はじまりのはなし その2
「涼花おはようって、その子誰?」
教室に入ってきたのは5人の女の子達。先頭に立っていた女の子が涼花ちゃんに挨拶をすると同士に私の存在に気づいたようで、5人全員が駆け足で私の周りに集まってきた。
「転校生だって」
涼花ちゃんに目配せされて、とりあえず名前を名乗る。
「浜岡麻衣です。よろしくお願いしますっ」
その場にいた涼花ちゃん以外の5人が口々に挨拶を返してくれる。
「ウチらも自己紹介するね。私は吉野 美奈子」
茶髪の髪をふわっと巻いている綺麗系の女の子。ハキハキとした話し方や5人の立ち位置から多分リーダー的な子なんじゃないかなと予想。
「あー、うちは末平 琴乃」
次に自己紹介をしてくれたのはウルフカットの女の子。メガネの奥の目付きが鋭くて、一瞬怖いなんて思ってしまったけれど、身長は157cmの私より全然小さくてそのアンバランスさがちょっと背伸びしている子のようにも見えて怖いという印象はすぐに消え去った。
「はいはい!次私ね。私は野川 陽菜。まいちん、よろしくね〜〜」
「まい……ちん?」
「そそ!ばり可愛かろ?」
そう言って満面の笑みを浮かべている陽菜ちゃん。
染めたのであろう金髪に、着崩した制服、バッチリメイクもしていて、おまけにこのコミュ力。
これが陽キャという生き物かと一瞬で納得してしまう。
「はる、いきなり転校生困らせんなよ」
押され気味の私を心配してくれたのか、琴乃ちゃんが助け舟を出してくれた。
「えーー、全然こまっとらんやろ。ね、まいちん」
「あ、えっと。うん」
特に圧が強いわけじゃないんだけど、陽菜ちゃんの笑顔が眩しすぎて体が勝手に肯定で返してしまった。
というか、1番ギャルっぽいのに1番方言使ってるのギャップが凄い。
「ほらーこっとん考えすぎなんよ!」
「なんかごめんな。コイツただのアホなだけで悪いやつじゃないから」
申し訳なさそうにしながらも陽菜ちゃんのフォローを入れてくる琴乃ちゃん。クール系とギャルって相性悪そうだけどかなり仲良しなんだろうなんて頭の片隅で考えてしまう。
「アホじゃなかし!」
「はいはい、とりあえず一旦黙ろうか?桃と恵がまだ自己紹介してないからね」
手を叩きながらそう言って方向修正してくれた美奈子ちゃん。やっぱりリーダーなのかな?
「えっと、麻衣ちゃん初めまして。山北 桃音だよ。これからよろしくね」
桃音ちゃん……ハチャメチャに可愛い!!
上目遣いで手を握りながら自己紹介をしてくれて、あざとい!! だけど可愛い!!
琴乃ちゃんと同じくらい小さくて、明るめの茶髪、ふわふわのツインテールで女子の中の女子と言う感じ。
なんというか、猫っぽい感じの女の子だなって印象。
「最後は私かな。私は林恵、よろしくね」
最後に自己紹介してきた恵ちゃんは、黒髪ベリーショートで、みんなと比べてふくよかな体型の女の子だった。全体的に柔らかな印象で凄く優しそう。
「いきなり全員の名前覚えるのは大変だろうし、少しずつで大丈夫だよ。名前くらい何回でも教えるし」
あ、優しい。恵ちゃん絶対優しい人だ。
こういう何気ない気配りが嬉しい。女子校って実は天国なのか?今のところ優しい人しかいないんだけど。誰だ、女子校は怖いとか言ったの!
でも、まだ机の数的に来てない子もいるだろうから安心と決めつけるのは早いかな。このあとすっごいヤンキーとかく
るかもしれないし。
「あっ」
突然美奈子ちゃんが大きな声を出したため、体がビクッとした。みんなも何事かと美奈子ちゃんの方を一斉に見る。
「美奈子、急にどうした」
全員を代表して琴乃ちゃんが尋ねると、美奈子ちゃんは興奮気味に私に一歩近づいた。
「このイラスト、もしかして麻衣が書いたん!?」
そう言って美奈子ちゃんが指さしたのはさっき私が書いていたイラストだった。
「そうだけど、美奈子ちゃんこのキャラ知ってるの?」
「もちろん!このゲーム大好きでさ〜〜しかもこのキャラ私の推し。ヤバ。上手すぎる、麻衣って神絵師なの?天才すぎる」
勢いよくベタ褒めされ、私はあたふたしてしまう。褒められた嬉しさと同じコンテンツが好きな仲間がいる嬉しさが合わさって泣け無しの語彙が浮かんでは消えていく。
「おぉ、本当に凄い。私もこのゲーム好きなんだ。え、麻衣さんは公式なの?イラスト原作?」
美奈子ちゃんの隣に立ってテンションが上がっているのは恵ちゃん。まさかの同じコンテンツ好き2人目の登場に私のテンションもうなぎ登り。今までオタクな話を出来る友達なんていなかったから嬉しすぎる。
私が感動していると、琴乃ちゃん、陽菜ちゃん、桃音ちゃんも机の上のスケッチブックを覗き込んで褒めてくれる。
「やば。麻衣天才やん」
「ばり上手いやん。プロやんこれ」
「えーー、麻衣ちゃん凄いっ」
イラスト書いてて、キモがられることや興味本位で話しかけてきて引いていく人ならこれまでにいたけれど、こんなに目を輝かせて褒めてくれる人はいなかった。
親だって、絵なんか書いててもしょうがないでしょって言うだけで褒めてくれたことなんて無かったし。あまりに嬉しくて目頭が熱くなっていくのを感じ急いで目を押える。
そんな私の背中に手が添えられたのを感じて隣を見ると、涼花ちゃんだった。私の背中を擦りながら5人の方を見て涼花ちゃんが静かに呟く。
「みんな優しいでしょ。 私も去年の夏に転校してきたんだけどすぐに暖かく迎え入れてくれたんだ。不安もあると思うけど大丈夫。すぐに馴染めるよ」
この学校でなら私は楽しく過ごせるかもしれない。
そんな期待が不安よりも大きく膨らみ出した瞬間だった。