第十話
それから第一階層、第二階層を突破した俺達は第三階層までやって来た。階層を超えるごとに魔物は強くなって行ったが、パーティの連携の練度も上がりこの程度の魔物なら瞬殺できる程になった。
「……ん?」
魔物との戦闘が終わり、地面に散らばった魔石や素材を集めていると、とある気配を感じ取った。
「なあ、宝箱とか見つけたらそれも俺が貰っていいのか?」
「え? あ、ああ。別に構わないが、このダンジョンはもう探査され尽くしているし宝箱の類はもう残ってないと思うが……」
よし。言質は取ったぞ。
俺はパーティを先導して、突き当りにある通路にたどり着いた。
「宝、箱……!?」
普段起伏が少ないカルが驚愕の声を漏らす。
そこにあったのは間違う事のない宝箱だった。
「いや、待て」
近付こうとしたカルを制止して、ガッサムがそこらにあった石を手に取った。それを宝箱の前に投げると、宝箱が開き凶悪な牙が露わとなる。長い舌が石を絡め取り、ばりぼりと噛み砕いて行く。
「ギミック……」
それは宝箱の姿をした魔物だと言われている。
一攫千金を狙う冒険者からすれば、宝箱一つで大儲けだ。その意識を狙って、ギミックは近付いた冒険者を喰らって殺す。
良い点と言えば自分で動く事が出来ないので、移動する事が無い事だろうな。
「しょうがないわね、私の魔法でひと想いに壊してやるわ」
炎よ、とマリンは詠唱を始め、杖の先端に赤い礫が集まって行くがーーーー。
「勿体ない事するな!」
「痛ッ!?」
反射的に、俺はマリンの頭に手刀を振り下ろしていた。
詠唱が途中で止まったために魔術は霧散して消えた。
「勿体ないって……、相手は魔物なのよ!?」
頭を押さえながら若干涙目になっているマリンは、抗議の声を上げた。
無知とは怖いものだな。
「ギミックはな、解除出来るんだよ」
「はあ!?」
俺がそう言えばマリンはキッと視線を尖らした。
「解除って、あれはモンスターでしょ!」
「違う。幻覚だ」
断言すると、マリンを筆頭にパーティの面々は驚いて見せた。
「だって、実際にあいつに殺されている冒険者が何人いると思ってるのよ!」
「ばーか。もっと視野を広げろ」
「なっ!」
冷静になれよという意を込めてマリンの額を小突き、俺は懐から取り出した小刀を天井に向かって投げた。
ザクっと生々しい音が聞こえ、数舜遅れて地面に何かが落ちて来た。
「これって……!」
「俺はフィルエイプって呼んでいる」
落ちて来た物体にリヒトとガッサムは警戒するが、すでに心臓を小刀で射抜かれて絶命していた。
フィルエイプは、鼠の頭を持ち身体は猿の様だ。体長は二十センチほどで、ガリガリの身体が余計に醜悪さを際立たせている。
「こいつは非力な自分の力じゃ獲物を食えないから手頃な宝箱を見つけると、その場一体に強力な幻術を張るんだ。それからご自慢の糸を垂らして、宝箱が口を開いている様に魅せるために開閉を繰り返す。宝箱も頑丈に造られているし、首を挟んでしまえば簡単にへし折れるだろ」
幻術じゃ人は殺せないが、宝箱でも首くらいへし折れる。
これがギミックの正体だ。
「で、でも、どうして今までにコイツは見つからなかったの!? ギミックは数百年前からずっとダンジョンにいるじゃない!」
「大方、ギミックをわざわざ破壊して行くパーティには盗賊がいないんじゃないか?」
「……い、言われてみれば」
リヒトが愕然とした声を漏らす。
「俺みたいな盗賊がいるパーティはきっと、ギミックは避けて通るはずだ。盗賊からの進言でな。そして盗賊は後から戻って来て、ギミックを解除して宝箱を独り占め。っていうのが一通りの流れだ。そもそもギミックに構うなんて時間の無駄だって言って、相手もしない奴が多いからな」
そこら辺の事情に詳しくないこいつらからすれば、衝撃の事実だ。
驚きで声すら出せずにいる。
この宝箱が無事だったのは見つけても無視する奴が多かったり、後から戻ろうとしていた盗賊が死んでしまった事が多かったからだろうな。
「まあ、もし宝箱を見付けたら下手に近付かずに遠くから壁に向かって魔法を打つのが正解だろうな。下手すりゃ壁が崩れるが安全にフィルエイプを殺せるし、宝箱も手に入れられるぞ」
宝箱を開き、中身に詰まっていた垂涎ものの金銀財宝をリュックに詰めながら彼らに語った。
「そ、そうなのか。次からは気を付けるよ……」
「私、初めてアンタがパーティに入ってくれてよかったって思ったわ……」
マリンの下手な御世辞は流して、パンパンに詰め込んだリュックを背負った。
この重みが嬉しくて思わず笑みが零れた。
換金が楽しみだぜ。
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