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第十一話

 時間的にも夕暮れ時に近付いていたため、ダンジョンは第四階層まで進んだところで明日に持ち越しとなった。


 街にたどり着き、昨日の様にパーティで同じ宿に泊まり、俺だけ一人部屋に隔離されて監視もされる事になる。


 だが今日の仕事の功績も考慮して、就寝前の二十一時までに帰宅する事を条件に外出が許可された。


「で、何でお前が付いて来ているのだ?」

「アンタの監視役よ。逃げるかもしれないし」


 ようやく一人の時間が出来ると思っていたら、不機嫌そうなマリンが後から付いて来た。


 どうやら自由行動ではあるが、監視は付けられるらしい。非常に不服ではあるが仕方ない。


 この街は近くにダンジョンがあるため換金所は不可欠だ。魔物の魔石や素材はギルドで買い取って貰えるが、宝物の類は買い取り対象外となっていた。


「ねえ、本当にここで合っているの?」

「その、はずだ……」


 俺達がやって来たのはこの街で唯一の換金所のはずだが、看板は朽ち果てて建物の老朽化が進み、随分と寂れていた。ギルドで受付嬢に話を聞いた時はまだ営業していると言っていたが、本当に人間が住んでいるのか?


「まあ、とりあえず入ってみるか」

「ちょ、ちょっと! 入る気なの!?」

「当たり前だろ。何しに来たと思っているんだよ」


 何故か焦っている様子のマリンを見て、俺は不思議そうに首を傾げる。


 たかが換金所に入るだけで焦る理由なんて無いだろう。


 まさか換金される前に俺から宝物を盗もうとしていたのか?


 ふっ。無謀だな、俺の所有物を盗む事なんて誰にも出来ないのだよ。


「…………」

「なぜ袖を摘まむ」

「ア、アンタが逃げない様に」

「そ、そうか」

「うん……」


 …………お、おう。


「とりあえず入るぞ」

「ん」


 すっかりしおらしくなったマリンを連れて、俺は換金所の扉を開いた。ギィィィ……、という背筋に寒気が奔る様な音が扉から響くと、マリンの肩が震えた。


 そんなに怖いのなら入らなければいいのに、と思うが本人が必死に隠しているのだから言ってやらないのが優しさだ。


 次いでこの部屋に充満していた鼻に付くカビと錆びの臭いを嗅いでしまった。これにもマリンはうえっと身体を震わした。


「頼むから吐くなよ」

「わ、分かってるわよ」


 流石に人の家で汚物をまき散らすのは気が引ける。


 マリンもグッと拳を握って、気を強く持っている様なので大丈夫だろう。


 それはそうと店内を見渡して、うわぁ……と少し引いた。まず床や机が埃塗れだ。少し歩いただけで俺達の足跡が付いているし、天井を見ると蜘蛛の巣だらけだ。そもそも人の往来があまり無い様で、少なくとも数年は人が来た痕跡が無い。


 ここじゃ期待できそうにないな、と帰ろうとした時にガタンと何かがぶつかった音が聞こえた。


 俺もマリンも音が聞こえたカウンターの方を見て、ごくりと固唾を呑む。


「…………何者じゃぁ」

「ひやあああああああああっっ!!」

「あっ、おい!」


 まるでゾンビの様な登場の仕方にマリンは跳び上がりそのまま泡を吹いて気絶してしまった。


 仮にも女の子が白目向いて気絶するな、凄いブサイクになってるぞー。


「何じゃぁ、人の顔を見てぇ……。最近の若者は礼儀も知らんのかぁ……」


 まるで絵本に出て来る仙人の様な爺さんだった。長年散髪もしていないのか髪も髭も伸び放題で服も劣化して所々が破けている。手足は枝の様に瘦せ細り、全身に埃を纏っている。とても衛生的とは言えない恰好をしていた。


 とてもこの店が宝物を換金する程の金銭の余裕がある様には思えない。だが遊ぶ金が欲しいし、ダメ元で換金を申し出るとするか。妥当な金額が出せないなら諦めて王都に戻ってから換金すればいいし。


「ダンジョンから宝物を取って来た。換金して欲しいんだが」


 リュックから黄金の陶器を一つ取り出してカウンターの上に置いた。


「ふん。そんなまがい物でわしを誤魔化せると思うとるんか」


 しかし爺さんはまともに宝物を見ようともせずに、横暴な態度で手を振った。何なんだ子の爺さんはぶちのめしてやろうか、と思ったが我慢する。


 勇者パーティで行動している以上、暴力沙汰を起こしても逃げれないからな。


 ぐっと我慢してマリンを抱えて帰ろうとすると爺さんに「ちょい待てぃ……」と呼び止められた。


「まあ、見るだけ見といてやる。最後の客じゃしのうぅ……」


 爺さんはどこからともなく眼鏡と手袋を取り出した。


 全体的に小汚いのに、その二つだけは綺麗にケースに入れられていた。

 

 手袋を履いて眼鏡をかけ、宝物を手に持つ姿は様になっていた。


鑑定(パラライズ)


 先ほどまでの鈍く燻っていた爺さんの瞳が青く輝いた。


 ほう、と関心の息を漏らす。


 この爺さんは鑑定のスキル持ちだったのか。世界的に見てもレアなスキルで、持っているだけで国に召し抱えられるレベルだ。


 そんなスキル持ちの爺さんがどうしてこんな場所にいるんだ?


「う、む……? なんだと、そんな……、こんなはずが……!」


 俺が疑問に思っていると爺さんとは思えない動きでカウンターから跳び、俺の目の前に着地し、肩を掴まれた。


「貴様ぁああああああ!」


 凄い形相だ。


 まさか宝物が本物だと分かって、奪い取るために偽物だとか言い張るんじゃないだろうな。そうなれば俺も暴力に訴える事もやぶさかじゃないぞ。


「ありがとうぅううう! まさか、まさかもう一度あのダンジョンの宝物を見られる日が来ようとは!」


 と思っていたら、涙を流した爺さんに思い切り感謝された。


 肩を掴んだ腕でぐんぐんと揺さぶられ、痛みは無いが代わりに揺れ過ぎて吐き気がして来た。


「わしの青春じゃぁ……!」


 宝物を見て、爺さんは滝の様な涙を流し続けた。


 このまま放っておくといつまでも泣いてそうなので、リュックをカウンターの上に置く。ガッシャンッ、と大きな音が鳴り中身がぱんぱんに詰まっている事が分かるだろう。


「で、いくらで買い取ってくれるの?」


 どんなに泣かれても金が無きゃ売らないけどな。 


 リュックを見て涙を流しながらニカっと笑った爺さんはカウンターからリュックをどけ、両手を合わせて振り上げた。


「ふんっ!」


 振り下ろされた二つの拳はカウンターを叩き割った。


 中から溢れ出たのは一万や二万じゃ下らない金貨の山だった。


「全部持って行け!」

「は、はあ!?」

「わしからの礼じゃ!」


 そう言うと、爺さんは宝物をリュックから取り出して、代わりに金貨を次々に詰めていった。それでも全部は入り切らずに麻袋を取り出して、そこに金貨を詰めた。


 全てを詰め終わった後、「本当にありがとう、わしゃあ幸せじゃぁ」とほろりと涙を零し、リュックを差し出してきた。


 相場の何十倍の金貨を手に入れた俺は、爺さんの勢いに負ける形で換金所を後にした。


 しばらく路地を歩いていると、肩にかかる金貨の重みが不思議と軽い様な気がした。


 不思議だ。宝物の方が軽いはずなのに、全く重たくない。


 そして爺さんが泣きながら言う感謝の言葉がずっと耳に残っていた。


「意味わかんねえ……」


 何なんだよ、あの爺さん。





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