遠足
「はぁ、はぁ……美奈ちゃんもう、無理っ」
「麻衣は体力ないなぁ、もう少し頑張って」
「そんな、はぁ……もうっ」
「あと少しっ」
さて、私が今何をしているかと言うと、今日は1年生の歓迎遠足なのです。
学校から水族館までの約7キロメートルを歩いているわけなんだけど、これがキツイっ!
普段学校と家の往復以外はほとんど引きこもりで運動不足の私にとって7キロという距離は永遠にも感じられるほど長い。
しかも、追い打ちをかけるかのよう坂道が多いっ!
学校をでてすぐに心臓破りの坂を上り、それからやっと下りかと思えば、また上り。なんとか登り切り、下った後はそこまで急ではないとはいえ、軽い登りと下りの繰り返し。地域柄仕方ないのはわかるけどさ、今回のコースわざわざ遠回りしてるのしってるからね私。
道を決めたのは確か体育の高井先生だったはず……恨む、一生恨む……。
「麻衣さん……ふぅ……お互いあとす、少し……がんばろ」
高井先生をどう恨んでやろうかと一人で考えていると後ろから恵ちゃんが話しかけてくれた。
恵ちゃんも私と同じく運動苦手組であることは体育の時間に確認済。
体力測定の時とか、シャトルラン10回くらいでお互いにギブアップした仲だったりする。
2人でヒィヒィ言いながらお互いに励まし合いながら歩き進めていると、後ろの方から視線を感じた。
気になり振り返ってみると私達から3メートルほど離れたとこを歩いている実世ちゃんと目が合い、そしてすぐに視線を逸らされた。
私、実世ちゃんに嫌われてる?
いやでも、嫌われるほどしっかり話したことはないよね。
どうしたのものかと考えていると、恵ちゃんが私が声をかけてくれた。
「どうしたの麻衣さん、急に黙って」
「あー、そのたまに視線を感じるなと思って振り返ると実世ちゃんと目が合うんだけどさ、すぐに逸らされちゃって。嫌われてるのかな私」
「それは無いと思うよ」
そういって優しく微笑みかけてくれる恵ちゃん。あったけぇ。
「多分、麻衣さんと話したいけど話せないでいるんじゃない?」
「そうかな?」
「折角だし話して見たら? 私間に入ってもいいしさ」
そういって恵ちゃんに手を引かれ実世ちゃんの元へ向かうことに。
どんな反応をされるかなとやや不安もありつつ、近づいてみると実世ちゃんは何故か恵ちゃんの体の後ろに隠れてしまった。
ダメ元で隣に行こうとしてみれば、実世ちゃんは反対側へと言ってしまう。
歩きながら恵ちゃんの周りをクルクル回るという傍から見ればなんともシュールな絵面だ。
というか、私ここまで歩いてきてかなり疲れているのに何してるんだろう……。
実世ちゃんもあんまり体力がある方ではないようで、2人してゼーハーしている始末。
うん、追いかけるのは止めよう。地味に恵ちゃん歩き辛そうだし。
私たちの追いかけっこが終わったのを見て、恵ちゃんが実世ちゃんに声をかけてくれた。
「実世さん、今日の遠足キツイよね。私も麻衣さんも息上がっちゃって」
「うん。私も」
おぉ!なんと自然な声掛け。相手に意識させ過ぎない話の始め方、勉強になります。
普段あまり人と話さない実世ちゃんも普通に話している。
「もうみんなだいぶ先に行ってるし、私たちはゆっくり歩いて行こ」
「うん」
これで一緒に歩いていても不自然なところがない。恵ちゃんのほんわかオーラも相まってここだけ凄く優しい世界に思えてくる。
おっと、いつまでも恵ちゃんにばかり頼るわけにはいかない。私も実世ちゃんと仲良くなりたいんだ。
恵ちゃんが作ってくれたこの流れに私も乗るしかない!
「実世ちゃんってたまに私の事みてない?」
「え、あっ」
一瞬の沈黙……。
間違えたぁぁぁ。
いきなり核心をついてどうする私!
会話が下手にもほどがあるだろう!
実世ちゃんの雰囲気がどんよりとしている気がする。
あの言い方じゃなんだか実世ちゃんを非難しているみたいに聞こえてしまった可能性もあるよね。
私はただ理由を聞きたかっただけなのにっ。
「あ、あぁえっと、そうじゃなくて、その……たまに実世ちゃんと目が合うけど話したことなかったからこの機会に仲良くなれたらなって思って」
「えっ」
実世ちゃんが顔をあげ、目が合う。
そしてすぐに逸らされ、誰もいない方を見て小声で何かブツブツと声を出し始めた。
「ま、ままま麻衣ちゃんが私なんかと仲良くなりたいって……。そ、そんなことあるはず、だって麻衣ちゃんは女神で私はただの石ころのような存在で声をかけてもらうだけでも恐れ多いのに仲良く……? これは夢? でも今キツイし、足も痛いし現実だよね、いやでも麻衣ちゃんがそんなこと言ってくれるはず……。私今日死ぬのかな」
声が小さいのと車道を走る車の音で何を言っているのか私には聞き取れない。
すぐに目線を逸らされてしまったし、私はやはり実世ちゃんに嫌われている?
不安になり隣の恵ちゃんを見てみると、何故かニコニコと微笑んでいた。
「実世さん、麻衣さんね実世ちゃんに嫌われてるんじゃないかって不安みたいなんだ」
1人の世界に入ってしまっている実世ちゃんに恵ちゃんがそういうと、実世ちゃんは私を見ながらハッとした表情をした。
「ち、ちがうのっ」
今まで聞いたことのない声のボリュームで驚いてしまう。
実世ちゃん、こんな声も出せたんだ。
「き、嫌いとかじゃなくて、麻衣ちゃん可愛いから話しかけるの恥ずかしいというか、私なんかが視界に入るのも烏滸がましい気がして」
「なるほど、要は恥ずかしかったってことだね。いや~麻衣さんも隅に置けませんねぇ」
そんな恵ちゃんの揶揄うような声が遠くに聞こえるほど私は驚いていた。
だって私が可愛いって言って恥ずかしがってるんだよ?
女の子同士の軽い感じの可愛いはね、この学校に来てから何度も聞きはした。それでもまだ照れるけど。
でもなんていうか、実世ちゃんは本気で言ってくれてる感じがして照れくさい。本気と感じている私が逆に烏滸がましいんじゃないかと思っちゃうくらいには私も混乱中である。
「あ、え、あー……そのありがとう実世ちゃん。でも、私達同級生で同じクラスの仲間だしさ、烏滸がましいとかそんなのなくて、私実世ちゃんと仲良くなりたいな」
なんと返すのが正解か迷った結果、私には正直に伝えるすべしかなくて、思っていることをそのまま伝えた。
すると、実世ちゃんいきなり手で顔を覆い頷いた。
照れ屋? な実世ちゃんとこれから少しずつ仲良くなれると良いな。
ていうか水族館にはまだつかないの……。




