0.世界の終わり
―――その日、俺の世界は崩壊した。
フルダイブ型VRゲーム『サードライフ』。
全世界で大ブームを起こし、同時ログイン数億人を記録する超大人気ゲーム。
好きな姿、好きな立場になって、好きなように生きられる。
想像が実現する仮想世界。
その中心都市にある大型スタジアム、そのコートの真ん中に俺はいた。
TCG『クロス・ユニバース』。
モンスターが実体化して激しい戦いを繰り広げる、『サードライフ』内で最も人気なカードゲームだ。
本日、このスタジアムで世界大会が行われていた。
そして、俺はそこで優勝した。
多くの参加者たちをなぎ倒し、その頂点に俺は立ったのだ。
勉強も運動もダメなこの俺の、たった1つの"とりえ"。
それが、全世界に認められた瞬間だ。
自身をつつむ歓声に、俺は酔いしれる。
最高の気分だった。
もう死んでもいい、とさえ思った。
……もちろん、ただの例えだ。
本気で死にたいわけじゃない。
でも運命の神様は、そんな俺の心の声を拾ってしまったらしい。
―――だって、次の瞬間には世界が崩壊しだしたのだから。
視界にノイズが走り、街や人が消滅を始める。
歓声は絶叫にかわった。
課金装備でかためた俺の自慢のアバターも、ノイズにまみれて消えていく。
なにがなんだか分からない……。
だが、頭の中を占める疑問とは関係なく、俺の体はみるみる消えていく。
わき上がる感情は、……恐怖。
「いやだっ!!消えたくないっっ!!」
そんな叫びも、願いも、ノイズにまみれて、やがて消える。
最後に残ったのは、暗闇と静寂だけだった。
● ● ● ●
2046年12月24日。
その日、『第1次VRクライシス』が発生した。
太陽活動の急激な変化により発生した強力な磁場により、大規模な通信障害がおこった。
それにより、あらゆるネットが強制ダウンしてしまう。
この被害を最も受けたのが、フルダイブ型VRシステムであった。
機械を通し、脳をネットに直接接続していたユーザーたちはその影響をダイレクトに受けた。
結果、その多くが脳を焼き切られ、廃人となった。
『クロス・ユニバース』の第13回世界大会優勝者である【彼】もその1人だった。
次回「転生」へ続く