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第十六話

「っ、おい! 医者を呼べ! この方達を絶対に死なせるな!」

 門番がそう言うと、人の列の中から数人の中年と助手を務めているであろう若い女性が出て来た。彼らはすぐに道具を広げてパーティの面々を診てくれた。

「一体何があったんだ! いや、それより勇者様はどうした!?」

「……化け物が出たんだ。アイツはその殿に残った」

 そう言うと門番は顔を真っ赤にして、俺の胸倉を掴み上げて来た。

「どうして勇者様を一人で置いて来た!」

「……じゃあ、死にかけのこいつらも一緒に殺されればよかったのか?」

「……お前の服は綺麗だな」

「言いたい事があるならはっきり言えよ」

「じゃあ言ってやる。お前は勇者様を見捨てて、逃げて来たんだろう!? この恥知らずが!」

 門番がヒートアップして来て、今にも俺に殴りかかって来そうになった時、横から大きな手が伸びて門番の腕を掴んだ。

「……っ、やめろ」

「ガッサム……。お前、その傷で……」

「へっ。俺は、死ねないんだよ……」

 そう語るガッサムの顔には陰りがあった。

 だが重症なのは変わっておらず、今も呻き声を上げる程には痛みを感じているはずだ。

「……こいつは、戦っていた。何も見てねえお前がッ……、言ってんじゃねえよ……」

「……すまない。熱くなり過ぎた」

「ああ」

 俺も下手に事を荒立てたくないし、そんな気分でも無い。

 それよりもこいつらが助かるのかが心配で……。

「っ、駄目です! 呼吸が浅くなって来て……」

 その時、少し離れた場所で女性の声がここまで聞こえて来た。

 不思議に思い見て見ると、医者が俺達とは別の患者を診ている様だった。

「爺さん!?」

 よく見て見ると、そこに倒れていたのは換金所の爺さんだった。

 息も絶え絶えで、左脚の太ももには包帯が巻かれていたが、血が滲み出る程の出血をしていた。

「おー、その声は……。昨夜のガキんちょか……」

 駆け寄ると爺さんが僅かに顔を動かした。

 目は開いていないが、声で分かる様だ。

「っ、どうして……」

「実は……、避難が始まる直前までこれを鞄に詰めていて……。突然降って来た岩々に家屋が崩され、それに巻き込まれて……」

 医者が語り、その鞄とやらを見た。

 その中身は昨日俺が売った宝物が詰められていて、鞄には飛び散ったであろう血が付いていた。

「……、何でそんな……!」

「そんな物のために、か?」

 爺さんは掠れた声で笑った。

「妻にも、息子にもよく言われたわい……」

 すっと、爺さんは目を開いた。

「これが、ワシの青春……。浪漫だからじゃ……」

 すでに目は白くなっていたが、猛々しくどこか遠くを見ていた。

「冒険者が死に物狂いで戦い、一攫千金で宝を手に入れる。恋人に想いを伝える者や、親孝行をしようと故郷に戻る者もいた。それを見届けるのが最高に……。最高に、浪漫じゃろうて……」

 爺さんの眼が俺を見た。

 収点が合っていないのに、背筋にぞわっと冷たさが迸った。

「浪漫を忘れるなよ、ガキんちょ」

 そして爺さんはふっと力が抜ける様に目を閉じた。

脈を測っていた医者が首を左右に振った。

「……ご臨終です」

 爺さんは言いたい事を言い残して逝った。

 医者は道具をしまい、爺さんの遺体を布で包んで、馬車に乗せた。

「…………」

 浪漫、か。

 その言葉をずっと心の中で反芻していた。 

 浪漫。浪漫? 浪漫かぁ……。

 いくら考えても浪漫が何なのか検討も付かなかった。

 一つだけわかるのは俺が浪漫から一番程遠いい人物で……。

『浪漫を忘れるなよ、ガキんちょ』

「……はあ、分かったよ。やればいいんだろ、爺さん! ガッサム。ここは任せていいか?」

「ぉう……、任せとけ……」

 そう言うガッサムの顔は青白く、とても大丈夫そうには見えなかった。

 だが一人に男が大丈夫と言うのだから、信頼するしかないだろう。

「行ってくる」

「ぶちかまして来い」

 ガッサムに見送られて、俺は森の中に疾走した。


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