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あーん

「そういえば、なんだかすごくいい匂いがすんだけど何作ってきたの?」


 美術部の話が一段落し、ずっと漂っている美味しそうな匂いに思わず聞いてしまうと、美奈ちゃんが手に持っていた袋を開けながら説明してくれる。


「今日はねー、これっ!」


 そういって取り出されたのは可愛いウサギ型のクッキーだった。


「クッキーだ! 美味しそう……」


「はい、あーん」


 なんと美奈ちゃんがクッキーを私の口元に伸ばしてきた。

 これはまさか、クッキーをくれるといいうことなのか。いやでも、え、本当に?


「え、いいの!?」


 念のため確認を取ると、美奈ちゃんは当たり前でしょとでもいうような表情で頷いた。


「じゃ、じゃぁ遠慮なくいただきます」


 差し出されたクッキーを頬張ると、サクッといい音が鳴った。ちょうどいい甘さとバターの香りが口いっぱいに広がる。

 美味しい……。売り物だと言われても疑わないレベルで美味しかった。


「ありがとう。すっごく美味しかった」


 お礼を言うと、美奈ちゃんは満足そうに笑った。


「私のもあげる」


 横から話しかけられ振り向けば、涼ちゃんだった。涼ちゃんが差し出したのはクマを型どった茶色のクッキー。恐らくココア味だろう。


「ありがとう!」

 

 お礼を言って、涼ちゃんが持つクッキーを頬張る。

 サクッとまたいい音が鳴った。先ほどの美奈ちゃんのクッキーとはまた違い、こちらはココアが入っているからか少しビターなお味でこれはこれですごく美味しい。


「こっちも美味しい~、何枚でも食べられそう」


「もっと食べる?」


 涼ちゃんはもう1枚クッキーを取り出し私の口元へ差し出した。


「え! 嬉しいけど流石に悪いよ。折角涼ちゃんが作ったんだし」


 流石に何枚も貰うのは悪いと思って断るが、涼ちゃんは手を引っ込めない。


「私達さっき出来立て食べてきたし、別にいい。なんなら全部上げるけど」


「全部っ!? いやいやいや、でも!」


「どっちかと言えば、貰ってくれた方が助かる」


「本当に? じゃぁ貰っちゃおうかな」


 クッキーの入った袋を受け取ろうと手を伸ばすと、何故か美奈子ちゃんに袋を取られてしまった。


「え……」


「どうせなら、涼に全部あーんしてもらったら? それとも今居る全員からされたい?」


 ニヤニヤと楽しそうに笑っている。

 絶対私があたふたするの見て楽しんでるよこの人!

 

「自分で食べられるし、同性同士なんだからあーんくらいなんともないからね。面白い反応なんてできないと思うよ私」


「ふーん、じゃぁやってみる?」


 そういうやいなや、美奈子ちゃんは教室にいるみんなに声をかけ集め、事情を説明する。

 反応はそれぞれだけれど、美優紀ちゃんが恥ずかしいと遠慮する以外は皆面白そうだと即了承。まともなのは美優紀ちゃんだけだったか……。琴ちゃんとか、恵ちゃんは良識人枠として反対してくれると思ったのに、意外とノリはいいんだよなぁ。

 

「じゃぁ、まずは琴からやる?」


「別にいいけど。んじゃ、ほら麻衣、口開け……いや」


 ニヤッと笑ったかと思うと、琴ちゃんは左手で私の顎を掴んできた。

 そう、いわゆるあごクイの姿勢である。ってであるじゃないよ! ナニコレ、滅茶苦茶恥ずかしいんですけど。なんでこんなことになった!


「ほら麻衣、お口開けて」


 ノリノリで続ける琴ちゃん。目線で抵抗しようにもクッキーを近づけられると口を開けてしまう。確かにクッキーは口に入ってきたが、みんなにみられながらのあごクイで恥ずかしさのあまり味がしない。

 なにこのイケメン……。手慣れている気がしたんだけど気のせい? もしかして日常的にこんなことやってたりする?


「次は~桃やる?」


 次に美奈ちゃんに指名されたのは桃ちゃんだった。袋からクッキーを1枚取り出すと、楽しそうにニコニコしながら私の目の前までくる。


「じゃぁ、麻衣ちゃん、あーん」


 先ほどの琴ちゃんのこともあり身構えていたが、普通のあーんで安心した。私がそのまま口を開きクッキーを口に入れようとした瞬間、クッキーがUターンして離れていき、そして桃ちゃんが1口かじった。


「うふふ~」


 楽しそうな桃ちゃんを見て私は思い出した。

 桃ちゃん、イタズラ大好きだったな……。


 恨みがましい目で桃ちゃんを見つめていると、私の視線に気が付いたのか桃ちゃんがジーっと見つめ返してくる。

 イタズラ好きで凄く可愛い堕天使桃ちゃんに見つめられると、なんだかドキドキしてきて顔が赤くなっていくのを感じる。この子絶対自分の顔の良さ自覚してるよ!


 桃ちゃんから目を反らすこともできずにいると、桃ちゃんが手に持っているクッキーを再び私へ伸ばしてきた。

 吸いつけられるように、反射的に口を開くと今度はちゃんとクッキーが入ってくる。



 ん?

 今私が食べたクッキーって、さっき桃ちゃんがかじったやつでは……?


 つまり……間接キッス……。


 いやいやいや、女の子同士だしノーカン? 普通のことなの?

 でも私、友達と回し飲みとかしたことないし、正真正銘初めての間接……あーーーいや、違う。ノーカンノーカン! 意識する方がおかしいよね、だって皆特に気にしてないし。普通の事なんだきっと。

 落ち着け私、そうcoolにいこうじゃないか。


「じゃぁ次は私がやってよか?」


「お、陽いく? いいよ~」


 私が1人悶々としている間に、陽ちゃんが立候補し、美奈ちゃんがGOサインをだしていた。

 ニヤニヤしながら近づいてくる陽ちゃん。この子は何をしてくるんだと思わず構えてしまう。


 袋からクッキーを取り出す陽ちゃん。

 そしてそのクッキーをなんと口に咥えだした。


 いや、まさかそんな。あの純粋な陽ちゃんがそんなことするわけ……。


「ん!」


 はい、そんなことありました。

 クッキーを咥え差し出してくる陽ちゃん。

 

 周りを見てみると美奈ちゃんと琴ちゃんは爆笑し、涼ちゃん、桃ちゃん、恵ちゃん、美優紀ちゃんは驚いていた。


 「麻衣、流石にこれは恥ずかしいかな~」


 笑いながら言う美奈ちゃんの言葉に何となく意地が出てきてしまい、陽ちゃんが咥えるクッキーに勢いよくかじりつきにいく。

 まさか私が食べるとは思っていなかったのか、陽ちゃんは驚いた顔をしているが、正直やけくそでかじりついた私には関係ない。


 そして、クッキーを口に含んだ瞬間、クッキーとは別の軟らかい感触が唇に当たった気がした。


 思いがけない感触に、陽ちゃんと私、2人が同時に距離をとる。


 い、今のはまさか。


 あまりの衝撃に頭が働かずゆっくりと陽ちゃんをみると、陽ちゃんは顔を真っ赤にして手で唇を抑えていた。


 あの感触はやっぱり……。


 私達2人の反応にみんなは何が起きたのかわからないとでも言いたげな表情をしていた。見えていなかったのかもしれない。

 

 ここで私まで変に照れてしまえば唇に触れたのがみんなにバレてしまう。それはなんというかあまりにも恥ずかしすぎる。


 「あ、あーもうこんなじかんだーはやくかえらないとせんせいにおこられちゃうー」


 棒である。完全な棒読みだ。

 私に演技の経験なんてないんだから仕方がない。ここは勢いでごまかすしかないのだ。


「ほら、みんなはやくかえろっバスもうきちゃうよー」


 急いでバックを手に取り教室を出ていくと、みんなも慌てて帰る準備をし教室をでてくれた。

 バス停までの帰り道、みんなの後ろでいまだに顔が赤い陽ちゃんの隣へ行き話しかける。


「陽ちゃん、いい? さっきは何も無かった」


「なんも? でも口に……」


「それは気のせい! 私は何も感じなかったから気のせいだよ」


 陽ちゃんの言葉にかぶせ、そしてまるで洗脳でもかけるかのように目を見てゆっくりと語りかける。


「気のせい? そっか気のせいか」


「そう気のせい。OK?」


 最後の確認をすると、陽ちゃんはうんと頷いた。

 そう、さっきのは気のせいなのだ。それ以外は認めない。

 私のファーストキスはまだ誰にも奪われていないのだ。

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