第一話 前半
走れ、逃げろ。
「止まれニック!」
「誰が止まるか!」
くそっ、俺はか弱い老人からスリを働く程度の小悪党だぞ。
どうして王宮の近衛騎士が俺を捕まえに出張ってくるんだよ。
「仕方が無い、実力行使で捕らえて連れて行くぞ」
「おお!」
現在、俺を追いかけて来る近衛騎士は二名。総勢で三十名にも満たない近衛騎士の構成から考えれば、大盤振る舞いも良いところだ。
近衛騎士は王国最強の存在で、普段は王族の護衛をしている。
だからこそ、小悪党の俺を捕まえるために出張って来るなんて異例中の異例だ。
真正面からやり合えば勝ち目はない。
と言うか俺は正々堂々とか正面衝突とかって言葉が大嫌いなんだ。
「て事で、盗賊らしくやらせて貰うぜ」
「なっ、貴様!」
俺が選んだのはこの王都で最も人通りがある、大通り。
この最高の立地で儲けようと出店している商人たち、はたまた同業者から質の良い商品を取引しようと企てている商人や、大多数の買い物をするための王都の市民で賑わっていた。
こんなところでまともに剣を振るえるはずが無く、それどころか甲冑で身を包んだ近衛騎士は進む事もままならず、どんどんと距離を突き放して行った。
「ここまで逃げれば十分だろ……」
大通りの裏路地まで逃げ込んだ俺は、深く息を吐いた。
今日は散々な一日だ。
何故か老婆に盗みがバレるわ、何故か目付きの鋭い女に睨まれるわ、何故か近衛騎士に追い掛け回されるわ……。
厄日か? うん。きっとそうだろうな。
それにしたってどうして近衛騎士が俺なんかに。
王族に怒りを買う真似はしていないはずだけどな。
もしかすると今までに盗んだ相手に、王族に親しい人間がいたとかか?
俺がやった事はバレていないと思っていたが、博物館から何点か盗んだのがバレたか?
……いや、やめておこう。
答えが分からない以上、ここで悩んでいても不毛だ。
大通りの方を見れば、いまだに近衛騎士達が人の波を突破できずにいた。
安心して進める。
そう思い、ゆっくりと腰を上げ様として、
「貴様がニックか」
「ーーーーッッ!!?」
強烈な死の気配。
心臓が大きく波打った直後、俺はその場から大きく飛び跳ねていた。
さっきまで俺がいた地点には、一振りの銀色の剣身が置かれていた。
「ほう。私の不意打ちを避けるか」
女騎士は感心した様に言うが、俺の内心は穏やかじゃなかった。
あと数舜でも飛ぶタイミングがずれていれば、俺の首と胴体が離れ離れになっていただろう。
「なんっ、……お前は、だ……!」
みっともない恰好で着地した俺は上手く言葉がまとまらず、口ごもってしまった。
怖い。逃げたい。本能が悲鳴を上げる程に、この女騎士は俺にとって圧倒的な強者だった。
「名乗るのが遅れたな。近衛騎士団副団長 アリア・マリーロット・クロバルトだ」
初めまして。とりあえず第一章完結まではノンストップでやって行きます! その後の事はわからないです!末永くよろしくお願いします!
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