お弁当
なんとか7キロを歩き切り、目的地である水族館に到着。
ここは地元では有名な水族館で、近くには遊覧船に乗ることができる船着き場や公園なども設置されている。
とりあえず船着き場近くの広場に集合しているんだけど、ここに来るまでの間に通った公園では小学生が楽しそうに遊んでいた。きっとあの子たちも歓迎遠足で来たのだろう。
学校を出たのが9時半頃で到着がだいたい12時。
途中1回休憩を挟んだとはいえ2時間くらいは歩いていたわけで正直もうクタクタだ。
きっと明日は筋肉痛。なんならもう筋肉痛。足痛い。
全員が集合し、高井先生からの注意事項を座って聞いているんだけど、お腹がすいて力が出ない状態の私は説明を右から左へと聞き流しながら早くお昼を食べさせてくれと心の中で抗議していた。
こんなコースを選んで、お弁当を食べさせてくれない高井先生……2回恨む。絶対恨む。今度の体育は美奈ちゃんや恵ちゃんと一緒に百合の間に挟まる男死すべし運動参加しようかな。
とまぁそんなことを考えているうちに説明は終わりやっと念願のお弁当タイム!
特に約束をしたわけではないけれど、涼ちゃん、美奈ちゃん、琴ちゃんと4人で集まり、先ほど少し仲良くなれた実世ちゃんを誘い5人でシートを拡げた。
ちなみに、あずちゃん未希ちゃんコンビはお弁当タイムになった瞬間、近くを散策していた大学生くらいのお姉さんをナンパしだし、それぞれ鈴城先生と三上先生から注意を受けていた。
そのまま流れで先生達とお弁当を食べるようで今は先生と談笑しながらお弁当を広げているのが見えた。
あの2人ブレないなぁ。
1年生はナンパしだした2人を見てかなり驚いた様子だったけれど、2、3年生は慣れたもので気にも留めてなかった。
そして、もう1組。
桃ちゃん、恵ちゃん、陽ちゃん、美優紀ちゃんの4人が私たちの近くでグループを作りお弁当を広げている。
こちらもまた大変賑わっている様子。
「あー、めぐのお弁当卵焼きあるやんっ! 1つちょーだいっ」
隣に座る恵ちゃんのお弁当を覗き込んだ陽ちゃんがそんなことを言えば、恵ちゃんはお箸で卵焼きを掴み食べさせてあげていた。
満足そうに卵焼きを食べる陽ちゃんの向かい側で同じく恵ちゃんの隣にすわる桃ちゃんが自分のお弁当から唐揚げを持ち上げる。
「めぐ、これね私が朝から作ったんだ。1個食べてみてっ」
手で受け取ろうとした恵ちゃんを華麗にスルーし、そのまま口元へ運び食べさせてあげていた。
そんなやり取りを微笑ましそうに眺める美優紀ちゃんに気が付いた陽ちゃんは、美優紀ちゃんのお弁当の中身も確認し卵焼きをねだる。
そして、恥ずかしそうな美優紀ちゃんからこれまたあーんで食べさせてもらっていた。
恐るべし陽ちゃんの妹力。
恵ちゃんは、そんな2人のやり取りをニコニコしながら眺めていた。
多分、百合尊いとか思ってるんだろうなぁ。あなたも十分百合百合してますよって教えてあげたい。
「……衣、麻衣っ」
急に自分の名前が呼ばれ驚く私のお弁当めがけて美奈ちゃんのお箸が伸びてくる。
「食べないならもらうよっと」
お弁当の中のミニハンバーグが華麗に奪われ、美奈ちゃんの口の中へ吸い込まれていってしまった。
何と言う早業って違う!
「ちょっそれ私のメインのおかず!」
「よそ見して食べてないからいらないのかなって思って~」
まるで見せつけるかのように美味しそうな顔して噛みしめている。
好きだから最後に食べようと思っていたのに、メラメラと怒りの炎が……というほどは燃えていないけれどそれでも少しだけ残念な気持ちにはなる。
「食べ物の恨みは怖いんだからね……」
半分冗談で怒った顔をして美奈ちゃんを睨みつけると、見かねた涼ちゃんが自分のお弁当からピーマンの肉詰めを私のお弁当箱に入れてくれた。
それを見ていた琴ちゃんもお弁当の中の椎茸の煮物を入れてくれる。
「2人ともありがとう!」
お礼を言いながら優しさを噛みしめていると、美奈ちゃんが急に笑い始めた。
「な、なに! どうしたのっ」
状況を掴めず、問いかけてみると美奈ちゃんは笑いすぎて出てきた涙を拭きながら話し始める。
「お礼言ってるところに悪いんだけど、今麻衣が貰ったの2人の苦手な食べ物だったから」
「へ?」
涼ちゃん、琴ちゃんの顔を見れば2人ともバツの悪そうな顔をしていた。
「涼が嫌いなピーマンと琴が嫌いなキノコ。優しさと見せかけて体よく押し付けられてるのみたら思わず笑っちゃっうよね」
「涼ちゃん?」
あ、目を反らされた……。
嘘だと言って欲しかった! 私の純情を弄ばれたっ!
「琴ちゃん?」
すがるような目で琴ちゃんを見つめてみると、こっちはこっちで何か言い訳を言い出した。
「ほら、食材も嫌々食べられるより美味しく食べてもらったほうが嬉しいだろ?」
そ、そういわれれば確かにそうなのかな?
いや、でも今はそういう話じゃないよねっ。
「もうっ。みんなして私を揶揄ってそんなに楽しいかっ!」
実際は、ピーマンも椎茸も私は好きだしそこまで怒ってないけれど、ここは心を鬼にしていつもいじりまくってくるこの人たちに一言言っておこうか。
何て言えばいいかな。なんて考えていると実世ちゃんがお弁当箱から綺麗な卵焼きを1つ私のお弁当箱にそっと入れくれた。
「み、実世ちゃん……」
「あ、その……良かったらどうぞ」
まだどこかぎこちなさはあるものの、今までならあり得なかった展開に少し感激する。
あ、いや流石に実世ちゃんは無いと思うけど確認しておこう。
「一応聞きたいんだけど実世ちゃんの嫌いな食べ物とかじゃ……ないよね?」
分けてもらった手前失礼なのは重々承知してるんだよ。
でもさ、そういう流れもありはするから念のため。ね?
「うん。私の好きなおかず」
「実世のところの卵焼きはそんじょそこらのお店じゃ真似できないレベルで美味しいから大丈夫」
何故かドヤ顔で解説をつけ足してきた美奈ちゃん。
そもそもこの流れが始まったのは美奈ちゃんが私のミニハンバーグを取ったからなんですけどね。わかってます?
いや、でもそこまでドヤ顔で言われると私としても味が気になってくるのは仕方がないわけで。
確かに見た目は高級旅館とかで出てきてもそん色ないレベルで綺麗な黄色をしてるんだよね。
高級旅館行ったことないけど。そう思うくらい綺麗ってことね。
見た目で味のハードルはかなり上がってしまったけど、大丈夫かな。なんて思いながら貰った卵焼きを1口食べた。
その瞬間口の中に上品な出汁の香りが広がり、そして後から出汁のうま味と卵のうま味が綺麗に混ざり合って舌の上に広がってくる。
巻き加減もちょうど良くて、固すぎずかといって決して緩いわけでもなく丁度いい噛み応えが満足感をアップさせている。
これはお弁当で、とっくに冷えているのにそれでも今まで食べた卵焼きの中で一番美味しかった。
この味を知ってしまった私は今後どんなに高級なお店の卵焼きを食べても満足できない体になってしまったんじゃなかろうか。
あまりの感動に無言で実世ちゃんの手をとり、固い握手を交わしてしまった。
実世ちゃんは顔を赤くしてすぐに手を放してしまったけれど……。
流石に私ウザかったかな。折角仲良くなり始めたのに何をやっているんだろうね私。




