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呼び方

 転校してきてすぐのとある日。

 休み時間に私の席まで来てくれたのは、涼花ちゃん、琴乃ちゃん、そして美奈子ちゃんの3人。特に何か話すことがあるわけではないけれど休み時間の度に誰かしらが必ず私のところにお喋りに来てくれる。みんなの優しさが嬉しい。

 まだ学校が始まって数日とはいえ、いまのところ学校に行きたくない。なんて日が来ていないんだから驚きだ。なんなら今は学校に行くのが少し楽しみだったりする。きっと転校直前の私に言っても信じてもらえないだろう。


「まい~すず、ねぇ聞いてよ。琴乃がさぁ」


「はぁ? みなここそおかしいって、まい、すず聞いて」


 仲良し二人の会話に耳を傾けているときにふと思う。二人とも涼花ちゃんのこと“すず”って呼んでるなって。私はまだ涼花ちゃん呼びだけど、クラスのほとんどが“すず”って呼んでいてちょっと良いななんて思ってたり。

 あだ名というか、友達同士のちょっと近い呼び方が羨ましい。


「麻衣、どうしたの?」


 考えていたらボーっとしてしまっていたようで涼花ちゃんが心配して顔を覗き込んでくる。


「あ、いや、なんでもないよ」


「ホントに?」


 涼花ちゃんにジーっと目を見つめられるとなんだかすべて見透かされてしまいそうで思わず目を背けてしまった。そんな私の頬を両手で挟んで目を合わせる涼花ちゃん。え、近い。ちょっと、いやかなり恥ずかしい。


「また目、反らした。言いづらいこと?」


 涼花ちゃんも様子を後ろから覗いている二人も心配してくれているのが伝わってきて、別に必死で隠すほどのことでもないかと思い正直に話すことにした。

 

「大したことじゃないんだけどね、その、二人が涼花ちゃんのこと“すず”って呼んでるのが友達って感じで羨ましいなとか思ったり、思わなかったり?」


 話してみるとなんというか恥ずかしさがこみ上げてきて最後の方声が小さくなっていった。いや、私何言ってんだろ。恥ずかしい奴すぎる。


「麻衣……」


 ほら美奈子ちゃんも引いて――


「かわいいかよっ!」


「うぎゃっ」

 

 いきなり美奈子ちゃんに抱き着かれて思わず変な声が出てしまった。しかもなんか頭なでられとるんだが……


「麻衣ってばそんなこと気にしてたの? もーかわいいかよっ!いくらでも好きなように呼んでいいんだよ~」


「美奈子、いきなり抱き着くなって。麻衣すごい混乱してるじゃん」


「琴乃も抱きしめてあげようか?」


 そういって、私を抱きしめたまま頭をなでていた手を琴乃ちゃんへと伸ばす美奈子ちゃん。


「やめろ」


 しかし、真顔で断る琴乃ちゃん。


「えー琴乃こわーい、すずも抱きしめてあげるよおいでー」


 そう言って、琴乃ちゃんに伸ばしていた手を今度は涼花ちゃんに伸ばす美奈子ちゃん。変わり身はやっ!

 しかも涼花ちゃん特に顔変わることなく、いや少し嬉しそうに美奈子ちゃんの腕の中に納まった。


「ふふふ~両手に花だわ」


 どこか幸せそうな顔をしている美奈子ちゃんを横目に琴乃ちゃんが言う。


「麻衣、美奈子はすぐに人に抱き着くから嫌な時は振りほどいていいからな」


「あ、わかりました」


 何故か敬語で返してしまう程度には私は混乱しているらしい。女の子とはいえ同級生に抱き着かれる経験とかないからどう対応すればいいのか正解がわからない。しかしどうやらこのクラスでは日常的な光景らしくみんなも特に気にした様子はなくいつも通りだ。

 抱きしめられて嫌な気はしなからいいんだけど、私は抱きしめ返すべきなのかな?それともこのままでいいの?


「でさー麻衣。呼び方の話だけど」


 おおぅ。抱きしめたまま話戻すんだ。美奈子ちゃん手慣れてらっしゃる。


「麻衣の好きに呼んでいいんだよ? ね、すず」


 美奈子ちゃんは腕の中にいる涼花ちゃんに問いかける。

 やっぱりすごい光景だな。


「うん。好きに呼んでいい」


「ほらね、同級生なんだし気にせず呼んでみ」


「じゃ、じゃぁ。えっと、すず……ちゃん」


 試しにそう呼んでみると、すずちゃんが美奈子ちゃんの腕から抜け出し近づいてきた。え、何か間違えた?

 そう思った瞬間美奈子ちゃんとは逆方向からすずちゃんに抱きしめられた。


「良い」


 それだけ言って抱きしめ続けられる私。

 なんで?別にいいんだけど。というかすずちゃんってこういうキャラだったんだ。クールな感じだったから意外かもしれない。ちょっとキュンとしちゃった。


「すずだけずるい! 私も呼んで」


「えっとじゃぁ、みなちゃんっ」


「おお~ちょっと恥ずかしそうに言うのポイント高い!かわいいな~」


 すずちゃんが抜けて空いた手で再びみなちゃんに頭を撫でられる。撫でられるというより、どちらかといえばわしゃわしゃとペットを可愛がってるみたいな感じがする。


「じゃ、ついでに琴乃のことも呼んでみる?」


「いいの?」


 琴乃ちゃんに伺いを立てるみたいに目線を送ると頷いてくれた。


「ことちゃん?」


「つ!」


 なぜかことちゃんが自分の手で顔を覆った。いやなんでっ!


「わかるよ琴乃。桃音とはまた違う破壊力あるよね。こう、天然ものな感じ」


 天然もの?何が?すずちゃんも頷いている。

 私にはよくわからないけれど、三人の中では分かり合っているらしい。もっと仲良くなれば私も分かり合えるのかな?


 ちなみに、この後他のクラスメイトの呼び方も三人に合わせて変えることにしました。

 

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