して一切の関心が無い様なオリヴィアに冷たい瞳を向けられて、背筋に悪寒が奔り顔が青ざめた。

聖女オリヴィアは、文字通り教会の象徴的な存在。実質的に教会を運営しているのは教和国の聖王だが、聖女が言えば「オッタルの領地から教会を撤退させる」事くらい訳が無い。

「も、申し訳ない。口が滑りました……」

 明らかに怒りを露わにしているオリヴィアに、オッタルは動揺して訂正になっていない謝罪を言ってしまい、さらに顔色を青ざめた。

「いえ、我々もムキになってしまいました。申し訳ありません」

 リヒトは冷静に、悪歴を残さないために謝罪の言葉を言った。

「しかしニックは我々の仲間です。仲間に対して侮辱混じりに言われれば気が良い物では無いので、お気をつけ下さい」

 リヒトは爽やかな笑顔を浮かべてそういうが、言葉の節々に怒りを滲ませている。

 オッタルはさらに青ざめて、再び謝罪の言葉を伝えるのだった。

「まあ、ニックがろくでなしなのには変わりないですけどね」

 マリンが再び、ニックの愚痴を零した。

「間違いないな。この前も財布をスられそうになったし」

「あの技も盗みをしながら発達したんだなーって思うと微妙な心境よね」

「鍛錬っていうよりは盗みだからな。まあそのおかげで助かったが」

 マリンとガッサムはその後も、ニックの愚痴を言っているのかと思えば遠回しにニックを褒めていた。

「彼は何者なんですか?」

 どうして勇者パーティの、これだけの面々に好ましく思われるのか、オッタルは純粋に気になって、質問をした。

「決まってますよ」

 その質問に答えたのはガッサムだった。

「彼は勇者パーティの盗賊。そして……、私の友人です」

 誇らしげに、嬉しそうに、リヒトは言う。

「……成程。よくわかりました。本当に……」

 その言葉と眼差しを受ければ、オッタルもまた認めるしか無かった。

 吟遊詩人が詩にして世界中に広げている、義賊ニックが勇者パーティに必要な男だということに。

 何よりも勇者パーティへの筆頭スポンサーとしての地位を盤石にするために、より出資に対する決意を強固なものにするのだった。




最終話として勇者パーティの結束、そして信頼している部分を書きました。


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