33.箱庭の限界
---------------------《5ターン目》---------------------
〈レイミ〉 〈カーティス〉●
ヴァナ Lv0 絶対神 Lv0
Lp 800 Lp 375
手札 5 手札 0→1
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〈カーティス〉魔力 2→5
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---------------------《フィールド》-------------------
〈レイミ〉
ヴァナ Lv0/50/0
《鬼火》 Lv0/攻撃50/防御0
〈カーティス〉
絶対神 Lv10/0/0
《ダークネス・オーガ》Lv7/850/500
《論理の箱》Lv9 永続アイテム
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「貴方には勝ち目は万に一つもない。もう、理解してるのではないのですか?」
確認するかのようなカーティスの言葉。
まだ戦う意思はあるのか、とそう彼は言っていた。
「俺は賭けているのさ。不確定な未来って奴にな」
「……そうですか」
少し残念そうな顔をするカーティス。
語るべきことを全て語って、もう終わったような気になっているのだろう。
隣で浮かぶヴァナも勝ち目が見えないのか、暗い顔をしている。
だが、俺はまだ諦めていなかった。
どんなにか細くても、まだ目は残されていた。
そんな俺の心をくじこうと、カーティスは動く。
「《絶対神》の能力。貴方のデッキから《ハウリング・ヘルハウンド》を半分の魔力で召喚します!!」
カーティスのフィールドに巨大な黒犬が召喚され、咆哮をあげる。
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《ハウリング・ヘルハウンド》
Lv6/攻撃600/防御400
タイプ:風,闇,獣
●:ユニットを戦闘破壊した場合に発動する。
それよりLvの低いユニット全てを破壊する。
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〈カーティス〉魔力5→2
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《オーガ》と《ヘルハウンド》 。
俺のデッキにおける最強の2体が、相手のフィールドに並び立つ。
アガレスとトゥエルブ。
2人の強敵が使い、やっとのことで破って入手した2体。
俺のデッキの中でも突出して高いステータスを誇る大型ユニットたち。
それがまた敵になるとは……。
絶望的な気分だった。
「さあ、《ハウリング・ヘルハウンド》の攻撃!!」
空気を震わせる咆哮が黒犬から発せられ、《鬼火》の体を切り裂く。
そして、直後に周囲の壁から電流が走り、俺たちを襲う。
「くぅぅ」
『きゃぁ』
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〈レイミ〉Lp800→600
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これは《論理の箱》が持つダメージ効果だ。
相手のユニットがこちらのユニットを破壊する度に200のダメージが発生する。
そして、まだ《オーガ》の攻撃が残っている。
大鬼がその巨椀を振り上げて、俺とヴァナに振り下ろさんと構える。
これをまともに喰らえば、負ける。
「スペル《復活》を詠唱。《鬼火》を召喚して攻撃の壁にする!!」
再び現れた炎のお化けが俺たちの前に出て、《オーガ》の攻撃の身代わりとなる。
これで直撃は免れた。
だが、もちろん逃げ切れたわけじゃない。
再び論理の箱の壁に描かれた電子回路が光を放ち、俺たちに向かって電流が走る。
「くっぁ」
『……っ』
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〈レイミ〉Lp600→400
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度重なる攻撃で、俺もヴァナもフラフラだった。
しかし、ともかくこのターンは凌ぐことができた。
そして、俺はこのチャンスを逃さずに手札のカードを1枚つかむ。
「レベル0スペル《闇の中の希望》だ」
これはダメージを受けた場合に詠唱できるスペルカード。
その効果は1枚のドロー。
このドローに賭ける!!
俺は思いを込めてカードを引いた。
ドローカード:《鬼火》
くっ。
『そ、そんな……』
この状況、《鬼火》ではどうにもならない。
「残念でしたね」
《論理の箱》の能力で、ドローしたカードはカーティスにも公開されている。
このドローが、状況を変えようがないカードだと彼にも分かっていた。
それどころか、カーティスは《絶対神》の能力で俺のデッキの中身を全て知っている。
「私は知っています。貴方のデッキにはこの状況を逆転できるカードが存在しないことを」
そうなのだ、彼からすれば足掻こうとする俺の行動自体が意味不明。
痛みを与えられる機会を増やすだけの、まるで無意味な行動なのだ。
そう、彼の視点からすると、だ。
だが、彼の戦術には穴がある。
そして見えてないものがある。
そこに1点の光明があった。
その光を掴むため、必要なカードが俺のデッキにはたった1枚だけある。
それを引き当てるべく、俺はターン開始の宣言と共にさらに1枚ドローした。
---------------------《6ターン目》---------------------
〈レイミ〉● 〈カーティス〉
ヴァナ Lv0 絶対神 Lv0
Lp 400 Lp 375
手札 4→5 手札 0
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〈レイミ〉魔力 5→5
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---------------------《フィールド》-------------------
〈レイミ〉
ヴァナ Lv0/50/0
〈カーティス〉
絶対神 Lv10/0/0
《ダークネス・オーガ》Lv7/850/500
《ハウリング・ヘルハウンド》Lv6/600/400
《論理の箱》Lv9 永続アイテム
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ドローカードは《0:1交換》。
もちろん、このカードでもない。
だが、これはドロー効果を持ったカード。
まだ、希望はつながっている。
「俺は先ほどの《鬼火》を召喚し、《0:1交換》で破壊する」
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《鬼火》
Lv0/攻撃50/防御0
タイプ:炎,死霊
デッキに何枚でも入れることができる。
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《0:1交換》
Lv0 通常スペル
タイプ:
●:自分フィールドのLv0カード1枚を破壊し、1枚ドローする。
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炎のお化けを犠牲に、俺はさらなる1ドローの権利を得る。
これが正真正銘、最後のチャンス。
負ければ一生シティの実験サンプル。
勝てば自由の身。
博士とナナが身を呈して守ってくれたこのレイミの身体。
500年の時を超えて蘇った俺の魂。
それらの今後を決める運命のドローだ。
思い描くのはあのカード。
俺は全身全霊の念を込めて、最後のカードをドローした。
そのカードは―――、
「……ありがとう」
ミチナキ博士の暖かい手の平が、頭をなでてくれたような気がした。
諦めずに前に進んで生きること、それをアタシに望んだ博士の想いに、俺が応えることができた。
そんな気がした。
《論理の箱》の能力が発揮され、そのドローカードが公開される。
「それが、貴方が待っていたカードだというのですか?」
『…これが、アタシの運命を決める切り札なんだね』
カーティスは理解できないというように戸惑い、ヴァナは微笑む。
ドローしたカードは《アシッド・ストーム》。
博士がレイミに託し、俺たちの戦いをずっと助けてきてくれたカードだった。
「だが、《論理の箱》は破壊できない!!いったい、それでどうしようというのだね」
理解できない、と叫ぶカーティスに俺は事実を突きつける。
彼が見逃している、突破口。
「破壊できないのはユニットがいる間だけ、だろ?」
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《論理の箱》
Lv9 永続アイテム
タイプ:機械,建造物,神話
●:相手はドローするカードを公開してから手札に加える。
●:奪ったユニットが戦闘破壊をした場合に発動。
相手に200ダメージを与える。
●:『完全なる世界の絶対神』がフィールドにいる場合、
パートナーの維持に魔力を払わなくてもよい。
●:パートナー以外のユニットが自分フィールドに存在する場合、
自身はカードの効果を受けない。
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最後の効果にある耐性こそが《アシッド・ストーム》が効かない理由。
そして、その耐性には条件がある。
パートナー以外のユニットが存在する間だけ、という条件が。
つまり、《オーガ》と《ヘルハウンド》 の2体を倒すことができれば問題ないのだ。
「だが、この2体は貴方のデッキを全て見た上で選んでいる最強の2枚。そして、貴方のデッキには倒す手段がないことも分かっている」
そう、カーティスは""俺のデッキにあるカードは全て""把握している。
防御力500と防御力400。
俺のフィールドにいる《ヴァナ》の攻撃力50を大幅に上回る強大な数値。
この高い防御力を持つ2体を突破するカードが、俺のデッキにはないことが彼には分かっていた。
だがしかし、そこには見えていないものがある。
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《完全なる世界の絶対神》
Lv10/攻撃力0/防御力0
タイプ:幻想,機械,神話
●:1ターンに1度、手札1枚を捨て札にして発動できる。
相手デッキを確認し、Lv9以下のユニット1体を半分の魔力で召喚する。
●:上の効果で召喚したユニットが存在する限り、
相手は自身を攻撃対象に選べない。
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相手のデッキを全て確認し、そこから1体のユニットを奪う《完全なる世界の絶対神》。
その能力は強力にして凶悪だ。
一見、全てを把握して有利な状況を作れる最強のカードにも見える。
だが、そこには大きな弱点があった。
デッキは見れても、手札は見れない。
そう。
奪われたユニット達を倒す逆転のカードは、最初のターンからずっと俺の手札にあったのだ。
「さあ、いくぜ!!レベル0スペル《デブリ・エリア》を詠唱」
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《デブリ・エリア》
Lv0 通常スペル
タイプ:重力
●:Lpを200払って詠唱する。
相手フィールドに『デブリトークン』(Lv0/攻0/防0)を4体まで召喚する。
それらはターン終了時に自壊する。
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〈レイミ〉Lp400→200
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ライフ200をコストに、金属のカタマリがカーティスのフィールドに出現する。
フィールドの空きは3つ。
そこに3体のトークンが召喚される。
---------------------《フィールド》-------------------
〈レイミ〉
ヴァナ Lv0/50/0
〈カーティス〉
絶対神 Lv10/0/0
《デブリ・トークン》×3 Lv0/0/0
《ダークネス・オーガ》Lv7/850/500
《ハウリング・ヘルハウンド》Lv6/600/400
《論理の箱》Lv9 永続アイテム
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攻防ともに0のトークン。
それを相手のフィールドに召喚したところで、そのままでは何の意味もない。
だが、これで準備は整った。
相手フィールドに多くのユニットが存在する、この状態を作りたかったのだ。
「さあ、行くぜ《ヴァナ》!!」
『私の能力を発動!!【性能調整】』
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《虚構天使 ヴァナ》
Lv0/攻撃力50/防御力0
タイプ:幻想,天使,機械
●:1度だけ発動できる。
このターン、相手カードの数x100だけ攻撃力アップ。
他のユニットは攻撃できない。
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そうだ。
ヴァナにはこの能力がある。
相手のユニットが多ければ多いほど攻撃力を上げる、自己強化能力。
相手フィールドにいるのはトークンとパートナーを含めて6体。
これにより、《ヴァナ》 の攻撃力は600アップする。
これで《ヴァナ》の攻撃力は、《オーガ》と《ヘルハウンド》の防御力を上回った。
能力発動に合わせ、ヴァナの羽根や服が赤に染まる。
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《虚構天使ヴァナ》 攻撃力50→650
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だが、これだけではまだ足りない。
このまま攻撃しても、《オーガ》と《ヘルハウンド》のどちらか片方を破壊して終わりだ。
両方ともこのターン中に倒すためには―――
さあ、これで仕上げだ。
俺はもう1枚スペルを手札から掴んで詠唱する。
「レベル0スペル《ゼロ分岐》 !!」
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《ゼロ分岐》
Lv0 通常スペル
タイプ:
●:このターン、Lv0のユニット1体は2回攻撃できる。
他のユニットは攻撃できない。
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これで《ヴァナ》はこのターン、2回攻撃によって2体のユニットを1度に倒すことが可能になった。
「さあ、行くぞ!!」
『私の攻撃!!【トランス・ウェーブ】×2』
ヴァナがかざした手から念動波が放たれ、大鬼と黒犬を襲う。
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《虚構天使ヴァナ》
攻撃力650
VS
《ダークネス・オーガ》
防御力500
《ハウリング・ヘルハウンド》
防御力400
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その激しい空間の歪みに耐えかねて、2体は破壊されて消滅する。
「な、な、あっ……」
想定外の事態の連続に呆然としていたカーティスは、僅かに遅れて現状を理解したようだった。
そう、もう《論理の箱》を守るユニットはいないのだ。
ターンの終わりに、残されていたデブリトークンたちも消滅する。
後に残ったのは、操り人形を失った《絶対神》と周囲を囲む《論理の箱》のみ。
「さあ、これで終わりだ!!レベル3スペル《アシッド・ストーム》」
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《アシッド・ストーム》
Lv3 通常スペル
タイプ:風,水,雷
●:アイテム及びタイプ「機械」ユニットを全て破壊する。
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〈レイミ〉魔力 5→2
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スペルの詠唱と共に、酸性の雨が暴風と共にフィールドに降り注ぐ。
酸の嵐は全てを侵食し、崩壊へと導く。
カーティスがユニットを失った今、もう《論理の箱》を破壊から守る耐性能力は機能していない。
まるで絶対の存在かのように俺たちの周囲を囲っていた金属の壁も、その侵食には勝てずゆっくりと崩れていく。
そして《絶対神》もまたその巨体を崩しながら倒れていく。
パートナーであるユニットはいかなる方法でも破壊できない。
それはルールによる絶対の保証だ。
だがそれも完全ではない。
維持するための魔力が払えなければ、その身を維持できない。
それは当然の摂理。
《論理の箱》を失えば、その10という膨大な維持魔力がその使い手のターン開始時に課せられることになる。
「……ターン終了」
そして迎えるカーティスのターン。
だが、彼にはその膨大な維持コストを払うすべがもう存在していなかった。
―――――――― 「パートナー維持不能」 ――――――――
―――――――― 〈クロス・ユニバース〉「決着」 ――――――――
―――――――― 勝者 「レイミ・ミチナキ」 ――――――――
戦いの決着を告げるメッセージが視界に流れ、出現していたカード達は消える。
『すごいよ!!まさか、あそこから勝てるなんて!!』
アナタを選んで良かった、とヴァナは微笑む。
「まあ、ギリギリだけどな」
正直、運が良かった以上の理由はない。
もう1回勝て、と言われても無理だろう。
だが、勝利は勝利だ。
「…………」
視線を前に向けると、そこには呆然と膝をつくカーティスの姿があった。
想定外の敗北だったのだろう。
その表情からは現実がまだ受け入れられていない様子が見て取れた。
俺は彼の元へとゆっくりと歩み寄る。
まだ1つ聞きたいことがあった。
条件【俺の質問に正直に答えること】。
それを使わせてもらう。
「……?」
傍らに立った俺の姿に気が付いたのか、カーティスはこちらに顔を向ける。
少しの間を置いて、俺はその疑問をぶつけることにした。
「なあ、カーティスさん。この閉鎖都市って施設はいつまでもつんだ?」
「……っ!?」
『え?どういうこと?』
これがカーティスの話を聞いていて思った俺の疑問だ。
脳裏に浮かぶのは、壊れかけたアウターの空、環境制御もままならない霧雨通り。
形ある物は、いつか壊れる。
建物には耐久年数があり、修復するにも限界がある。
ましてや、この世界にはリソースの余裕がないと目の前の男自身が言っていた。
施設全体の大規模な修繕は望めない。
つまり、その""いつか""は絶対に訪れるはずだ。
永久に完全で完璧な物など、あるはずがないのだから……。
しばしの時間をおいてから、カーティスは答えた。
「……100年だ」
それが、このシティ・アルファの寿命だった。
次回「AI願い」へ続く




