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第十三話

 あれから一時間。俺達はダンジョンが来る、寸前のところまで何とか辿り着いた。だが魔物の勢いは増し、一度に来る魔物の数は倍以上に膨れ上がっていた。

「っ、ガッサム! 南東から五十から六十の魔物接近! 大きいぞ!」

「はあ!? くそったれじゃねえか! マリン、俺が時間を稼ぐから魔法で焼き払ってくれ!」

「了解よ!」

 ようやく第十一波を倒し終わったと思うと再び魔物の気配を察知し、瞬時に仲間に通達する。ガッサムは文句を言いながらも的確な指示を出して時間を稼ぎ、確実にマリンの魔法で魔物を焼き払った。

これまでに三度、マリンに魔法を使わせてしまったが、捉え方を替えれば三発しか使っていない。

魔力はまだまだ有り余っているはずだ。

魔法の詠唱に入ると、

「っ、でけえ……!」

「雑魚は僕が引き受けるから、ガッサムはオーガに集中してくれ!」

「分かったが無茶はすんなよ! カル、俺はいいからリヒトの援護だ!」

「了、解!」

 オリヴィアの回復魔法にも限度があるのでマリンと同じく温存しているせいですでに皆、身体は悲鳴を上げていた。

 すでに百近く弓を引いているカルの指は血だらけで、前線で戦うガッサムとリヒトは血だらけだ。

「……、オリヴィア。こいつら倒したら回復魔法をみんなにかけろ!」

「了解しました」

 誰の命令でも聞くが、俺が言うと即答してくれるので助かる。

 俺はナイフを取り出して、空に羽ばたく邪魔な蝙蝠を撃墜しながら、周囲にも気を配る。

 ここは一本道となっていて、魔法で敵を一掃するには最善の位置取りだ。

「三秒後に放てるわ!」

 マリンが叫び、その声を瞬時に受け取った皆が行動に出る。

 オーガと戦っていたガッサムは盾で剣を弾き、足を斬ってその巨体を崩した。周囲にいた魔物も巻き添えを喰らって、オーガに潰されて動けなくなったのは僥倖だ。

 リヒトも大振りの一撃でオークに深手を負わせると、その場を離脱した。

爆炎槍(フレイム・スピア)!」

 放たれるは美しい紅蓮の槍。

 一本道の上を突き抜け、直線上の魔物を炭になるまで焼き尽くした。

 これで第十二波の魔物は倒し切った。

 今のところは追撃の気配も無く、小休憩を取る事にした。

「エリアヒール」

 オリヴィアのヒールを範囲内にいる者に一度にかけられる魔法だ。治癒力はヒールに劣るが、一度にまとめて回復させたい時には役立つだろう。

 その間にも水分補給をしたり、マリンが魔力を回復させる特別なポーションを煽っていると、再び魔物の気配を察知した。

「次は何匹だぁ? 七十か? 八十か?」

「…………百二十だ」

 皆が絶句した。

 数は脅威だ。むしろ、先ほどの波で俺達の誰も重傷を負わなかった事の方が奇跡だと言える。

 百二十の魔物を相手にするとなると、全快の時の俺達ならまだしも、満身創痍の今の俺達では餌になるだけだ。

「……無理だ、今回は後ろに流そう」

 客観的に状況を分析して、俺は最善策を皆に進言した。

「っ、何を言うんだ! 俺達で全滅させないと街の人々が!」

「その前に俺達が死ぬだろうが、馬鹿!」

 リヒトは少しハイになっている様子だった。

 戦闘後のせいか目が血走って、周囲の様子も目に入っていない。

「百程度なら向こうで何とかするだろ。少しは他人を信用しろ」

「それは……っ。それでも、犠牲が……」

「出るに決まってるだろ馬鹿」

「なっ!」

 もしかしてこいつは正義君なのか? そうなのか? だとしたら馬鹿らしくなって来た。いくら正義の勇者様でも、正義君なんかに勇者は名乗ってほしくないね。

「あいつらだって武器を握って生きているんだ、そのぐらいの覚悟は出来ているだろ」

「だが、僕たちは勇者パーティだ! 犠牲が出ると分かっているのに魔物を見逃すなんて出来るわけがないだろう! そんなに逃げたいならお前だけ逃げろ、この薄汚い盗賊が!」

 そう叫び終わるとリヒトは肩で息をして、顔を真っ赤に染め上げていた。

 冷静じゃない。そう分かった俺は、自分でも

「……一回落ち着け。そんでもって、俺らをよく見てみろ。それでもまだ、そんな事が言えるなら従ってやるよ」

「何を言って、~~~~ッ!」

 そして、ようやく視界に満身創痍の俺達が写し出されたのだろう。

 一番酷いのはガッサムだ。傷こそ塞がっているが、装備はボロボロで、自分の血なのか魔物の血なのか分からないほど、全身が真っ赤に染め上げられていた。

 カルも接近して来た魔物に噛み付かれ、爪を突き立てられて装束は汚れている。

後方のマリンこそ血は付いていないが、魔力の使い過ぎで肩を上下に揺らして呼吸が不規則になり、オリヴィアも似た様なもので顔が青ざめていた。

 見た目が平気なのは俺ぐらいだが、実際は武器の貯蔵が尽き掛けている。他にも攻撃手段はあるが集団戦では向かない、どころか仲間を巻き添えにしてしまうものばかりなので、実質無能に成り下がってしまう。

「それでも、僕は!」

「……悪いけど、私も賛成」

「俺もだ。ニックにしては正しい意見だと思うぞ」

 これで賛成三。

 俺はともかく、同じく前線で戦っているガッサムと、俺に否定的な態度が目立っているマリンからも同じ意見が出れば、リヒトも喉を唸らせた。

「私はニック様に従います」

「矢、もう無い」

 賛成五、反対一。決定的だ。

 特にカルの言葉が決定的で、カルの矢の援護が無ければ前線の維持は厳しいだろう。

「…………分かった」

 それから少しの沈黙が流れ、ようやくリヒトは首を盾に振った。

「んじゃあ、さっさとダンジョンの様子を見て原因を確かめないとな。内部に原因がありそうなら、一度休憩してから突入するぞ。それでいいな?」

「ああ」

 リーダーからの了承も貰い、俺の案内の元、魔物と遭遇しない様に茂みに身を潜めてダンジョンまで進んだ。

 しばらくして、ダンジョンがある場所まで辿り着いた。

 茂みの中から様子を伺うと、やはりダンジョンの内部から魔物が出て来ている様だ。

「氾濫、か」

 氾濫。ダンジョンや森に生息する魔物の個体数が急激に増える事で住処だった場所に収まりきらず、種族を問わずに大量の魔物が周囲の街や国を襲う現象の事だ。

 数十年に一度の出来事だが、まさかお目にかかれるとはな。嬉しくねー。

「……マリンとオリヴィアが回復次第、突入するぞ」

 今度は誰も反対意見を出す者はいなかった。

 正直に言うと俺は逃げ出したいが、俺が逃げたらこいつらだけじゃダンジョンを進めなくなるだろう。

 死なれてしまったら目覚めが悪いし、仕方なく協力してやるか。

「じゃあ俺、

 瞬間、爆発。

何事かと振り返ったが、砂埃で何も見えずに変わりに巨大な衝撃波が襲って来ていた。

「っ、何なんだよ!」

 ガッサムが瞬時に盾を構え、俺達はその後ろに隠れて衝撃波から身を護った。

「情報通りだなァ! 勇者パーティさんよォ!?」

 俺達の周りにあった茂みや木々は衝撃波によって吹き飛ばされ、数分の時間を置いてようやく巻き上げられた砂埃が晴れ、そいつの姿が明らかになった。

 そこにいたのは図鑑でしか見た事が無い、絶滅したと言われている亜人種――――魚人だった。人の姿に収まっているが首筋にはエラがあり、まるで鎧の様に見えるのは鱗だ。ぎょろりと動く眼は鮫を思わせ、大口を開けばそこから覗く無数の牙が銀色の輝きを放っていた。

「魔王四天王が一人、ガルバッタである! さあ、平伏しろ人間(ゴミムシ)ども!」

 突如として現れた絶望が、俺の心をへし折った。



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