幼馴染の二人
このクラスには、ほかの子たちと少し雰囲気が違う二人がいる。
林恵ちゃんと山北桃音ちゃんの二人組。
よく一緒にいるというのもあるけれど、それだけじゃなくて、熟年夫婦みたいというか、阿吽の呼吸というのか。ツーといえばカーみたいな。二人の間だけに流れる特有のものがある感じがする。
でも、イチャイチャしてるのかって言ったらそういうわけでもなくて。だからカップルではなくて熟年夫婦というわけだ。
「ねーねー、めぐ~」
言いながらめぐちゃんの元まで小走りで走るももちゃん。
「どうしたの桃さん」
そんなももちゃんをいつものことのように受け止めるめぐちゃん。実際、教室で見ている限り本当にいつものことなんだけどね。
「あのね、今日消しゴム忘れちゃって」
「あー、それなら2つあるから貸すよ」
「ありがと~めぐちゃん大好き!」
「はいはーい、じゃぁどうぞ」
ももちゃんのお目目うるうる、上目遣い。おまけに抱き着きという三コンボを受けてもとくにうろたえるでも、照れるでもなく流し消しゴムを差し出すめぐちゃん。私はまだあれ受けたらつい照れちゃってまともに話せなくなるのに。
あの二人は一体どういう関係なんだろうか。
「麻衣、何見てるの」
「あ、すずちゃん」
私のところにやって来てくれたすずちゃん。すずちゃんなら何か知ってるかもしれないしあの二人のことについて聞いてみようかな。 そう思って、二人の関係について尋ねてみた。
「あーあの二人は確か幼馴染」
幼馴染! 幼馴染って関係実在してたのか。2次元だけでの話かと思ってた。だからあんなに通じ合ってるわけね。
一人で納得していると、すずちゃんが二人を呼んでくれた。
「どうしたのすずちゃん」
ももちゃんがめぐちゃんの腕に手を絡ませながら二人がやってくる。いくら仲良くても、幼馴染でも腕組みなんてするかな……なんて疑問はすでに消し飛んでます。みなちゃんの例があるからこれくらいならもはや普通だと感じてきている私がいる。女子高じゃ当たり前の光景だよね?
「二人ってさ、幼馴染だったよね」
確認してくれるのか、すずちゃんが尋ねると、ももちゃんがニッコニコした笑顔で頷いた。
「そうだよ~、めぐとは小学校一年生の時からずっと一緒なの。幼稚園の時は別のところに通ってたからお互い知らなかったんだけど、家も近所なんだよ。ねーめぐ」
「うん。クラスが違うことはあったけど登下校一緒だったから疎遠になったりも特になかったね」
小学校一年生ってことは、今年で十年くらい? そりゃぁこんなに仲が良いわけだよね。単純に考えれば人生の半分以上一緒なんだもんな~。
「幼馴染いいな~、ね、いくつか質問してみてもいい?」
興味本位で聞いてみると、二人ともいいよって言ってくれたから質問してみることにする。
「じゃぁさ、例えばお互いが他の友達と遊んでたりしたら嫉妬的なものが沸いたりするの?」
「そういうのは特にないかな~。そこは個人の自由だし」
意外とサッパリなめぐちゃん。一方ももちゃんは。
「わたしも嫉妬はしないかな。大事な時はわたし優先してくれるし」
若干正妻の余裕的なのが漂ってはいるけどこちらも特に嫉妬はしないらしい。ベタベタになりすぎないのが長続きの秘訣なのかもしれない。
「もしも、その遊んでる相手が恋人とかだったら?」
もう一歩踏み込んだ質問をしてみる。
「だとしても嫉妬はないかな。逆にお祝いするんじゃない? 桃さんモテるのに今までそういう相手がいなかったってことの方がどちらかといえば驚きだし」
「えっ、ももちゃん今までそういう経験ないの!? 告白とかいっぱいされてそうだけど」
「たしかに。私もそれは初耳」
すずちゃんと二人、めぐちゃんの発言に驚いてしまう。言い方は悪いが、とっかえひっかえできそうなくらいモテそうなのに。
「ないよ? 男の子に対して好きって思ったことないもん」
「そうなんだ。ももちゃんの理想が高いのかな?」
「んーそうでもないと思うんだけど。めぐが落ち着いてるからどうしても子どもっぽく見えるのかも。あとめぐといる方が楽だし楽しい」
私にはそういう相手がいたことがないからよくわからないけど、ずっと一緒に居て居心地が良いから他の人と一緒に居ても何か違うのかな。
「じゃぁさ、じゃぁさ、そんなももちゃんは、めぐちゃんに恋人できたらどう思うの?」
「とりあえず、めぐに相応しいわたしがチェックする」
「もし、相応しい相手だったら?」
「んー。寂しいけどちょっとだけ恋人さんにもめぐとの時間あげる」
やっぱり寂しいんだ。めぐちゃんは少しサッパリしてたけど、ももちゃんは女の子らしい反応かもしれない。ずっと一緒だった二人の間に知らない誰かが入ったらそう思うのも仕方ないよね。
「もし、相手がももちゃんのお眼鏡にかなわない相手だったら……?」
すずちゃんが質問する。確かに、そっちの場合も気になる。もし烙印を押されたらどうなっちゃうんだろう。
「え? その時は……んふふふふ」
すっごく良い笑顔で笑っているのに、どこかうすら寒くてゾクゾクとしてしまう笑顔だった。
一体なにやっちゃうの!? 怖い、怖すぎるよ!