百合の間に挟まる男は断じて許さい
今日は転入してきて初めての体育がある日。
突然だけど私は運動全般が苦手なため朝から憂鬱だ。
それに、体育の先生には今まで1度も会ったことがない。小さな学校故か教科全てを常勤の教師だけでは賄えず、かと言って、常勤で雇ってしまうと恐らくだが仕事が足りない。理由は私の想像でしかないけど、全くの見当違いでも無いと思っている。確証もないけど。
まぁ、理由は定かではないがそんな理由からいくつかの教科は非常勤の先生が担当としているわけだ。
体育もその1つである。聞いた話だと男の先生らしい。
体育の先生って大体が熱血だし(私調べ)
大体厳しいくて怖い(私調べ)
だから、どんな先生なんだろうという不安と体育そのものへの苦手意識のダブルコンボで休んでしまいたかった。
良いのか悪いのか、最近の私の体は絶好調で今日も元気だけはあるのが今だけは恨めしい。
体操服に着替える時にみなちゃんからまじまじと下着を見られていたような気もするが、ソコにツッコム余裕は無かった。
「へー、意外と大人っぽいのつけてるね」
なんて声も聞こえてない。そう聞こえてないのです。恥ずかしいから記憶から抹消したわけじゃない。
今日の体育は体育館でおこなうらしく、体育館シューズに履き替えてみんなで向かう。
「大丈夫?顔色悪い気がする」
私の隣を歩いていたすずちゃんが心配して声をかけてくれる。
「大丈夫だよ……。あのさ、つかぬ事をお聞きしますが体育の先生ってどんな人?」
「んー、エセ関西弁」
「エセ関西弁?」
「そ。大学の時に関西居たら友達の関西弁が移ったって言ってた」
「移ったのにエセなの?」
「友達がエセ関西弁だったらしい」
「なるほど?」
関西弁と聞くと何となく怖そうなイメージがあるのに、エセになった瞬間ちょっと小物感が出るのは何故だろう。
しかしこの情報のお陰か先生に対する怖いイメージ像が崩れて少し緊張がほぐれた気がする。
体育館につくと、ステージの淵に座りみんなでお喋りして授業開始を待った。
たかだか数分の時間なのに未希ちゃんはあずちゃんの肩に頭を預けて眠ってるし……自由人だなぁ。
そして、チャイムから遅れること3分。遂に体育館の扉が開く。
入ってきたのは20代後半から30代前半と思わしき男性。
イメージしていた筋肉ムキムキって感じではなく、一般よりちょっと筋肉ついてるかな?くらいの何の変哲もない人だった。
道歩いててすれ違っても気がつくか微妙なくらいに普通だ。
「はーい、とりあえず準備運動するから間隔あけて整列してや〜って、お? 君は確か転入生やんな」
全体を見回していた先生が私に気がついて声をかけた。
「あ、はい。えっと、浜岡麻衣です。よろしくお願いします」
「おぅ!俺は高井や。よろしくな〜」
本当にエセ関西弁だ……。
しかもなんかフレンドリー。
この人本当に体育の先生?このタイプに出会ったことないんだけど……。
挨拶もそこそこに準備運動ができるように広がって整列をする。
「ん? なんか人数足りへんな」
高井先生が辺りを見回しながら言った。
私も見てみると、列に穴が開いているようで確かに人数が足りない。
「芝崎と田中はステージで寝てる」
ことちゃんの声がし、ステージを見ると先ほどあずちゃんの膝で寝ていた未希ちゃんだけでなく膝枕している側のあずちゃんも器用に座って寝ていた。先生が入ってきたことに気が付いていないということは中々しっかり眠っているのかもしれない。
「またか。ほら芝崎、田中、起きr……っ」
高井先生が言い切る前に一瞬ブルっと震えたかと思うと、勢いよく私たちの方を向いた。
何が起こった?
なぜか顔が青ざめていく先生に私は何もできず首をかしげる。
「こ、こここ、これはちゃうで! 起こさんと授業できひんやろ……な?」
震える声で言い訳のようなものを言い始める高井先生。いよいよ訳が分からなすぎて隣のめぐちゃんを見ると、ニコニコ笑っていた。
いや、笑ってはいるんだけど目が全く笑っておらず背筋に冷たいもが流れたような感覚がした。
いつも穏やかなめぐちゃんの見たことのない表情に思わず絶句し、どうにかしてほしくてめぐちゃんとは反対側であるもう片方の隣にいるみなちゃんの方を向く。
しかし、みなちゃんは鋭く高井先生をにらみつけていた。眼力の強さに思わず震えあがりそうだ。
え、え?私いまなんかやばい人達に挟まれてない? なんで二人はこんなに恐ろしい顔をしてるの!? 状況が飲み込めない。後ろのすずちゃんの方を向きたいけど、すずちゃんまであんな顔してたらと思うと怖くて振り向けない。
その場でただ固まるしか取れる行動がない私の耳にみなちゃんの声が聞こえた。
「百合の間に挟まる男は」
ん?
「「死すべし」」
みなちゃんとめぐちゃんの声が重なった。
――百合の間に挟まる男は死すべし
私の聞き違いでなければ二人は確かにこう言ったよね?
このお二人は何を言ってらっしゃるの?
未希ちゃんとあずちゃんのあの空間を高井先生が壊しそうだったから二人が怒って、その殺気で先生は震えあがってたの?
おバカだ……。
「授業中なんだから起こさないとダメに決まってんだろ。二人とも落ち着けっ」
ことちゃんがそう言うと、みなちゃんにはすずちゃんが、めぐちゃんにははるちゃんがチョップをした。
良かった。ちゃんとまともな人がいてくれた。
チョップのおかげか二人の顔はいつも通りに戻り、殺気も消えている。
高井先生も安心したのかふぅっと息を吐いた。
「二人ともさ、体育の度にその変なスイッチ入れるなよ……」
体育の度にこんな風になってるのかこの二人は。
高井先生、いつもお疲れ様です……。
思わず先生に同情してしまう。
「ごめんなさい……。百合空間に男性が入ってくると反射的に……」
申し訳なさそうに頭を下げて謝るめぐちゃん。
すごい癖だなぁ。私の中でめぐちゃんは常識人のイメージだったのに良いのか悪いのか変わった人認定しそう。
「だってさー、百合という尊き空間にはそぐわない異物が……」
美奈ちゃんの方は、口をとがらせながら何か言っている。異物って……。
「美奈子は先生を異物って言わない。高井先生体育館の端で小さくなったじゃん」
ことちゃんが指さす先には、体育館の隅で体育座りをしている高井先生の姿があった。
「授業中なんやからしかたないやん? 俺かて別に混ざりたいわけじゃないし。ただ起こそうとしただけやん」
先生……。
「だいたい俺、女子高生興味ないねん」
ん?先生?
「女子高生は若すぎる。もっと人生経験を積んだ大人な女性がタイプなんや」
ちょっと、せんせーい! 何か口走ってますよ!
「はぁ……またこうなった。ほっとけばすぐ先生ももとにもどるから準備運動でもしとくか」
「いいの? 放っておいて」
「いつものことだから大丈夫でしょ」
何かすごい対応になれてるなことちゃん。
いつの間にか美優紀ちゃんが未希ちゃんとあずちゃん起こしてるし。
まぁ、ことちゃんが言うんだから多分本当に大丈夫なんだろうな。
こうやって、私の初体育は始まったのでした。
授業でやったバトミントンはやっぱり難しかったです!




