お昼ご飯
じゃがいもの皮むきでヒヤヒヤとされたり、揚げ物の油跳ねにビビったりなどまぁ紆余曲折あったもののなんとか時間内に調理を終えることができた。
私がどんなに危なっかしくても、『怖いから皿だけあらっといて』とか『もう包丁は持たなくていいから野菜洗っておいて』なんて見放されることはなく、親切に教えてくれた先生達にはるちゃん、未希ちゃんには感謝しかない。
一人で作ったわけではないけれど、完成品を見たら私にも料理ができるんだと少しだけ嬉しくなった。
暖かい料理を食べてもらうため、四限目終了のチャイムが鳴るころに配膳を開始した。
授業が終わりお腹を空かせた一年生と三年生、そして先生達が食堂に集まってくると嬉しい声が聞こえてくる。
「おーコロッケだ! 揚げたての誘惑やば」
「コロッケのおかわりあるかなー」
「見てるだけでお腹すいてきた」
自分たちが作った料理をキラキラした目で見て、美味しそうって言ってもらえるだけでこんなにうれしいなんて知らなかった。今なら、どこからか聞こえてきた『コロッケってごはんのおかずにはならないよねー』って意見も優しい気持ちで受け流せそうだ。
食べればわかる。ごはん進むから。食べてみんしゃい!
料理をした時とはまた違う別の班。今回はあずきちゃんと一緒で、あと一年生と三年生が二人ずつ。そして鈴城先生と同じテーブルで食べる。
班のみんなでいただきますをして、さっそくメインのコロッケに箸を入れる。
サクッとした音がしたあと中から湯気があがり、ジャガイモとお肉のいい香りが届いてくる。もうこれだけでよだれが出てしまう。
口に含めば、サクサク、ホクホクで文句なしに美味しい。
こんなの作れちゃうなんて私達天才では? 今まで食べてきたコロッケの中で一番美味しいといっても過言ではない。
班のみんなも、特に一年生は『美味しい』『二年生すごっ』って満面の笑みで食べてくれている。美味しいって言ってもらえるのすごい嬉しい。
感動をかみしめつつコンソメスープでホッと一息ついていると、隣に座っているあずきちゃんことあずちゃんに肩を叩かれた。
「あずちゃん? どうしたの」
「まいちゃん、あーんって口開けて」
意味が分からず、とりあえず口を開けるとあずちゃんがすかさずトマトを私の口に入れてきた。
「私の切ったトマト美味しい?」
誰が切ってもトマトの味は変わらないと思うけど、まぁうん。トマトは美味しかったため頷く。
「じゃぁ、もう一個あげるね~」
そう言ってもう一度トマトを私の口に運ぼうとするあずちゃん。
しかし、今度は私の口へ入る前に鈴城先生の声で止められた。
「あずきさん? トマト嫌い苦手だからってなにも知らない麻衣さんにあげないの」
あぁ、そういうことか。食べたくないから私に食べさせてたのか。なるほど。
たくらみがバレたあずちゃんは、ちょっと悔しそうな顔をしている。
「もー、あと少しでトマトなくなったのに。葉子ちゃんのイジワルっ」
「葉子ちゃんじゃなくて、鈴城先生ね。ちゃんと栄養バランス考えてあるんだからせめて1つくらいは食べなさい」
呆れたような表情で注意する鈴城先生。あずちゃんは、口をとがらせて『むー』なんて言ってる。正直しぐさが可愛い。
「あっ、なら葉子ちゃんが食べさせて。そしたら食べられるかも」
おう、なんて大胆な提案。未希ちゃんとはまた違った意味で手慣れてらっしゃる。
「しません。子どもじゃないんだから自分で食べなさい」
「ケチー、いいじゃん減るものでもないじゃーん」
「そういう問題じゃないの」
「じゃぁどういう問題? あ。わかった! 彼女さんが嫉妬するんでしょ~」
彼女? 鈴城先生の? 彼氏じゃなくて彼女……。
「え!? 鈴城先生彼女いるんですか!」
驚いて立ち上がってしまった。いやこれは仕方ない。一年生も私と同じような反応してるしやっぱりそう思うよね。
「うん。同棲中の可愛い彼女がね。嫉妬するかはわかならないけど、いくら生徒でも彼女に対して不義理なことはできないから」
少し照れてる鈴城先生可愛いっ! ラブラブなんだろうな~。
「バレないのに、先生真面目だな~」
「あずちゃん、これは先生が正しいと思うよ」
彼女さんがいるなら、その気がなくても疑われてしまうようなことしたらダメでしょ。恋人できたことないからわからないけど、もし私に彼女がいたとして、その子が他の子にあーんとかしてたら嫌だもん。
「ふーん、まいちゃんもそんなこと言っちゃうんだ~。わかった。まいちゃん口開けて?」
「口?」
文章のつながりがわからず首をひねる私の口めがけてあずちゃんがトマトを突っ込んできた。あぁっ!油断した。
「へへへ~私のかち~」
嬉しそうに笑うあずちゃんを見ると怒る気もうせてしまう。私トマト嫌いじゃないし、美味しいしまぁいいか。
「あずきさん!」
「まぁまぁ葉子ちゃん。今度トマトが出たときは食べるから。多分」
「多分じゃないの。もう」
困ったように笑っている先生は本当に怒っているわけではなさそうで、こんな家族のような雰囲気で暖かくて美味しいお昼ご飯を食べられるのは幸せなのかもな~なんて思うのでした。